71・私を信じて!

 三人も石にされてしまった。

 石化の魔眼がここまで厄介だなんて。

加速ヘイスト!」

 ラーズさまの声だ。

 そして残像しか見えない速度で、メドゥーサの周囲を無作為ランダムに動き、撹乱する。

次元断裂ディメイションセイバー!」

 次元に断裂を作ることで物理防御を無視して切断するあれなら、青銅の手ごとメドゥーサの首を斬り落とせる。

 だけどメドゥーサは、ラーズさまの声に素早く反応して、次元断裂を屈んで回避した。

「さっきからなんなの? 私の首ばかり狙って。気がつかないとでも思った」

 首を切り落とすことに執着して、狙いを読まれてしまっていた。

大地アース束縛バインド

 地面が泥濘のようになり、ラーズさまの足を捕え、移動速度が眼に見えて遅くなった。

 メドゥーサはラーズさまに接近すると、蛇髪と残っている右腕で攻撃する。

 ラーズさまはほとんど鏡でしか見ることができないのに、それを捌いている。

 だけど、かなりやり難そうだ。

「やるわね」

 メドゥーサは間合いを取って大地突槍アースランス

 横に跳んで回避したラーズさまは、そのまま両腕を眼前で組んで、メドゥーサに向かって走った。

 自分の腕で魔眼を遮蔽し、メドゥーサの下半身部分だけを見て間合いを測っている。

 一気に間合いを詰めたラーズさまは、

武器魔法付与エンチャントウェポン!」

 自分の手に武器魔法付与エンチャントウェポンかけ、首を狙って手刀一閃。

 それはメドゥーサの青銅の右腕を切断し、そのまま首を斬り落とせるかと思った。

 だけど、メドゥーサは横に転がって回避すると、立ち上がりざまラーズさまの腹を蹴る。

「ぐっ!」

 微かに宙に浮いたラーズさまの四肢を、蛇髪が束縛し、さらに首に巻きついた。

 メドゥーサがラーズさまの顔を覗き込む。

 ラーズさまは眼を閉じているから、まだ石にならずに済んでいる。

 でも、キャシーさんの時のように瞼を強引に開かされたら、終わりだ。

「うふふふ。貴方、なかなか良い男ね。昔の事を思い出すわ。私がこんな姿になる前は、何十人、何百人、何千人もの貴方みたいな良い男が私に愛を捧げ平伏した。

 なのに、私がこんな姿になった途端、怪物だと罵り、恐怖した。

 私はみんなに命じたわ。私を元の姿に戻す方法を見つけなさいと。いいえ、元の姿よりもっと美しくなる方法を見つけだしなさいと。そう、女神よりも美しくなる方法を。そして、その方法を最初に見つけた者には、褒美に私の一夜の愛を与えると。

 だが、誰も探さなかった。それどころか命を奪おうとした。おかげで私はいまだにこんな姿のままよ。

 おまえを見ると、私を裏切った男どもの事を思い出す。だから、あの男どもと同じように、おまえは石にさえしてやらない。

 このまま絞め殺してあげる」

 石にしない?!

 魔眼で石化させるのではなく、絞め殺すの!?

 まずい。

 完全回復薬は傷や状態異常を治すだけで、死んだ人を蘇生できない。

 死ねば終わりだ。

 なんとかしないと。

 考えるのよ、クレア。

 状況を把握し 分析し 作戦を立てるんだ。

 メドゥーサの魔眼を見ないで倒す方法。

 囮作戦は見抜かれていた。

 鏡を使って戦ってもダメだった。

 スファルさまのように、短い時間だけでも目を閉じて戦うことなんて、私にはできないし、スファルさまも最後は魔眼を直視してしまった。

 そうだ。

 認めるしかない。

 メドゥーサの石化の魔眼を自分から逃れる方法なんてない。

 なら、倒す方法は一つ。

「ラーズさま! 目を開けてください! メドゥーサの魔眼を見るんです!」

「な、なに?」

 明らかに戸惑うラーズさまの声。

「私を信じて!」

「……わかった!」

 ラーズさまが石化した。

 これで 私 一人だ。

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