青く澄みわたる
しゅりぐるま
青い空
今日もたくさんの薬を飲んで寝た。気分を安定させる薬、リラックスさせる薬、セットの胃薬、腸内の活動をよくする薬。最初に飲んでいた睡眠導入剤は、今はもう必要なくなった。
寝ている間は、記憶がぷっつり途絶えるということもなく、最近では夢も見るようになった。病気の傾向として、夢を見ることはいい兆候だそうだ。
朝は最近、目覚ましが鳴る前に目が覚める。もう一度寝ようなどと思うこともなく、そのまま体を起こして、時間によってはコーヒーをハンドドリップで落としたり、読書をしたり、運動をしたり、朝をゆったりと楽しんでいる。
それからパンと野菜スープと、季節の果物にヨーグルトという、簡単だがバランスのとれた朝食をとり、また気持ちが明るくなる薬と腸内の活動をよくする薬を飲む。
そして毎朝、9時前家を出て私は電車でデイケアの施設へ向かう。同じ病を持つ者が互いの悩みをシェアしあい、ディスカッションをし、自立のために自身を見つめ直す場所だ。
ここに来る人達に共通していることは、一人で頑張りすぎることだと私は思う。ここの人達は他人に頼るということが苦手なのだ。
ここに通い始めてそろそろ3ヶ月になる。施設にも慣れ、毎日変わるプログラムも集中してこなせるようになってきた。毎日そこへ行くことが当たり前になり、今では欠かせない活力にもなっていた。
今日も私はいつも通り、9時前に家を出て電車に乗った。最初は電車も怖かったことを思い出す。電車というよりも、人混みが怖かった。いつも俯いていた。俯いて電車を待ち、俯いて電車に乗り、俯いたまま立っていた。だが最近ではそんなこともなくなり、私は空いていた端の席に腰を下ろした。
しばらくすると、手押し車のようなかばんを押しながらお婆さんが電車に乗ってきた。通勤のピークを過ぎた電車の中は混んでもいないが、空いてる席もない。
辺りを見回す。スマホに夢中で何も見えていない若者。寝たふりをするサラリーマン。何かを考える顔をしながら辺りを見回しているマタニティマークをつけた女性。
少し前の俯いた私なら、お婆さんの存在に気づかなかった。スマホの若者にも、寝たふりのサラリーマンにも、妊婦さんも、俯いたまま通り過ぎていただろう。
私は何も言わずに席を立った。お婆さんと目が合う。顔が赤くなる。結局、私は何も言わずに立ち去った。後ろから『ありがとう』という声が聞こえた。
私はそのまま、一つ向こうの電車のドアにもたれかかり、流れすぎていく空を見た。清々しく、どこまでも透きとおった青い空だった。私の気持ちも晴れ渡っていた。晴れ渡る青い空を飛んでいるような心持ちで、なんだかくすぐったかった。
通り過ぎていく街並みも、地面も、遠くの空も、近くの空も、電車も、私の足元も、何もかもがきれいな澄んだ青空で・・・
私は驚いて目を覚ました。カーテンの隙間から見える空は、夢と同じきれいな青だった。
私は顔を洗い、コーヒーを落とした。
夢だった。だけど現実にできそうな気がした。
私はすこぶる気分がよかった。
青く澄みわたる しゅりぐるま @syuriguruma
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