第29話 森崎さくら 5

 なっちゃんとの生活が始まった。

 思いもよらなかったけど、ちょっと憧れてたトレーラーハウス。

 なっちゃんはすごくテキパキと色んな事を決めて、あたしもすぐに引っ越せた。



 初めての夜は…ちょっと緊張した。

 だって…あたし達…好きな者同士。

 恋人同士…って事だし…

 いくら、セックスはまだ無理。って宣言したとは言え…

 同じベッドだよ?


 なっちゃん、男なら…どうなっちゃうか分かんないよね!?


 そんなドキドキハラハラヒヤヒヤなあたしをよそに。

 なっちゃんは、夕食を終えて少しのんびりした後、少し出て来るって。

 …こんな時間にどこへ?


 カーテンを開けて外を見てると、30分ぐらいして近くにある大きな木の下になっちゃんの姿が見えた。

 …走って来たのかな?

 首にはタオルがかかってて、なっちゃんは少し跳んだり手足を回したりして。


 次は…


「…腕立て伏せ…?」


 何となく…見ちゃいけない気もして。

 あたしはお茶を手にしてソファーに座る。

 …でも、気になる。

 カーテンの隙間から…チラッ。


 …今度は、腹筋…


「……」


 カーテンをしめて、カップを両手で持って…ゆっくり飲んだ。


 なっちゃん、ほんと…真面目だな。

 それに…カッコいいや…


 しばらくして帰って来たなっちゃんは。


「先にシャワーしていいか?」


 お茶してるあたしに聞いた。


「あっ、うん。どうぞ。」


 何となく…唇を噛みしめる。

 それは…

 噛みしめてないと、顔がニヤけちゃうから…!!


 なっちゃんって、ほんと…すごい。

 あたしの好きな人って…すごい。

 だから…今夜…

 もし、なっちゃんがあたしの事…


「………いや、無理だって…」


 やっぱダメだ。

 クッションを持って、ソファーに寝転ぶ。


 …キスもまだだよ?

 キス…

 う~ん…

 …あんなにさ…大好きな顔が近くに来たら…

 あたし、死んじゃわないかな…


 抱きしめてるクッションに、チュッとキスして…

 きゃ~!!って、心の中で叫ぶ。


 ダメダメ!!

 絶対無理無理無理!!


「…さくら?」


「はっ…」


 いつの間にかシャワーを浴び終えたなっちゃんが…こっち見てる。


「何か楽しい事でも?」


「うっうううううん?何でもない。」


 クッションを抱きしめたまま、パッと起き上がる。

 …なっちゃんは…上半身裸…

 下は…タオル…

 クリップで留めてた長い髪の毛を下ろすと、わしゃわしゃとドライヤーで乾かし始めた。


「…ちゃんと乾かすんだー?」


 大きな声で問いかけると。


「風邪ひいちゃいけないからなー。」


 なっちゃんも大声で答えた。


 …プロだよね。

 うん。

 あたしなんて、ずっと自然乾燥だったけどさ…

 見習わなきゃ。


 あたしがシャワーしてドライヤーで髪の毛を乾かし終えた時、なっちゃんはベッドで本を読んでて。


「漫画のイメージしかなかった。」


 って笑うと。


「名作って言われるものは、漫画でも小説でも読む。」


 なっちゃんは本を閉じた。


 それから…

 ポンポンって、ベッドの隣を叩かれて…

 す…すごく緊張しながら…あたしがそこに入ると。


「おやすみ、さくら。」


 なっちゃんは、あたしを抱き寄せて髪の毛にキスをして…

 相変わらず…ドキドキしてるあたしの隣で…


「…くー………」


「………え…」


 即寝ですか!!


 このドキドキをどうしてくれよう!?なんて思ったけど…

 …初めて見る、なっちゃんの寝顔。


「…おやすみ、なっちゃん。」


 そっと…なっちゃんの頬にキスをして。

 あったかいなっちゃんの胸に寄り添うようにして…眠りについた。



 * * *



 一緒に暮らし始めて半年。

 毎日が楽しくて楽しくて、仕方なかった。

 朝、一緒に起きて朝食をとって。

 なっちゃんを送り出す。

 いってらっしゃーい。と、大きな声で言いながら手を振ると、なっちゃんは嬉しそうに手を振り返してくれる。


 掃除をして、洗濯物を干して、カプリに行くまでの時間、なっちゃんの持ってるCDを聴いて…歌う曲を選ぶ。


 あたしは物を持たない。

 だからレコードもCDも買った事はない。

 唯一持ってるのは、ギターだけ。

 これも…Lipsに置いてあった忘れ物を、オーナーがくれた物だ。


 耳で聞けば、だいたいの曲は覚えられたし、自分でアレンジして来た。

 よく、譜面に落とさないのかと聞かれるけど。

 譜面なんて要らないし。

 だから、譜面は書けないって、いつも答える。

 書き方は覚えればすぐだろうけど…頭の中にある物だけで、十分事足りる。



「あ…この歌可愛い。」


 そのCDは、10年ぐらい前に売れた曲ばかりを集めた物だった。

 明るいポップナンバーで、恋の歌。


 あなたがあたしを輝かせるのよ。

 だから、お願い。

 ずっとあたしを愛していて。


 …うん。これいいな。

 いつか歌おう。



 カプリのランチタイムステージで歌って、その後は帰って二階堂から送られてきたカリキュラムをこなす。

 …あたしの事、留学中の身と思って学業を心配してくれてるなっちゃんのためにも、一応勉強はした。


 洗濯物を取り込んで、冷蔵庫の中身と夕飯の相談。

 歌いながら食事の支度をしてる頃には…もう、なっちゃんが恋しくてたまらない。

 早く帰って来ないかなって。



 なっちゃんの方も、仕事は順調で。

 アルバムを一枚出して、短いツアーにも出た。

 そのツアー中、行く先々から電話をくれた。


 ちゃんと飯食ってるか?

 ちゃんと眠れてるか?

 ちゃんと勉強してるか?

 ちゃんと歌いに行けてるか?


 ふふっ…心配性だなあ。

 でも、電話の最後に…


『愛してるよ。』


 いつも…そう言ってくれて。

 それだけで、あたしは満たされた。



「今…キスもまだ…って言った?」


 カプリのステージを終えた後、サマンサとお茶をする事になった。

 サイモンバーガーを辞めた後、サマンサは偶然カプリであたしを見付けた。

 客席で口を開けてあたしを指差してるカップルがいるな…と思ったけど。

 そこを見て、あたしも目を見開いた。

 だって…サマンサは。


『バカじゃない?地獄に落ちれば?』って言ったはずの、アンディといたんだもん。



「うん…あり得ない?」


「うん。あり得ない。」


 サマンサはアンディと暮らし始めて、二ヶ月らしい。

 もう…キスどころか…そりゃあ…もう…らしい。


「彼、年上って言ったよね?」


「うん…」


 相手がなっちゃんとは…話してない。


「よく我慢してるなあ~…って、他に女がいるんじゃない?」


「…いないよ。仕事終わったら、真っ先に帰って来るし。」


「シェリー…女として見られてないんじゃない?」


「……」


 がーん!!

 それ!!

 あり得るし!!


「まあ…ね…あんた、21にしては…」


 サマンサはあたしを上から下まで見て。


「子供だもんなあ~…」


 苦笑い。


 …あたし、15になったから。

 サマンサの中では、22のはずなんだけど。

 あたしって、そのまま年を取らせてもらえない気がする…



「…やっぱり、色気ってあった方が…」


「ないよりあった方がいいわよね。」


「……」


 あたしは、ペチャンコな胸を見下ろして…


「はあ……」


 大きく溜息をついた。


「それよりさ、これ。」


「ん?」


 差し出されたそれに目を落とすと…


「なな、何これ…なんでサマンサ…こんなの持ってるの?」


 あたしはサマンサが手にしたチラシを見て、声を震わせた。

 そのチラシには…


『Deep Red Special LIVE in Halloween』


 スペシャルライヴ!?

 ハロウィンに!?


「アンディがファンクラブに入って、チケット獲得の権利をくじで引き当てたのよ。」


「スススペシャルって?何が特別なの?」


「会場見てよ。」


 チラシに書いてある会場は、地元でもメジャーなホール。

 でも、そんなに大きくはない。

 ライヴハウスとコンサートホールの間って感じかな…

 世界のDeep Redは、もはや大きな会場でしか演らないって言われてるのに…


「…近場だね…しかも大きくない…」


「そ。Deep Redがこんな所で演るなんてさ、絶対二度とないね。」


「二度と…」


「しかもさ、ハロウィンに乗っかってやるだけだから、一時間しかないらしいんだけど、セットリストがかな〜りスペシャルらしいわ。」


「セットリストがスペシャル…」


「普段やらないような曲やったりさ。」


「普段やらないような…」


 もはやあたしは、サマンサの言ってる事をリピートするだけ。

 うっとりしてしまって、自分の言葉が出て来ない。


「今や万単位の客相手にしか演らないんじゃないかって言われてるのに、これって666人!」


「666人…」


「仮装参加のことって書いてあるんだよね〜。この日、ダミアンになる人が多いかな。」


「…ダミアン……?」


「Deep Redがダミアンで出たりしてね。」


「……」


 ダミアンは分からないけど…

 い…行きたい!!

 でも…


「チケット、何枚買えるの?」


「2枚。」


「…だよね…」


 なっちゃんは、あたしにステージを見に来い…とは言わないし、見に来る?とも聞かないし…

 何となく、そこは…なっちゃんの『仕事場』とか『戦場』ってイメージで…

 あたしからは、お願いできないと言うか…



 そして、やはり。

 なっちゃんから、そのライヴの話はなく。

 むしろ…夜は近所の人達とパーティーをしよう。なんて言われて。

 え?って思ったけど、なっちゃんは9時には帰れるから。って。


 …何とかして、ライヴに行こうとしてたあたしにとっては…

 ちょっと、不利な展開に。



 ところが。

 ハロウィンは明日。って日になって…


「アンディが行けなくなっちゃってさ…」


 サマンサが、ガッカリした声で言った。


「え?なんで?」


「新しい仕事でリーダーになっちゃってさ…出張なんだって…」


 アンディには申し訳ないけど…

 あたしは、もうすでに目がキラキラしていた。


「だからさ、シェリー…一緒に行」


「行く!!」


「…そ…そう…良かった…」


 こうしちゃいられない~!!

 ライヴは一時間しかないみたいだけど、あたしはその後のパーティーに向けての準備もある。

 近所の人達とは、二週間前にはジャック・オーランタンを作ったり、かかしを立てたりした。

 もう、丘の上一帯、ハロウィンムード一色!!



 その日は朝から戦場さながら。

 なっちゃんを送り出してからは、料理と裁縫に追われた。


 裁縫。

 そう。

 今夜の仮装のため。


 シークレットライヴは、仮装して行かなきゃいけないみたいで。

 あたしにとっては好都合だった。

 なっちゃんにバレずに盛り上がりたい。

 なっちゃんがどんなステージをするのか…

 あ~!!すごく楽しみ!!


 パーティーはトレーラーハウスが並んだ丘の、東側にある割と大きなガゼボで開く事になった。

 近所の人達と話し合って、あたしはパンプキンパイを作る事になった。


 Deep RedのCDを流しながら、あたしのウキウキは止まらなかった。

 今夜…なっちゃんのライヴが観れる…!!




「サマンサ。」


「…え?」


 待ち合わせ時間。

 約束した場所に少し早くついたあたしに、サマンサは全然気付かなかった。

 キョロキョロしながら通り過ぎてくサマンサの腕を掴んで声をかける。


「あたし。」


「………え?」


「あたしだってば。」


「……って…シェリー…?えっ?えっ?シェリー!?」


「ふふっ。完璧だね。」


「うわ~分かんなかった!!」


 サマンサは、白塗りの顔に、口から血が出てるみたいなメイク。

 レントゲンを撮ったみたいなTシャツで、大きなドクロの目が光るバックルのベルト。


 あたしは…サマンサの言ってた『ダミアン』になってみた。

 映画のダミアンは子供だったけど、青年版って感じで。

 だけど地味過ぎて、普通の男装になってしまった。


「どこから見ても男ね…分からないわ~。」


 サマンサはあたしを上から下まで眺めて言ったけど。


「すごいけど…あんた、リアルすぎるわよ…」


 あたしが完璧に真似てる髪型の前髪をかきあげると…嫌そうな顔をした。

 地味過ぎた。と思って…額の真ん中に、目。

 もちろん、血のりタップリ。

 …気合い入れすぎたかな…


 サマンサとライヴ会場へ行くと、すでに中は熱気ムンムン。

 ついでに、会場のあちこちにダミアンがいて笑った。

 好都合。

 これなら絶対バレない。


 歩いてる間に、さりげなく前髪をかきあげると。

 大半の人に驚かれた。

 サマンサが『気持ち悪いし』って、苦笑いした。


「うわ~ワクワクする~。」


 周りから聞こえてくる言葉に、あたしは…ますます緊張した。

 …なっちゃん…どんなステージを見せてくれるんだろ…


 席はなく、オールスタンディング。


「もう前はいっぱいだね~。」


 サマンサが残念そうに言ったけど…あたしは少し後ろからみたいと思った。

 会場全体が、どんな風に盛り上がるのか…。

 なっちゃんが、どうやって…会場を一体化させるのか。


 ステージには幕が下りてて。

 会場の照明が落ちると共に、その幕に『Deep Red』の文字が映し出された。

 一気に客席のボルテージが上がる。


「あたし、できるだけ前に行ってみる!!」


 サマンサがそう言って、人の波をかきわけながら前に向かった。

 あたしは…後ろの方の真ん中で。

 鳥肌が出そうになってる自分の体を抱きしめながら…その瞬間を待ってた。


 大歓声と共に、イントロが始まった。

 インパクトのあるタイミングで幕が上がって…超鳥肌‼︎

 そして、見えたその姿が…

 メンバー全員…和装!!


「カ…カッコいい…」


 一応、みんな顔のどこかに血のりがついてるけど…

 カッコ良過ぎる!!

 そして…

 なっちゃんのいきなりのハイトーンのシャウトに、客席がさらに盛り上がる。

 なっちゃんは袴姿で…ポニーテールなんだけど…それが何だか武士みたいに見えて…


「……」


 あたしは…涙が出そうになるぐらい感動してた。

 一度のシャウトで、もう…客席は大きな波みたいになってる…


 CDで聴くより、ずっと…声を体に響かせる事ができるって…なっちゃん……すごい!!

 周りと一緒に飛び跳ねるとか、頭を振るとか…全然…そんな余裕がなかった。

 とにかく感動して…


 なっちゃんの声は、全然音程を外す事もなくて…

 ステージングもカッコ良くて…

 お客さんに向ける笑顔とか…メンバーとの絡みとか…

 もう、全てにおいて、あたしをトリコにしてしまった…!!


 あたし…

 すごい人と一緒に暮らしてるんだ…って、今更そんな事考えた。


 夕べも、愛してるって頭にキスして寝た。

 今朝も、行って来ますって、頭を抱き寄せられた。

 もう…どうしよう…あたし…

 こんなステージ見せられて…

 なっちゃんへの『好き』が、どんどん大きくなっちゃうよ…


 なのにあたし、子供みたいで…全然女っぽくなくて…

 こんなあたしのどこがいいの?って…

 …あたし、もっと頑張らなきゃ。

 歌も、なっちゃんを愛する事も。

 なっちゃんに似合う女の子になりたいよ。

 …って、額に血を流した目ん玉描いてる女が決心する事じゃないかもだけど…


 あたし…頑張るよ、なっちゃん。

 頑張るから。


 どうか…そばで見てて。



 会場は、飛び跳ねたり頭を振ったり、拳を突き上げたり…かなり盛り上がってた。

 だけどあたしは、全く体を動かす事が出来なかった。

 目の前の光景を、しっかり目に焼き付けたくて…瞬きも惜しいぐらいに、ステージを見つめた。


 最後の曲が終わって、一度メンバーがステージからいなくなる…のかと思いきや…


『アンコールだよな。もらう時間が惜しいから、このままやろうぜ。』


 なっちゃんの言葉に、メンバー全員が笑顔で応える。

 客席はもちろん…大歓声。


『今日は大サービス!!俺たちの原点の曲、フルバージョンで演るぜ!!』


 Deep Redの原点の曲?

 客席のテンションが尋常じゃなくなったけど…何の曲?…って思ってると…


「え。」


 Deep Purpleの『Burn』…


「……」


 あたしの口は、開いたまま…


 原点の曲なの?

 Deep Redってバンド名…Deep Purpleから来てたりするの?


「うっわー!!これって、Deep Redがアメリカに来た時の最初のライヴで演って、本家を超えたって言わせた曲だよな!!」


 隣のスーパーマン二人が、そんな事を言って盛り上がってる。

 …本家を超えたって言わせたボーカリストに…しょっぱなに聴かせたあたしの歌が…Burnだなんて…!!

 は…恥ずかしいーーーーー!!

 違う意味で赤くなりながら、あたしはステージに注目した。

 ほ…本当に…すごい…!!

 なっちゃんもだけど…メンバーの皆さん、本当にすごいテクニック!!

 ああ…ヤバいよ…

 あたしも、歌いたい…!!


 ドキドキして、ワクワクして、胸の奥をギュッと掴まれた。

 そんなDeep Redのライヴは、予定通り一時間で終わった。

 あらかじめサマンサにはダッシュで帰るって伝えてたから、あたしは幕が下りると同時に会場を出て家に向かった。


 そして…なっちゃんは予告通り9時にはガゼボに到着した。

 腰に刀もどきを挿してて、近所の人達には『サムライ!!』と喜ばれてた。



「はーい、パイ、お待ちどうさま~。」


 あたしがパイとお茶を用意して運ぶと…


「…え?さくら?」


 なっちゃんは、あたしを見て驚いた顔。


「うん。」


「それ…」


「ダミアン。」


「ダミアン?」


 近所の人達は、なっちゃんの反応を見て大笑い。

 だって…さっきみんなにも聞かれたんだもん。

 ただの男装だ。って。

 …やっぱ、ダミアンは地味過ぎたか…



「…なんて言うか…」


 なっちゃんは、あたしをマジマジと見て。


「声聞かなきゃ、さくらだって分かんねえな…」


 驚いた顔のまま。


「…なっちゃん、カッコいい…」


 まだ、ライヴの余韻が残ってるあたしは、素直にそう言った。


「…ほんとに?」


「うん。すごく。」


「惚れ直した?」


「ますます惚れた。」


「……」


 なっちゃんが、あたしを抱き寄せると。


「…ニッキーが色っぽい目でダミアンを抱きしめてる。」


 って、みんなが笑った。


「ははっ。だってさ、さく…うわっ!!」


 あたしの前髪をかきあげて、額にキスしようとしたなっちゃんは。


「おま…こえぇよ…」


 あたしの額に描かれた目ん玉に。


「…力作だな…」


 複雑な顔をしながら…


 チュ。って、キスをした。



 そしてこの夜…


「………眠れない〜……」


 アドレナリン大放出だったあたしは、全く寝付けず…眠れる気もしなかった。

 隣では、一時間とは言え、最高の歌とパフォーマンスを観せてくれた上に、近所の人達とのハロウィンパーティーで少し飲み過ぎたってハイテンションになってたなっちゃんが。


「くかー……」


「……」


 ぐっすり眠ってる。


「……ほんっと…カッコ良かった…」


 なっちゃんの寝顔にそうつぶやく。

 そして、その胸に顔を埋めると。


 眠れなくても…愛しい夜に感謝した。

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