部屋
永人れいこ
白い
目が覚めた。
真白だ。
ここは一体どこでしょうか。真白の部屋を見回った。何もない。ドアも席も窓も机も何もない。ただ――白い。どういうようにここに来たでしょうか。起き上がりながら自分の記憶を甦った。この前には僕はどこでしょうか。
確かにこの前に僕は自分の家で自分の部屋の中に大学入学試験を勉強していた。けれど、どういうように自分の部屋からここに来たでしょうか。
この真っ白の部屋には全く何もないというのはちょっと大げさかも知れない。部屋の奥の隅には一人のおっさんが座って僕を眺めている。どこから見たことがある気がした。気持ち悪い。
彼は急に立ち上げて、部屋の真ん中に立った。
「何していますか?」
「君こそなにしている?」
「は?」
どうしてかわからないけど、彼は僕に怒っているようだ。
僕も立ち上げた。
「ここはどこですか?」
僕はもう一度、彼に質問を投げた。
「さーなぁ、ドアなんてなさそうから世界じゃないと思う」
彼は白い部屋を見回った。
「じゃ、夢?」
その言葉で彼は急に僕の元に来て僕の顔を強く殴った。痛みで僕は落ちた。口から血が出て白い地面を赤く塗った。
「痛かった?」
僕はうんと頷いた。この人は一体何なんでしょうか。どうして僕のことそんなに気に入らない。
「じゃ、夢じゃないなら、僕たち死んだってこど?」
彼は静かにある壁に背をもたせかけて僕を睨んだ。
「じゃ、これは天国かぁ?」
「天国じゃなく、お前と一緒にいないといけないなら地獄に決まっているよ」
確かにこの人と一緒、永遠にこの部屋の中にとじ込まれないといけないなら、地獄だと認めた。
けれど、どうして地獄でしょうか。僕は特に悪いことはしたことがないし、学校の成績も悪くないし、親たちの言うことも反対にしなかった。それより、この人に怒らせるように何したでしょうか。
「自己紹介しようか」
「いらん」
「どうして?」
「あの顔を見るとお前が誰だとすぐわかったから」
「でも、僕があなたは誰か知りません」
彼は乾いた笑いを上げた。どう訪ねても彼は名前は教えないらしいだ。やっぱり地獄かな、と思った。
「ねぇ、おっさん、どうしてここにいると思いますか?」
「お前と同じだと思うけど、」
「どういう意味ですか?」
「お前こそどうしてここにいると思う?」
僕はまた考えてみた。けれど、どう考えても普通の高校生だとしか思いつかない。お酒でもまだ飲んだことがない。
「僕は知りません」
「本当に?」
「本当ですよ」
「本当に何も知らない?」
彼は今、僕の方に白い地面を四つん這いに近寄ってきていた。歪んだ笑いを顔にゆっくりと浮かんだ。こいつは正気でしょうか。彼からできるだけに離れるように僕は後ずさって壁に背を押し付けた。
「本当に何も思い出さない?僕は思い出す」
彼は先に殴られたところにたどり着いた。彼の手は僕の血で赤く染めた。
「何も知らない!」
僕は怖さでうずくまって叫んだ。
「じゃ、明日は来るとお前は責任を取る必要はないよね」
「明日?」
このおっさんは一体何を言っているか全く理解できない。
「サユちゃんのこと」
「サユちゃん、彼女はどういう関係――」
けれど、関係あるかも知れない。先月ぐらいから、学校であるの噂に上った。聞いたらサユちゃんがなんでもする、と。それからいじめが始まった。最初に女性たちが小さな声で悪口した。次は男性たちはみんなの前に彼女に無理なことをお願いした。そういうように流れていじめはますます悪くなってきていた。けれど――
「僕には関係ない」
「それは本当か?」
おっさんはもう僕にたどり着いた。彼の顔は何センチぐらい近寄った。声は蛇のように僕の耳元にシューッした。
「本当だよ!」
「嘘!」
彼は僕の頭の近くに壁を手でぶつけた。壁も僕の血で赤くなった
「嘘だ!僕は全部思い出す!」
ぎくりとした。
「嘘じゃないよ。何もしていない」
「そうだよ。何もしていない。噂は全部嘘だとわかっても何も言わなかった」
「何もできなかったよ」
「勘弁してくれ。お前が何か言うきっかけは何度もあった。けれど、何もしなかった。勉強に集中しないといけないという言い訳で彼女の訴えかけるような目と合うとすぐそらした。卑怯者だ」
僕は何も答えられなかった。抗議したいけど、心の奥に彼が言うことが真実だとわかった。
「お前は最低だ。お前の顔もう一度でも見たくない」
彼は立ち上げてまた奥の隅に戻った。
僕は長い間そのままにうずくまっていた。自分の涙がもう我慢できなくなって溢れだした。泣いた。そして、チラッとおっさんに見ると彼も僕と同じように泣いていた。どうして彼も泣いているでしょうか。そもそも彼はサユちゃんと何の関係あるでしょうか。
僕は手で濡れていた頬を拭いて立ち上げた。今、隅に泣いているおっさんを見ると子供のように見えた。あの前の怖いおっさんはどこに行ったでしょうか。僕は彼にゆっくりと近寄った。彼は僕の動きにもうどうでもいいように無視した。咳を払った。
「――あのぉ、おっさんはサユちゃんとどういう関係ありますか?」
おっさんは自分の涙を拭いて乾く笑った。
「彼女は君の明日に自殺する」
「え?」
「あの日、僕は何もしなかった。一生ずっとどうしてもあの日に戻りたかったけど、お前はまだその後悔がない」
「どういうこと?」
彼は立ち上げて僕に近づいた。
「彼女の死のせいになりたくない?」
僕は頷いた。
「じゃ、明日彼女を助けろ」
おっさんは僕の肩を掴んで優しそうな笑いで僕の目に眺めた。
「僕と関係のあるのは彼女じゃなくお前だ」
目が覚めた。
部屋 永人れいこ @nagahitokun
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