4時限目
それから2週間ばかりはほぼ何事も起こらず過ぎた。
少なくとも表面上はね。
ある日のことである。
いつものように俺はその日の授業を終えて、電車に揺られ、新宿まで帰ってきた。
しかし、
『そいつら』の気配は既に校門を出た時から気づいていた。
俺は新宿駅を出てから、わざと遠回りして、事務所を目指した。
付けてきた人間は3人だ。
俺はわざと横道に逸れて、路地の奥にある児童公園に入った。
時刻はもう午後6時半過ぎ。
流石に都会の真ん中でも、こんな時間、こんな場所で遊んでいる子供なんか
いやしない。
俺は公園の中ほど、コンクリート製の滑り台みたいな遊具のところまで来て足を止め、後ろを振り返った。
そこにいた三人組、額に入れて貼り付けたような、
『ゴロツキ』だった。
『ずっとつけてきてるのは知ってたよ。しかし下手くそな尾行だな』
俺はポケットに手を突っ込み、わざと馬鹿にしたように笑って見せた。
『そうか・・・・なら、話は早ぇえな』
一番先頭にいたモヒカン男が野太い声で答える。
『痛ぇ目に遭いたくなかったら、黙って手を引きな』
『何から?』
俺はわざととぼける。
『決まってんだろう。N学園付属高校でお前さんがやってることさ』
『意味が分からないな』
『タダとは言わねぇ』
男は俺の足元に茶色の封筒を投げた。
『20万入ってる。それで手を打て』
『俺がそんなに安い男と思うか?』
『じゃ、仕方ねぇな』
奴は少し大振りのナイフで、俺の左の空気を縦に切り裂こうとした。
ケンカの仕方もなってないな。
手慣れた奴なら突いてかかるか、横殴りにくるもんだ。
だが、俺は自分の身体を右に泳がせると、エルボーの一撃をまっすぐ男の鳩尾にくれた。
次の瞬間、俺は男の腕をつかみ、一本背負いに男を投げ飛ばしていた。
大きく孤を描いた男の身体は、そのままコンクリートの遊具にぶち当たった。
『野郎!』
残りの二人が一斉にとびかかってきた。
チャンバラ映画なら悪漢はご丁寧に一人づつかかってくるものだが、現実にはそうはいかない。
もっとも、俺にとってはどっちも同じ、二人を倒すのに3分もかからなかった。
俺は先にのびちまった男の頬をはたいて目を覚まさせた。
『柔道が投げ技だけだと思って、甘く見たのが間違いだったな。俺のやってるのは畳水練なんかじゃないんだぜ』
俺はそういって、男が首から下げていた亀の甲型に『M』の飾り文字があるペンダントを確認した。
『さっさと帰ってお前らの親分に伝えとけ。俺はケリがつくまであの学校を離れん。何があっても、とな』
翌日、俺は当たり前のような顔をして学校に行き、柔道の授業をこなした。
『M』のペンダントをした人間は他にも何人かいた。その中には俊に絡んでいた連中もいたし、驚くべきことに教師の中にさえいたが、
『なるほどねぇ』と思っただけだった。
それほど奴らの『スクールなんとか』が根深く、昔から続いているってことなんだろう。
4限目の授業を終えて、昼休みに入った頃、俺と俊、それから後から出来た仲間(今ではもう30人ほどになっているが)が、いつものように道場に行こうとすると、
道場の入り口には目つきの悪い数名がたむろしており、俺達を見るなり、
『ちょっと付き合って頂きたい』
バカ丁寧な口調で声をかけてきた。
俊を始め、他の連中は怯えたように俺の方を見た。
だが、俺は、
『いいだろう。行こうじゃないか。だが先に昼飯だけは喰わせてくれ。腹が減っては何とやらっていうだろ?』
俺の言葉に向こうはあっけにとられたような顔をしていたが、
『わ、分かった』と、答えるよりなかった。
第一ラウンドは、こっちが先手をとったというところかな?
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