117・全然聞く耳を持っていない!
カナワ神国の西側、熱帯樹林が生い茂る密林を私たちは進み、その神殿に到着した。
封印の神殿。
ここに魔神が封印されている。
ゲームでは四天王ラドゥとの戦闘は、ラドゥを含めた巨人 八体、魔王八巨衆と戦うことになる。
魔神を手に入れずに戦うと、魔王戦以上に苦戦する。
だが、魔神を召喚して戦えば、有利な戦況に持ちこめた。
魔王バルザックはそのことをラドゥに話しているはず。
だから魔神を手に入れ、それを交渉材料にする。
そして誰一人殺さずに説得しなければならない。
バルザックを本当の意味で止めるためには。
それは、この封印の神殿でも同じことが言える。
カスティエルさまはこの神殿に十二人の
武闘祭で見た、頭部が動物の、妖鬼、闘鬼、戦鬼などの上級鬼。
そして
そんな強敵を殺さずに済ますことができるだろうか?
話を聞いてくれると一番助かるのだけど。
神殿の前で、大きな篝火が焚かれている。
十二人の鬼が篝火を中心に円陣を組み、お経の様なものを唱えている。
全員、動物などの頭をしているが、大きな角が生えている。
鼠。牛。虎。兎。竜。蛇。馬。羊。猿。鳥。犬。猪。
戦いになった時に警戒しなければならないのは、アスカルト帝国武闘祭で見せた、あの
十二人が魔力を合成することで、達人級の闇の魔法を行使する。
しかも、その効果は広範囲にわたる。
使われたら、私たちは動けずにダメージを受け続けることになる。
その対策として、キャシーさんが身を隠し、もし戦闘になるようであるなら、
さあ、行くわよ。
私たちは十二武鬼の前に進み声をかける。
「皆さん。お話があります。どうか私たちの話を聞いてください」
十二武鬼は無言で立ち上がり、一列に並んだ。
聞いてくれるとは思えない様子だけれど、とにかく先を続ける。
「私は四天王ラドゥ、そして魔王バルザックを説得したいと思います。五百年前のように人間と和平を結ぶことをもう一度してもらうために。
ですが、力の無い者の言葉を聞くとは思えません。彼女たちと話し合いをするためには、魔神が必要です。どうか、私たちを通してください」
十二武鬼は無言で獲物を構えた。
全然聞く耳を持っていない!
「音声遮断!」
隠れていたキャシーさんが先に魔法をかけた。
これで武闘祭での、重力の魔法は使えないはず。
十二武鬼が散った。
完全にやる気だ。
でも、私たちは殺さないようにしないと。
ラーズに虎頭が迫る。
ラーズは虎頭の上段突きを捌き、組み合うと軽く押して、上段回し蹴り、後回し蹴りの、二回連続攻撃。
後方に下がって回避した虎頭。
追撃しようとしたラーズの背後から、兎頭が斧を振り下ろす。
ラーズは横に避けて回避する。
斧が地面を粉砕し、地響きが起こる。
竜頭が弓矢で遠距離から攻撃する。
「
竜頭が次々と放つ矢を、ラーズは魔法で生体時間を加速させることで回避。
虎頭と兎頭が、ラーズの両側面から攻撃する。
ラーズは兎頭に間合いを詰め、斧が振り下ろされる前に、その腕に絡みつくように組み、左腕の肘関節を決め、兎頭を投げる。
地面に叩きつけた兎頭の左腕の肘関節をそのままへし折ろうとするが、それより早く虎頭がラーズの腹部に双掌打を繰り出す。
衝撃で吹き飛び、まだ宙にいる状態のラーズに竜頭が矢を射る。
ラーズは矢が体を貫く寸前、空中で身を捻ってその矢を両手で掴み、着地と同時に竜頭にその矢を投擲する。
竜頭はその矢を片手で難なく掴み、その矢をつがえる。
兎頭がラーズの足を狙って、斧を横に振るう。
跳躍して回避したラーズを、虎頭がその右腕を掴んだ。
続いて兎頭がラーズの左腕を掴む。
ラーズの動きを封じたところを、竜頭がその頭部を狙って矢を放った。
ラーズは鉄棒の逆返りのように上体を逸らすと、矢を回避し、そのままの勢いで体勢を上下逆にして、虎頭と兎頭の頭部を足で蹴り押して、腕からなんとか放した。
間合いを取るラーズは内心思う。
こいつらカスティエルが言っていた通り、本当に連携が上手い。
殺さずに済ますことができる相手ではない。
いや、殺すつもりでも勝てないかもしれない。
キャサリンに蛇頭と羊頭が戟を連続突きする。
「タッ!タッ!タッ!タッ!タアッ!」
キャサリンは疾風の剣サイクロンの敏捷力補正によってそれを全て捌いていた。
頭部に戟を同時に突かれた所を、キャサリンは上体を仰け反って回避し、戻した時の反動で、戟を基点に跳躍。
蛇頭と羊頭の背後へ。
だが蛇頭と羊頭は、振りかえりざま戟の柄でキャサリンの胸を殴打。
キャサリンが後方へ飛ぶ。
しかし、キャサリンは空中で一回転して、着地。
後ろへ跳ぶことで衝撃を緩和させたのだ。
キャサリンに戟を構える、蛇頭と羊頭。
キャサリンは内心、焦燥する。
距離が遠い。
相手は間合いのある槍の一種、戟を使っている。
それに対し、自分の使っている疾風の剣サイクロンの間合いは普通の剣と同じ。
速度では勝っているけれど、簡単に懐に入らせないよう二人が連携することで、その問題を解決している。
ダーリンも他の敵を相手していて、援護をする余裕がないみたいだし。
蛇頭と羊頭が再び攻撃を繰り出してきた。
突きが続いたかと思えば、不意に払い切り、そして振り下ろしに、またもや突きの連続。
単調にせずに攻撃してくる。
しかも、二人はまるで一つの意思の下に統制されているかのように、互いの攻撃を阻害することなく、むしろ補い合う形を続けている。
キャサリンはここまで連携に優れた敵を相手にしたことはなかった。
セルジオに猿頭が大鎚を振り下ろす。
それを大剣で受け止め身体の動きが止まったセルジオに、鶏頭が背後から鎧の隙間を狙って独鈷杵を突く。
セルジオはその攻撃を、体を少し動かして、
甲高い金属音が鳴る。
鶏頭は連続して、セルジオの鎧の薄い部分や隙間を狙って、独鈷杵を突いてくる。
それをセルジオは鎧の厚い部分で受け続けている。
しかしそれに気を取られている間に、猿頭が大鎚を横に振るい、セルジオは大剣で受け止めたものの、吹き飛ばされ、転倒はしなかったが、五メートルほど飛んだ。
次はセルジオが剣を振りおろす。
平の部分だから殺す気はないのだが、威力を手加減しているとは思えない風切り音がする。
猿頭は大槌で受け止め、鶏頭がセルジオの背後に回って、再び独鈷杵を突いてくる。
セルジオはとにかく鎧の隙間を突かれないようにし、鶏頭に大剣を振る。
後方に跳躍して回避した鶏頭。
セルジオが鶏頭に意識を取られた瞬間を狙い、猿頭が大槌を突く。
「グウッ」
脇腹に受けたセルジオは衝撃で苦悶の声。
その隙に鶏頭が喉元を狙うが、セルジオは左腕でそれを払った。
そこに猿頭の大槌が横に振るわれ、腹に直撃。
「ヌグウッ!」
鎧の部分だったが、衝撃までは防ぎきれず、強い呻き声を上げる。
「ぬおぉお!」
セルジオは大剣を円を描くように振るって、二体の上級鬼が離れるようにした。
「ふぅー」
息を整えてダメージを回復するセルジオ。
やっかいであるな。
こちらがあまり敏捷でないことを見抜き、鶏頭が細かい連続攻撃で吾輩の気を逸らし、猿頭が強力な攻撃を仕掛けてくるという戦法か。
こちらも連携を取れればなんとかなるかもしれぬのだが、そうはさせないよう動いている。
このまま攻撃を受け続ければ、いつかは吾輩はやられてしまう。
どうしたものか?
スファルに鼠頭と牛頭が同時に攻撃を繰り出す。
牛頭が太刀を振り下ろし、スファルが鏡水の剣シュピーゲルで受け止めた所を、鼠頭が三鈷杵を突く。
身を捻ってそれを回避したスファルは、受け止めていた牛頭の太刀を、滑らせるように後方へ落とすと、鼠頭に振り下ろす。
刀背打ちだが、その速度から威力は手加減はしてない。
命中すれば骨は折れるだろう。
だが、それが振り下ろされきる直前、甲高い音が響いた。
TIIIII!
馬頭がスファルに向けて法螺貝を吹いている。
それは法螺貝特有の低い音ではなく、耳朶を打つ甲高い耳障りな音。
「うぉおっ!」
スファルは耳を塞いで動きが止まった。
古代都市ガラモの
「
クレアが馬頭に魔法で攻撃。
馬頭は横に跳躍して回避したが、音は止まった。
「このヤロウ!」
スファルが馬頭に閃光のように一直線に疾走して、太刀を横に振るおうとした。
だが、それは鼠頭の三鈷杵によって防がれる。
そこに牛頭が太刀を連戟。
それに続いて鼠頭が三鈷杵を連続刺突。
「おおおおおっ!」
スファルはそれを全部弾く。
馬頭が大きく息を吸い込み法螺貝に口をあてた。
「またかよ!」
スファルは横に疾走して、音響攻撃を回避。
そして馬頭へ跳躍して、太刀を振り下ろそうとした。
だが、牛頭が体当たりしてスファルを吹き飛ばし、そこを鼠頭が三鈷杵を突いてくる。
スファルは三鈷杵を握って皮膚一枚の所で止めた。
そして鼠頭の腕を狙って刀背打ちしようとしたが、牛頭がその太刀を太刀で止める。
スファルはすぐに間合いを取り、鏡水の剣シュピーゲルを三体の鬼に構える。
スファルは考える。
あの天使が言ってた通り、こいつら本当に連携が上手いな。
このままじゃマジでやられるかも。
どうする?
あれをするべきか?
だけどあれ、魔力を大量に消費するから、できればやりたくないんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます