sweet dream
一白
本文
私はいま、夢を見ているのだろうか。
目の前のテーブルには、所狭しと並べられるスイーツの山。
すぐ手前にはシュークリーム、右手を見ればガトーショコラ、左側にはアップルパイ、奥のほうにはプリン・ア・ラ・モード……。
どれ一つとっても、キラキラと綺麗に飾り立てられていて、見ているだけで涎が出てくる。
こんなに沢山のスイーツを、私一人が食べてしまって、本当に良いのだろうか。
振り返って、お母さんに再度確認すると、お母さんは満面の笑みで答えた。
「それはもちろんよ。だって、全部マリちゃんのために用意したんですもの!」
お母さんはいつも、「虫歯になるから」とか、「生活習慣病になるわよ」とか、そういう理由をつけては、私から甘いものを取り上げている。
私がお母さんに隠れてコンビニでお菓子を買おうものなら、それはもう般若の如き形相で取り上げ、一口も食べていない状態であったとしても、容赦なくゴミ箱に押し込むような人なのだ。
そんなお母さんが、私のために、こんなに大量のスイーツを用意してくれたのだという。
感動しないわけがなかった。
「お母さん……いままで、いっぱいわがまま言って、ごめんなさい。これからは、毎朝ちゃんとゴミ捨てするし、布団も畳むし、えっと、それから、えっと……」
私から楽しみを奪い続けるお母さんに反発するように、これまで何度もお手伝いをボイコットしたものだけれど、これからは心を入れ替えよう。
いつもギリギリまでやらないでおく宿題だって進んでやるし、まだやってみたことはないけど、お母さんがしている夕飯の用意だって、頑張れば出来るかもしれない。
私をこんなに幸せな気持ちにしてくれた母に、どうにかして恩返しがしたかった。
焦って言葉が出てこない私に、お母さんは「いいのよ。私の方こそ、いままでごめんなさい。マリのことを想ってのことだったけど、私が悪かったわ」と謝って、そっと頭を撫でてくれた。
頭を撫でられるのも久しぶりだ。
スイーツに囲まれていることも、お母さんが優しいことも、どちらもとても嬉しくて、どうしようもなく幸せで、「もし夢なら覚めないで」と思う。
お母さんが「マリちゃん、さあどうぞ」と言いながら、フォークに刺したチーズケーキを口元に運んでくれる。
「はい、あーん」「あーん」
パクリ。チーズケーキを口いっぱいに頬張る。
舌の上でとろけるように柔らかいチーズケーキは、私の口の中でゆっくりと溶けて―――
「マリ!いつまで寝てるの?起きなさい!」
パチリ。お母さんの叫び声で目が覚めた。
いつの間にか横になっていた体を起こすと、ちょうど目の高さになった窓から、夕日が見える。
ついさっきまであったスイーツの山が、一瞬で消え失せてしまって、私はとてもがっかりした。
「……ゆめ……」
ああ、お母さんがいきなり、あんなに優しくなるわけがないのだ。
夢で見たことで、何か月も食べていないスイーツが、余計に食べたくなっただけだった。
夢ですら一口しか食べられなかったことに、しょんぼりしながら、お母さんがいるだろうリビングへ行く。
リビングの扉を開けた途端に、パン、という破裂音が響いた。
「お誕生日おめでとう、マリ!」
「ほら、マリの好きなショートケーキ!今日は特別に、食べてもいいわよ~」
にこにこと笑うお父さんとお母さん。
テーブルの上には、私の顔くらいあるホールケーキや、お肉やサラダが並んでいる。
ぽかんと口を開けたまま固まる私に、お父さんとお母さんの表情が、心配そうなものに変わった。
「やっぱり、クラッカーはまずかったんじゃないか。驚いてるよ」
「でも、お祝い事っていったらクラッカーがないと……マリ、ごめんね?驚いたわよね?」
おろおろするお父さんと、そわそわと話しかけてくるお母さん。
私は二人に向かって、にっこりと笑って言った。
「ありがとう!すっごく嬉しい!!」
こうして、さっき見た夢は、最悪な夢から一転して、最高の目覚めになった。
sweet dream 一白 @ninomae99
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