第27話 森崎さくら 3

 もうすぐ三月。

 あたしとなっちゃんの関係性は、依然変わりなかった。

 なっちゃんは、あたしの先生で。

 Lipsにお客さんとして歌を聴きに来てくれる。

 ステージが終わったら、反省会をして…おやすみって別れる。


 …ねえ。

 あたしに恋してるって言ってたよね?

 あれ、どうなったの?


 本当は、そう聞きたい…

 ううん…聞きたくない…

 ううん……


 って、どうなのあたし!!



 でも…もし、これ以上の関係になったら…

 あたし、14歳だって言わなくちゃ…だよね。

 それはなんだか…言えない気がして。

 なかなか…あたしからはアクションが起こせなかったりする。


 …普通、27歳の男の人って…恋愛対象は何歳ぐらいなんだろう?


 それ以前にさあ。

 あたし、27歳のなっちゃんに…恋すると思う?


 ポテトを揚げながら、さりげなく周りを見渡した。

 ミシェルの彼は23歳だけど、嘘ついて21歳になってるあたしより子供っぽい…気がする。

 いや、見た目とかじゃなくってさ…中身?

 食べながら喋るし、それをポロポロこぼすし…

 ミシェルは気にならないみたいだけど、あたしはー…ちょっとやだなあ…なんて思ったりする。

 二階堂はマナーにも厳しかったから、いくら立膝してようが、きれいに物を食べれる人の方がいいな。


 この店の中で…27歳に近いって言ったら…

 アレク。

 …いやいや、彼は28歳だけど子だくさんで大変だからだよ…

 あのおっさん具合は…たぶん、仕方ないんだよ…


 …そういえばアレクは、21歳だって言い張ってるあたしを9歳の長女と同じような扱いするんだよね…

 あたし、そんなに子供っぽいのかなあ。

 …こんなんじゃ…なっちゃんの隣に居ても、どう見ても兄妹だよ。


 …なっちゃんは世界のDeep Redのフロントマンだから…なのかな。

 何だか、いつもきちんとしてる。

 ラフな格好だって、全然怠けてる感じなくてカッコいいし…

 自分で『おっさん』って言う割に、体…鍛えてるっぽいもん。


 あれだよね…人知れず頑張るタイプ。

 アンディやサマンサは、売れてるバンドマンは入れ食いしてるって言ってたけど…

 なっちゃんって、本当…遊ばない人だなって思う。

 ショーンも言ってた。

 Lipsで綺麗なお姉さん達に声を掛けられても、全然なびいてないって。

 適当に笑顔でかわしてるって。

 売れてるバンドマンどころか…超売れてるバンドマンなのに、全然エラそうじゃないし…


 そう言えば、なっちゃんがDeep Redのフロントマンって知ってた?ってショーンに言ったら。

 もしかしてとは思ってたけど!!まさか!!本当に!?って、大騒ぎだった。

 それぐらい、なっちゃんはオンとオフがかけ離れてる。

 …使い分けが上手なのかな。



 大騒ぎしてたショーンも、Lipsではオフになってるなっちゃんが分かるのか。

 Deep Redの名前は出さない。


 …会いたいな…


 今夜もLipsで会えるのに。

 あたし…これって…

 あたしも、なっちゃんに恋してるって事だよね?


 …はあ…どうしよう…


 …なっちゃん、出会った時にあたしが14歳だって知ってたら…

 あたしに恋なんてしなかったかな…


 * * *


「……」


 だ…

 誰だろう…

 あたし、控室のカーテンの隙間から、カウンターに視線を飛ばしてドキドキ中。

 なっちゃんが…誰かと一緒に来てる。

 こんなの、初めてだよ…


 なっちゃんって…

 友達いないんだよなー。って言ってたから…


 もしかして…バンドメンバー?

 …う。

 そんなの…

 緊張しちゃうじゃなーい!!

 世界のDeep Redのメンバーが来て、あたしの歌を聴くとか!!

 あ。

 なっちゃんは…なんて言うか…もう、いいんだけどさ。


 あたしの緊張をよそに、ステージの時間が来た。

 今日は青いドレス。

 ドキドキしながらピアノの前に座って、ゆっくりと店内を見渡す。

 小さく深呼吸をして、ピアノを弾き始めた。


 もちろん…ピアノは独学。

 ピアノだけじゃない。

 ギターも。

 二階堂には音楽を楽しむって習慣がなかったから…あたしは、自分で色々情報を仕入れては…耳の良さを発揮した。

 一度聴いたら、大半の音は覚えられる。

 だから、ピアノもギターも、弾き方さえ覚えてしまえば…何も苦にはならなかった。


 だけど、二階堂でそんな能力…持ち腐れでしかない。


 歌いながら、時々カウンターの方に目をやると…なっちゃんは、いつものようにカウンターに肘をついて…

 なんて言うか…

 第三関節にこめかみ辺りを乗せて、ちょっぴり斜めになってステージを見る。

 なっちゃんのこのスタイル…あたし、好きだな。

 怠そうなんだけど…そうしてる時の目って…色っぽい。


 ……はっ。


 あたし…めっちゃ恋愛対象にしてるよね!!

 なっちゃんの事、好きみたいな感じだよね!!

 だってあたし…なっちゃんの隣…こっちから見ると、なっちゃんの前に居る人。

 まるで透明人間みたいに、その人を透かしてなっちゃんを見てしまった。


 あれよあれよと歌い終わって、拍手をもらいながら控室に戻ろうとすると。

 なっちゃんが…何か言ってる。


 何々?

 あたしを指差して。

 それから、自分の座ってる所を指差して。


『来るなら、そのままで』


「……」


 あたしは自分の姿を見下ろして。


「…ドレスのままで来いって事ですか…。」


 小さくつぶやいた。

 ガキは紹介したくない…と。



「こいつ、ナオト。」


 ドレスの上に、薄手のコートを羽織ってカウンターに行くと。

 隣にいた男の人を紹介された。


「あれ?日本人?」


「はい。はじめまして。さくらです。」


「はじめまして。」


 なっちゃんと居たその人は、Deep Redのキーボード。

 ナオトさんだった。

 なっちゃんが席を空けて、あたしが二人の間に座る事になって。

 ナオトさんから…なぜか色々質問攻めにあうあたし…

 そうなると、自然となっちゃんには横顔と言うか、後頭部しか見せない感じになっちゃって。

 …あたし自身、ちょっとつまんないな…なんて。


 ドレスのまま来いって言うぐらいだから、大人な感じで接しろって事よね?と思いながら、あたしはナオトさんと話してたんだけど…


「でも、なっちゃんには、いつもダメ出しされるの。」


 あたしが何気なくだした言葉に。


「なっちゃんって、ナッキー?」


 ナオトさんは、すごく嬉しそうな顔…

 それはもう、いい物見つけた!!的な…

 あたしはゆっくり、なっちゃんを振り返って…目を細めた。

 ごめ~ん…って顔なんだけど。

 通じてるかな。


 するとなっちゃんは。


「…すげーな。俺をそんな風に呼んでるのは、世界でおまえだけなんだぜ?」


 あたしの頬を…指でにぎにぎと…


「……」


「え…」


 なっちゃんが驚いて手を離した。

 …そうですか。

 驚きましたか。

 あたし、そんなに瞬間湯沸かし器みたいに火が点きましたか!!

 だって‼︎

『おまえ』って…‼︎

 頬をにぎにぎって…‼︎


「…ちょっと俺、急用思い出したわ。先に帰る。」


 そんなあたし達を見たナオトさんが、わざとらしすぎる言い訳をして立ち上がった。


「えっ?」


「今夜はおまえの奢りな。んじゃ。」


「おい、ナオト。」


「やだ…熱い…」


 あたしは熱くなった頬を両手で押さえて。


「…着替えて来る。」


 逃げるように、控室に向かった。



 バカ!!

 あたしバカ!!


 もう…

 これって、大好きじゃんか!!

 しかもバレバレだよー‼︎

 恥ずかしい‼︎



「シェリー、シェリー。」


 控室にいると、ショーンがあたしを呼んだ。


「…何?」


「今日、俺ちょっと早く帰りたいからさ…今夜はニッキーに送ってもらえよ。」


「…………えっ?」


 一瞬、ショーンの言葉が把握できなかった。

 この店では、あたしに限らず、ステージに出た女の子はショーンが車で送ってくれる事になっている。

 あ、バンドの日は別ね。

 あたしが早く帰りたい日は、オーナーが送ってくれたり…とにかく、このお店は女の子を一人では帰さない。


「ちょっ、ちょっと待ってよ。それだと、最後までいなきゃじゃない。」


「居てくれるんじゃないか?今夜は何だかゴキゲンだったし。」


「……」


「チャンスだぜ?」


「なー!!」


「何が、なーだよ。ガンバレよ。」


「……」


 な…何?

 あたし…そんなに顔に出てるの?


 着替えて、他の子のステージを聴きながら、ショーンのお手伝いをする。


「ニッキー、時間があるなら、今夜は最後まで居ないか?」


 早速、ショーンがそんな事を言ってる。

 ドキドキドキドキ…


「あ?ああ…まあ別に用はないし、いいよ。」


 ショーンが意味深な笑顔をあたしに向ける。

 こっち見るなーっ!!


 やだなあ。

 意識しちゃうよぉ。

 困る…ほんっと…恋って…困る…


 なっちゃんを見ると、他の子のステージもちゃんと一生懸命聴いてて…

 …何だか…

 ちょっと、ジェラシー…?

 自然と、唇がとがってしまった。



「じゃ、ニッキー頼んだよ。」


 ステージが終わって、なっちゃんと外に出ると。

 ショーンはそう言って…車を発進させた。


「えっ、おい…」


 なっちゃんは…なぜだか、少し困った顔。


「どうした?悪い物でも食ったのか?」


「…なんで…」


「変におとなしいから。」


「……」


 あたしは、拗ねた唇。


「この口は何だ。この口は。」


 なっちゃんが、あたしの顎を持ち上げた。


「やっ…」


 もう!!

 恥ずかしいよー!!


「……」


「……」


「もしかして、衣装のまま来いって言ったの、怒ってる?」


「…え?」


「なんか…素のさくらちゃんを見せたくなくてさ…」


「…え?」


「こういうの、独占欲って言うのかな…なんか…でも、気に障ったならごめん。」


 な…

 何言ってるの?


「ち…違うの…」


 少しうつむいて。


「…おまえ…って…」


 正直に…言った。


「え?」


「おまえって言われたのが…なんか…ドキドキしちゃって…」


「……」


 なっちゃんはキョトンとしてあたしを見てたけど。


「…くっそ…なんて事ないのに、俺まで照れるじゃねーか。」


 一緒になって、照れ始めた。

 …やだな…もう…

 なっちゃん、照れた顔も…カッコいいなんてさ…

 それ、あたしの事で照れてくれてるんだよね?

 嬉しくてたまんないよ…


 だけど。

 あたしがいい気になってるとこに。

 なっちゃんが言った。



「さくらちゃん。」


「…ん?」


「俺、実は…ついこないだまで女と暮らしてたんだ。」


「……」


 それを聞いて。

 あたしは…固まった。


「そ…そうだよね…人気者なんだし…なっちゃん…モテそうだし…」


 何とか口からは見合った言葉が出てきたものの…

 ……ショック。

 彼女いたんだ…

 しかも、同棲?

 ああ…クラクラする…

 あたしに恋したとか、それって、おままごとレベルだよね。

 同棲って事はさ…お…大人の世界だよ…

 一緒に…ベッドで寝たり…

 だけなら、いいけど…


 裸になって…


 ……ああっ‼︎

 ダメだ‼︎

 あたし、そんなの無理っ‼︎


 だけど…そういう相手がいたって聞いて、不思議じゃないのに…

 チクチクする。



「でも、別れた。一緒に暮らしてたアパートも引き払った。」


 アパート…

 世界のDeep Redのフロントマンが、アパートに住んでたってのが…なんとなーく…なっちゃんらしい気はする。

 うん。


「俺には結婚願望がなくて、子供も欲しくなくて。」


 結婚ねえ…

 まあ、どちらもあたしにはピンと来ないけど…

 なっちゃんって生活の匂いを感じさせないよね。

 うん。


「それで彼女と意見が分かれて…話し合って別れた。」


 …て事は、彼女は結婚したいし子供を欲しがった…と。

 まあ…女だったら普通に望むんだろうなあ…

 うん。


「…俺と一緒にいても、結婚とか出産は望めない。」


 …げっ。

 いや…あたし…キスもまだだから…

 そういうのは…全然いいし…


 て言うかさ。

 大人と付き合うと…いや、男の人と付き合うと。

 キス…とか、セックスとか…どうしても発生しちゃうよね。

 そういう雰囲気、バンバン作っちゃうんだよね。

 ミシェルだって、あたしがいてもお構いなしにキスしてさ。

 あんた邪魔。的な匂い醸し出すから、あたしは居候やめたわけだし。


 …なっちゃんの事は…好き。

 だけど…彼氏とかって、めんどくさい。

 …うん。



「こんな男でもいいって言ってくれる女は…そういないと思う。」


 ……でも。

 なっちゃんと居ると、心地良くて…

 ハグとか…されても、全然下心感じない。

 あたしの好きって気持ちが、なっちゃんの恋と同じかどうかは…わかんないけど…

 ……うん。


 決めた。



「だけど、俺は」


「いいよ。」


「…え?」


 あたしは、なっちゃんを見つめて言った。


「いいよ。あたし、結婚も出産も…今は全然興味ないし…」


 ああ…決めた。

 決めたけど…

 そしたらさ…言わなきゃ…


「…今は、だろ?いつか…」


「そのいつかまで、あたし達…一緒に居られるかどうかなんて、分からないじゃない。」


 あたしの言葉に、なっちゃんは無言。

 あたしはー…言いながら、罪悪感とか…緊張とか…不安とか…

 …もう、ぐちゃぐちゃ!!


「今は、今しかないから。今、一緒に居たいなら…一緒に居よう?」


「…俺みたいなおっさんでいいのか?」


 なっちゃんが、あたしの顔を覗き込む。

 …そんな、全然おっさんじゃない顔して言われても。

 て言うか、きれいな顔で見つめないでよ!!


「…一つ…お願いしていい?」


「何。」


「…キス…以上は…ちょっと…得意じゃないって言うか…」


「は?」


 一応…確認のため。

 ほんっと、体の関係は…無理。


「あの、あたし、ほら…こんな体型だし…自信がないから…」


「…つまり、セックスしたくないって事か?」


 なっちゃん‼︎

 ストレート過ぎ‼︎


「あっあっえっ…えーと……」


「まあ…別に俺は今みたいなままでもいいけど…」


 ぃやったーぁ!!

 やっぱり!!

 なっちゃんって、いい人間だーっ!!


 …って…

 ほら、あたし…言わなきゃ…

 その、いい人間を騙しちゃってるんだよ…?



「…なっちゃん…」


「ん?」


「…あたし、なっちゃんに嘘ついてる…」


「俺だって話してない事ぐらい山ほどあるぜ?」


「…隠し事じゃない。嘘だよ…」


「…どんな?」


「…言ったら、嫌いになるかも…」


 あたしが相当悲壮感溢れる顔をしてたのか…

 なっちゃんは、あたしの頭を抱き寄せた。

 うぎゃーっ!!

 って…内心…恥ずかしいし、照れくさいし……嬉しいし…

 なんだけど…


「言ってみ?大したことじゃないかもしれない。」


「……」


 思い切って、なっちゃんの背中に手を回して。

 服をギュッと掴んだ。

 ああ…怖い…怖いよ…


「あたし…」


「うん。」


「あたし、本当は…」


「うん。」


「…14歳なの…」


「……」


「4月で、15…」


「……え?」



 この時のなっちゃんの顔。

 これが『ハトが豆鉄砲を食らう』って顔なのか。

 って。


 あたしは、現実逃避みたく、その顔を焼きつけてた。




 そこから…

 ながーい沈黙が始まった。

 とりあえずアパートに向けて歩き始めたのはいいけど…なっちゃんは、額に縦線が入ってるみたいな顔になってて…

 これって、絶対パニックになってるんだよね。

 そうだよね。


 手をギュッと握ってみた。

 すると…そこからは、質問攻め。

 でも…悲しい事に…

 あたしには、答えられない事ばかり…!!



「…何も話してくれないんじゃ、信用できない。」


 そう言って…手を離された。


「……」


 なんて言うか…あたしが孤児じゃなくて。

 二階堂に関係なくて。

 14歳じゃなかったら…なっちゃんとは、ちゃんと付き合えてたのかな。

 って…

 それじゃまるで、あたしじゃないよね。


 あたしは孤児で二階堂の人間で、14歳だもん。

 で。

 あたしが14歳だから。

 なっちゃんはドン引き。

 今までは黙認してくれてた色んな事も、急に知りたくなって。

 でもあたしが言わないから…手も、繋いでいられない…と。



「…年齢の事は、話してくれてありがとう。」


 なっちゃんの低い声。


「…そうだね。もっと早く話しておけば良かった。」


 何だか、怒りで声が震える。


「そしたら…もっと早くに嫌われてたのに…」


「……」


「そしたら…」


「……」


「そしたら、こんなに好きにならなくて済んだのに…」


 口にして…ビックリした。

 やっぱりあたし…なっちゃんの事、好きだったんだ。

 しかも…すごくすごく。

 そう思うと…

 自分が14歳なのが、悲しいやら悔しいやら…



「ロリコンって思われるのが嫌なんでしょ。」


 あたしは、なっちゃんをキッと見据えて言った。


「ロ…」


「そんなの、もう、なっちゃんなんて、絶対…ロリコンって、みんな思ってるもん。」


「…はあ…あのなあ…」


 何なの!!その溜息ー!!


「いいもん。なっちゃんじゃなくても、あたしの事、可愛いって言ってくれる人、たくさんいるから。」


 そうだよ!!


 今は歌以外興味ないから、全然相手にしないけど!!


「……」


「もう、Lipsにもサイモンにも来ないで。」


「……」


 あたしが何を言っても…なっちゃんは無言。


「…あたしの事、見かけても知らん顔して。」


「……」


「気安く、さくらちゃんなんて呼ばないで。」


「……」


 …もう、本当に…ダメなんだ。


「…何か言ってよ…!!」


「……」


 あたしが叫んでも、なっちゃんは無言のまま。


「なっちゃんのバカ!!」


 自分でも引いちゃうぐらい、可愛く言っちゃったよ…

 もっと、ドスの効いた声で言いたいのに…

 なんて。

 冷静に思いながら。

 なっちゃんをその場に残して、走り去った。



 バカヤロー!!


 バカヤロー!!


 …だけど…なんでかな…

 涙が出ない。



「さくら。」


「はっ…」


 ふいに、アパートの前でヒロに捕まった。


「……引っ越したの…よく分かったね。」


「おまえの事は、なんでも分かるよ。」


「……」


 ヒロを部屋に入れて、お茶を出した。

 何だか…気が抜けちゃって…明日の事も考えられない。

 ヒロは何も言わず、何も聞かず。

 ただ…無言でお茶を飲んだ。



「ヒロ…」


「ん?」


「明日…バイト辞めて来るよ。」


「……」


「…電気椅子に座る事になっても…いっかな…」


「ふっ。何だよそれ。」


「……なんであたし…14歳なんだろ…」


「……」


 小さな丸いテーブルに頭を乗せて。

 そのまま溜息をつくと、涙が出そうになった。



 …なっちゃんは、何も悪くない。

 隠し事と嘘ばっかりな、あたしが悪いだけだよ。



 でも…好きなのは…


 本当なんだけどな…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る