第2話 招かれざる客

 今日も楽しい占い師ごっこだったわ。

 公爵家の力ですぐに王都ではなく別の街に女がいることがわかったから、調査記録さえ頭に叩き込んでおけば、後は相手に告げるだけの簡単なお仕事。

 そして見事、私は銀貨80枚を手に入れた。

 辺境の公爵家の密偵なんて、ほぼ出番はない。


 でもいざという時の密偵は必要。でも維持費は何もしなくてもかかるから、もったいないのでこうして私が度々使っているというわけ。

「記憶力にすぐれていることを、こーんな無駄なことにお使いになるだなんて信じられません」

 プリプリとセバスは私の膝の上で猫の姿のまま怒るけれど、猫の姿のままではいまいち説得力に欠ける。

 怒っていても愛らしいだけだ。



 エミリーが帰ってしばらくしてからのことだった。

 占いの館に招かれざる客がやってきたのだ。

 今日の予約は先ほどのエミリーだけなのに、扉がノックされた。


 認識阻害魔法をかけているのは、私の身につけるものだけではない。

 この建物一棟丸ごとだ、景色に埋もれるから、意識してこの建物に入ろうと思わない限り入れないのだ。

 だから、今訪問してきた人物はこの建物に迷い込んだのではない、自分の意思でこの建物にやってきたのだ。

 不安げな顔で猫の姿のままセバスは私を見上げる。



 返事をしないでいると、扉の向こうから声がした。

 私は慌てて目を閉じ意識する。

 私が今まで結婚できないのは、領地が僻地にあるからだけではない。

 セバスが何度も注意するこの加護のせいでもあるのだ。



 占い師には2種類の人間がいる。

 コールドリーディングといった会話術や事前調査で知りえたことで当てたと思わせる、先ほど私がエミリー相手にやってのけた偽物。

 もう一つは、私がこれからやることのように、事前調査でもなく会話術で的中させるのではない、加護の力で真実を当てることができる本物。



「少し前、ここに上等な服をきたご婦人が来ていたと思うが、彼女の知り合いなんだ」

 彼の言葉が扉を通りぬけぼんやりと宙に浮かび上がる。

『彼女の知り合いなんだ』の部分に赤色で浮かび上がるウソ、ウソ、ウソという文字。

 私の瞳は、彼は先ほどのエミリーの紹介など受けていない、彼の言っていることはウソであることを見抜く。


 こんな風に加護を使うと話している言葉が浮かびあがり、それが嘘か本当かわかる。

 それが私が婚約者をなかなか決めることができない最大の原因。


 私の占いの大半は、公爵家というバックボーンをつかった種も仕掛けもある偽物で。

 一部だけは私の加護を利用した本物なのだ。

 それゆえに私は情報収集力と本物の融合型ゆえに、たった一年で占いの的中率が高い人気占い師にのし上がれたのだ。



「紹介状がない場合は即金で金貨10枚」

 絶対に払えない額を吹っ掛けた。

 本物のお客様なら後日紹介状を持ってくるからそれで終わりのはずだった。


 少しの間。


「約束も招待状もないのだから、しょうがないね。持ち合わせが足りてよかったよ。金貨10枚、即金で払おう」

 扉の向こうから再び彼の言葉がぼんやり浮かび上がる。

 問題はそれらすべてにホント、ホント、ホントと出たのだ。

 この扉の向こうの人物は本気で、私が吹っ掛けた金貨10枚を払うつもりなのだ。

 私と彼の契約が成立したと判断した魔道具の扉は、私の返答よりも先に鍵を解錠してしまったのだった。

 私は慌てて、扉が完全に開き彼が部屋に入ってくる前に、奥の部屋に逃げ込む。

 猫の姿になったセバスを待つが、やってこない。

 彼は齢50を過ぎているが直系の私の護衛だ、直系の私が危機に直面する可能性があるのだ。私と一緒に逃げるはずもなかったのだ。


 ニャーとセバスの鳴く声が聞こえる。逃げろの合図だ。

 私が始めたお遊びなのだ。セバスを一人おいておけるわけもない。

 でも、再びセバスがニャーっと猫らしくないた。

 私が逃げずにいるのをお見通しかのように逃げろと。



 私の手元には転移魔法のスクロールが一枚ある。

 スクロールとは、特定の魔法が使えない人でも、魔法の力を練り込んだスクロールと呼ばれるはがきサイズの紙を破ることで、1回使いきりでスクロールに書かれている魔法を使えるというとても高価な魔具である。

 私の手元にあるのは、公爵家ヴィスコッティ家の魔道具屋から購入した正真正銘の本物。

 本当は今回の仮面パーティーが終わってから僻地にある領地までひとっ飛びで帰るために購入したのだ。

 ただ転移魔法はスクロールを破いてから、魔法で私を転移するまでラグが30秒ほどある。

 セバスは今必死にその時間を稼いでるのだ。

 逃げるならセバスも一緒に連れていかないといけない。



 私はたまらず、飛び出した。

「迷える子羊よ、どうぞおかけなさい」

 セバスが睨むがそんなことを言っている場合ではない。


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