141・未知の世界が私を待っている

 私たちは船に乗り、カナワ神国へ戻っている。

 魔王バルザックとの和平交渉の結果を、アマラ陛下に伝えるために。

 アマラ陛下に伝える最初の言葉は決まっている。

 依頼達成。

 私は魔王バルザックとの会話を思い出す。

「ミサキチ……いえ、魔王バルザック。

 貴女は私よりずっと長い時間、この世界を生きてきて、その分、多くの邪悪な人間を見てきたのだと思う。

 でも、それでももう一度、人間と和平を結ぶ努力をして欲しい。

 人間の全てが悪い人じゃない。良い人はその何百倍も、何千倍も、何万倍もいる。

 そんな人たちまで、一緒にしないで欲しいの」

「そうだな。そうであった。妾は忘れていた。忘れてしまっていた。そして、忘れていた事を思い出した。

 おまえのように正義の力を信じる者がいることを。

 そして、一人でもおまえと同じ人間がいる限り、人間は信じる価値があることを」

 魔王バルザックは和平条約文書に署名した。

 これで魔王バルザックとカナワ神国との和平条約が結ばれた。

 でも、これは始まりにすぎない。

 これから魔王バルザックは他の国とも話し合い、人間と魔物が共に暮らす、平和な世界を作り上げていかなければならない。

 もしかすると、魔王バルザックは魔物と人間の争いを終わらせ、世界を救う聖女になるのかもしれない。



 さて。

 これで私も、これから起こるであろう出来事の知識は完全に無くなった。

 事前知識はもうない。

 正直少し不安だ。

 だけど、わくわくしている。

 これから起こる出来事は、もう始めから分かっている出来事じゃない。

 未知の世界が私を待っている。



 そしてもう一つ。

 ラーズさまの剣についてだ。

 ラーズさまの本来の旅の目的は、自分の魔力に耐えられる剣を見つけること。

 そして、その可能性がある剣は二本しか残っていない。

 神銀の剣カリバーン。

 破滅の剣ベルゼブブ。

武器魔法付与エンチャントウェポン

 最初は神銀の剣カリバーンから。

 ラーズさまの膨大な魔力が流れ込み、そして亀裂が入った。

「神銀の剣カリバーンでも耐えられぬ魔力量。力が衰える前の妾をも超えておるな」

 と魔王バルザックの言葉。

 ラーズさまは神銀の剣はバルザックに返すことにした。

 これから先も、バルザックには必要だろうから。

 残るは破滅の剣ベルゼブブ。

「武器魔法付与」

 ラーズさまの膨大な魔力が破滅の剣ベルゼブブに流れ込む。

 そして魔力がラーズさまと剣の間で循環する。

 全力で魔力を流し込んでも、破滅の剣ベルゼブブはその魔力が一定量を超えると、魔力の供給源であるラーズさまに還元し、調和を保つことで、砕けることはなかった。

 力を吸収すると言う剣の特性が、使用者であるラーズさまに魔力を戻すという形になったのだ。

 破滅の剣ベルゼブブはラーズさまの魔力に耐えた。

「やった! やっとラーズさまの剣が見つかりました!」

 私は思わず飛び上がる。

 ラーズさまも喜びに満ちた笑顔で、

「ありがとう、クレア。君のおかげで、いや、君たちみんなのおかげで、自分の剣を見つけることができた。本当にありがとう」

 頭を下げて感謝の礼を取るラーズさま。

 セルジオさまとキャシーさんも嬉しそうに、

「ハッハッハッ。これで、本格的にラーズ殿下の剣技を拝見させていただくことができますな」

「ウフフフ、楽しみだわ。ラーズ様の筋肉はどんな剣技を繰り出すのかしら」

 そしてスファルさまは、

「なあ、今度、俺と剣で試合をやってみないか。ほら、前は無手だっただろ。やっぱり、最強の剣士を決めるには剣じゃなくっちゃな」

「ハハハ、それも良いな」

 みんな、ラーズさまに剣が見つかったことを喜んでいた。

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