49・犯人扱いじゃないか!
四人目は、ゲームでは真犯人だった、モランさまだ。
曲芸団の会計士。
南国の出身なのか、セルジオさまやキャシーさんと同じ黒い肌をしており、髪も目も黒。
身長は普通だが、意外と筋肉質で、セルジオさまとキャシーさんがまたなにか言いだすんじゃないかと思ったけど、今回はなにも言わなかった。
しわ一つない正装を着て、猫背で、顔には丸い眼鏡をかけており、その眼は神経質そうに私たちを窺っている。
ゲームのストーリーと同じく、彼は衛兵にコックス団長とマーロウさまの対立を教え、マーロウさまが犯人に違いないと告げたそうだ。
「コックス団長と会う前の事を教えてもらえるかな」
「あ、あ、あ、朝は、七時に起きた。身支度を、整えて、皆と一緒に、朝食。三十分で、食事を、お、お、お、終えて、その後は、売店の準備だ。コックス団長に、あ、あ、あ、会う予定だったので、十時十分に、売り子に任せて、ほ、ほ、ほ、報告書を、取りに、自分の
吃音症なのか、どもっている。
「君がコックス団長と会ったのは何時頃だね?」
「ご、ご、ご、午前、十時二十分頃だ」
「時間をかなり正確に覚えているね」
「か、か、か、懐中時計を、持っているからな」
懐中時計はこの世界ではまだまだ高価だ。
そんな高い物を買えるなんて、やっぱり売り上げを横領している?
「どんな話をしていたのかな?」
「う、う、う、売り上げの事だ」
「建国祭での集客は順調かね?」
「ま、ま、ま、まずまず、と言ったところだ」
「君がコックス団長と話をしている時、団長に不自然なところはなかったかな? 右脇腹の動きがおかしかったとか」
「い、いや。と、と、と、特に、気になることは、なかった」
「コックス団長と分かれた後、君はどうしていた?」
「ま、ま、ま、街で知り合った、じょ、じょ、じょ、女性と、その子供を、案内していた」
「女性と子供? どういった関係だね?」
「し、し、し、知り合いだと、言っただろう。詳しくは、知らない。ま、ま、ま、まだ、知り合ってから、日が浅い」
「どこで知り合ったのかな?」
「ま、ま、ま、街の、
本当だろうか?
その女性はゲーム通り
でも、コックス団長が倒れた時、モランさまはその場にいなかった。
犯人だとしても、そのトリックを明かさないと。
「事件の事を知ったのは何時頃?」
「しょ、しょ、しょ、正午だ。丁度、昼休憩の、鐘が鳴った時、衛兵隊に、気付いた。こ、こ、こ、声をかけて、曲芸団の、一員だと言うと、ぶ、ぶ、ぶ、舞台裏に、連れて行かれた。女性と子供とは、そ、そ、そ、その時、別れた」
「その女性の名前は?」
「ソフィー」
「連絡先を教えて貰えるかな」
モランからソフィーという女性の連絡先を入手した。
「舞台裏から出られるようになったのは何時頃かね?」
「ご、ご、ご、午後、一時三十分だ。それまで、閉じ込められたも、同然だ。わ、わ、わ、私だけではない。曲芸団員は、みんな、舞台裏から、出られなかった。お、お、お、おかげで、午後の公演は、ちゅ、ちゅ、ちゅ、中止に、なってしまった」
ブレッドさまは思案気にパイプを咥えて沈黙した。
代わりに私がもう少し質問してみる事にする。
「舞台裏から出た後、どこへ行きました?」
「こ、こ、こ、ここだ。この小屋に来た。これからの、事に付いて、アネット副団長と、話があった」
「本当ですか?」
私はアネットさまに確認を取る。
「ああ、本当さね。確かに舞台裏から出られるようになってから、すぐにモランが来たよ」
私はモランに、
「どのような話をされていたのですか?」
「こ、こ、こ、今後の、方針についてだ。あんな事が、あった直後だ。次の日からの、こ、こ、こ、公演などは、衛兵隊の、捜査にも、影響が出る。け、け、け、結局、三日間、休むと言うことになった。コックス団長が、め、め、め、目を覚まして、そのことで、し、し、し、叱りを受けた」
「叱り?」
「ひ、ひ、ひ、一人、倒れたくらいで、こ、こ、こ、公演を、休むとは、何事だと」
刺された本人であるコックス団長がそう言うとは、見掛けによらずプロ根性があるようだ。
「貴方は衛兵にマーロウが犯人だと言ったそうですが、なぜですか?」
「は、は、は、犯人に決まってるからだ。あ、あ、あ、あいつ以外、団長を刺すことが、できた者はいない。そ、そ、そ、それに、動機もある。コックス団長と、マーロウは、対立していた。観客を、沸かせようと、努力している、団長に、マーロウは、逆らっていた。あ、あ、あ、あいつは、
「しかし、どうやって、コックス団長を刺したのですか? コックス団長は刺された記憶がないと証言しています」
「な、な、な、なにか、トリックを使ったに、決まっているだろ」
「どんな、トリックですか?」
「そ、そ、そ、そんなこと、知るもんか」
「それに、マーロウさんがコックス団長を刺したとしても、コックス団長は倒れるまで十分間、平気でいました。なぜでしょうか?」
「わかるわけ、ないだろう。
さ、さ、さ、さっきから、なんだ!? ま、ま、ま、まるで、私を、犯人扱いじゃないか!」
「落ち着いてください。これらの質問は、あなただけではなく、みなさんにもしています」
「ふんっ、どうだか。いいか、私には、ア、ア、ア、アリバイがある。他の、曲芸団員にも、聞いてみると言い。私が、ソフィーと、一緒にいたところを、見ているはずだ」
その通りだ。
スファルさまの報告でも、モランさまは必ずと言っていいほど、人目のある場所で女性と子供と一緒にいた。
モランさまのアリバイは完璧だ。
「も、も、も、もういいだろう。私は、し、し、し、仕事がある。これで、失礼する」
モランはそう言って簡易小屋から出て行った。
曲芸団員でコックス団長と直接、話をした人物の事情聴取は終わった。
話を聞く必要があるのは、残り三人。
容疑者として留置場にいる、花形
被害者である、コックス団長。
そして、モランさまのアリバイを証言できる、ソフィーという女性。
アネットさまに外に出ていただき、入れ替わりに外にいたみんなを簡易小屋の中に呼んで、事情聴取した四人の内容を伝える。
キャシーさんが少し思案してから、
「話を聞く限りじゃ、三人ともコックス団長を刺していないように思えるわね」
「三人? 四人では?」
私が人数の間違いを指摘すると、セルジオさまが、
「ディーパン殿は犯人ではない。あのような素晴らしい筋肉の持ち主が、犯罪などするはずがないのだ」
「ああ、そうですか」
どうせそんな理由だろうと思った。
「でも、それ言うのなら、モランさまはどうなるのです? けっこう筋肉質でしたが」
キャシーさんが、
「モランは筋肉の付き方がおかしいのよ。たぶん、筋肉増強剤を服用してるわね」
「うむ。薬を使うと少しの鍛錬で筋肉が付くが、それは不自然な付き方になる」
「
「でなければ、美しい筋肉にはならぬのだ」
私には理解できない拘りだ。
「では、事情聴取した皆さんの証言は正しいと思いますか?」
お二人には事件当日、コックス団長に張り付いていて貰っていた。
今の証言が正しいかどうか、大まかな判断ができるだろう。
「そうですな。モランの時は少しの時間ではあるが簡易小屋に入ったので分からぬが、少なくとも他の三人の話に、吾輩が見た限りでは嘘はないように思われる」
「アタシもコックス団長に三人がなにかしたようには見えなかったわ。それどころか、触ってもいないのよ。それだけじゃないわ。アタシ自身、コックス団長に不自然な動きがあったようには見えなかったわ」
誰もコックス団長を刺したところを見ていない。
それなのに、コックス団長は右脇腹の刺し傷が原因による出血で死にかけた。
しかも新聞では、コックス団長は誰かに刺された記憶がないという。
つまり、モランさまが簡易小屋に入った時に刺されたということもない。
仮に、あの時にモランさまが犯行に及んだのだとしても、その後コックス団長がしばらく平気で歩き回ることができたのはなぜか?
衛兵隊はマーロウさまを容疑者として捕まえているけど、その理由も最後に会っていたからというだけだ。
誰が犯人なの?
そして、どうやってコックス団長に気付かれずに刺すことができたの?
私はブレッドさまに聞いてみる。
「ブレ……いえ、ホームズさま。貴方は今までの証言でなにかわかりましたか?」
「クレア君、今の証言だけで結論を出すのは性急というものだ。
それ、シャーロック・ホームズでも似たような科白があったよね。
それに、もっともらしく言っているけど、要するになにも分からないってことだろうし。
「ハードウィックさまは、どう思われますか?」
「ブレ……いや、ホームズの言うとおり、情報が少なくて何とも言えないな。少なくとも残りの三人の話を聞いてみないことには」
「なるほど」
ハードウィックさまがそうおっしゃるのなら、そうなのだろう。
私たちは他の三人の所へ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます