暗殺者の遺言書

軽見 歩

死者より、友人たちへ

 暗殺業は人の命に価値を与える職業だ。



 矛盾していると思うか? では君は人の命をどう思っているのかな?




 もちろん大切な人は居るだろう、好意か憎しみかは別としてね。しかし道を歩いて出会う人々のが命が皆大切かな?


 道を歩いて、たまたま出会った相手と軽いお喋りをして、別れた相手の死をある日知る事になる。もしそうなったらと聞けば、大抵の人は悲しいと答えるだろう。




 当然だ、どうでもいい人間なら印象にも残らない。




 つまり今の問いは人の命の価値を計る問いとしては無意味と言う事だ。もし本当に例に出した人物が死んだとしても、その人物だと認識すらできないのが現実だ。


 死そのものに対する恐怖を感じる事はあるだろうがね。大抵は食事中にテレビニュースの死亡事故を見てしまった程度の感情しか浮かばないだろう。



 程度の差はあれ人間、誰だって赤の他人のはどうだっていいものだ。それが自分にあてはめられるのが嫌で駄々こねるヤツは居るだろうがな。



 さて、その人間の私生活の情報が流れて来たとしよう、職業、好きな食べ物、良く立ち寄る店、交友関係、実にどうでもいい情報だ。だが一度ひとたびそいつを殺せと依頼が入れば重要な資料になる。


 今まで、価値がないとも判定する気も起きない無関心な人の人生に、突如価値が生まれたと言う訳だ。依頼者にとっては金を出しても終わらせたいその人の人生、これだって十分価値と言える物だ。




 暗殺者は基本的にターゲットの生活スタイルに馴染もうとする。ターゲットが安静にしている時が生理的に殺しやすいからだ。


 ターゲットを警戒させたり恐怖心を与えるなど、アドレナリンを分泌させてしまうと抵抗ができる。心臓にナイフが刺さりながら全力で100メートル走をやり遂げる者など珍しくもないと言えば分かりやすいだろうか?


 そしてターゲットの生活を乱さなければ、仕事終わりに警察に容疑をかけられずにすむ。調査対象はターゲットの関係者か素行の悪い地元の人間で、暗殺者は調査対象外になる。


 この為、暗殺者は自分の生活圏に居るターゲットの仕事は受けない。ターゲットや依頼者との関係も出来るだけ薄くする為、仲介業者を通じて仕事を受ける。


 その為、遠出しての仕事になるのだが・・・。そのおかげで映画とかである様な前金での仕事は無い。万一旅行気分で仕事先で豪遊されるわけにはいかないからだ。



 殺しのプロが何を言ってるかと思うかもしれないが暗殺者も人間だ。その辺りが緩い奴も居るし、ストレスが多い仕事だ、真面目な奴が何かのきっかけで荒れる事も有る。



 逆に言えば、前金の仕事はそれだけ怪しいと言う事でもある。この辺りに気が回らない仲介業者の仕事は受けるべきではないだろう。必要ならこのような依頼が来た場合、新たな身分とアジトを用意し引っ越すべきだ。三流との関係を断つのも仕事の内である。



 だが、この仕事は好きだ。ターゲットを通じてちょっとしたドラマを垣間見れる。ターゲットを始末した後も、そのターゲットが死んだ穴を埋める様に周りの人間が動くのを見るのも魅力だ。人の生を感じられる瞬間でもある。

 


 だが、これはフリーランスで仕事を受けて来た時の事だ。名を上げて組織にお抱えになってからは違う。



 組織の仕事は役割分担がはっきりしており、私はただ与えられた役目を果たすだけとなった。暗殺の醍醐味であるターゲットの生活を加味しながらプランを練る機会などなくなってしまったのだ。


 戦闘力が評価されてからはさらにひどい。ライバル組織から放たれるエージェントの行動を予測し、ただ淡々と来るものを始末していく。


 フリーだった頃の命の尊さを感じる事などない、実に軽い殺し。組織ナンバーワンの殺し屋ともてはやされたが、まるで畑に来る害獣を始末しているだけの様な仕事に飽き飽きしていた。


 それでも自分が生きている人を殺しているのだと自分に言い聞かせる為に、物言わぬ生物しか食わぬ事にした。意識あるターゲットと食材の差別化を計り、せめて仕事と食生活を分けたかったのだ。


 便宜上ベジタリアンと言っているが、本物のベジタリアンが聞いたら怒るだろうな。



 しかし、それでも命を賭けているのには変わりない。私を狙ってライバル組織が各組織のナンバー2の腕前の殺し屋を差し向ける計画を立てて来たのだ。私の命にも値が付いたのだ。


 私はその奇妙な暗殺者達を返り討ちにし、その組織幹部が集まっている場所に行ったのだが・・・、そこで私が返り討ちに会い死んだ



 お前が知る様に、38口径や45口径などの啄まれ害獣に食われたのだ。良い仕事だったよ。



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「プルルルルルルル」


「んん・・・、電話か」


 私は電話の音で目が覚め、病院のベットから起き、受話器を取った


「元気にしてるかファウスト」


「ああ、経過は良好だ。うまい所を狙ってくれたからな」


 傷を治すついでに指紋を焼いた手は感覚が戻り、整形した顔も包帯を外して確認したところ安定していた


「それは良かった。こっちも何とかやってるよ。組織の事は任せな」


「あの組織の事はいい。もうすぐ退院だ、そのまま消える」


「そうか、達者でな」


「お前達様に手紙を書いている所だ。お望み通り私の暗殺業に対する考えも書いておいたぞ、月並みな内容でつまらないがな」


「ハハ! それはどうだか」


「手紙の続きを書くから切るぞ」


「おう、じゃあな」


 私は電話を置き、昨日書いた手紙の続きを書いた




     --------------------------


 オリハルコン殺し屋ナンバー1の地位を捨て 私はまたフリーの暗殺家業に戻る為、所属していた組織を貴様らに売り渡して自分の死を無事偽装できた訳だ。



 経過は良好、仕事を依頼したい場合は以下の連絡先くれ


■■■■の■■


パスワードは●●●●●●●●●●


 簡単な暗号だから直ぐに解けるだろう。



さらばだ、愛しくも憎い友人たちへ

              良き人生を




レオ・ヘルメス・ファウスト改め、ジョン・ロウより



END

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