後日談
「……で、結局どうなるの?」
北城さんが、書きあぐねる僕に対して容赦なく問う。
「プロットでは、この後プログラム自身が勝手に文字を増殖させて、果てなく小説を作り続ける。登場人物の名前が決まり、背景にある時代設定も細かく設定されて、物語そのものがどんどんと厚みを増していく。DとJは、プログラムが書き続けるこの物語をどうにかして世に知らしめようと、出版計画を建てるんだけど……」
「建てるんだけど?」
「最終的には、DとJの話すらも、プログラムが書いていた物語である、ということが判明する」
「……なるほど、DとJの話も、その、文字増殖プログラムが書いていた一種の物語に過ぎない……というわけか」
「そう、要は作中作の連続なんだよ」
「……で、どう終わらせるの?」
「そこを悩んでるんだ。こうやって、どんどん文字数を増やす形で話を膨らませてきたけど、どこで収束をつけようかって。どうやったら、切りの良い終わり方になるのかなって」
僕の説明に、弁解に、北条さんは真剣に考える。
「……プログラム壊しちゃえば?」
「……壊すの?」
「えっダメなの?」
「ダメじゃないけど」
「だったら壊せばいい」
「切りが良い終え方かな」
「でないと永遠に続くよ?」
「さすがに、それは困るかな」
「でしょ、誰かが壊したらいい」
「そうしよう……でも誰が壊す?」
「作中作の連続なんでしょう、それ」
「確かにそうだね。誰かが終わらせる」
「なら、音淵くんが終わらせたらどう?」
「僕がこの物語の中に入り込んで壊すの?」
「それがプロット的には一番いいと思うけど」
「そうかな。できれば僕は登場させたくないな」
「身も蓋もないことをこれから言うけど、いい?」
「なんだか少し怖いけどいいよ。どうぞ言ってくれ」
「音淵くんが、今ここでこの物語を書いているのよね」
「物語上はプログラムだけど、実際に書いてるのは僕だ」
「物語は、書いた本人に終わらせる権利がある。わかる?」
「わかるよ、他でもない書き手の僕が終わらせるべきだよね」
「そう。つまり音淵くん以外じゃ説得力が無いってことになる」
「物語を終わらせられるだけの適任者が、僕以外には存在しない」
「作中でプログラムを出したのも、小説を書かせたのも音淵くんよ」
「そうだね、僕が書かなければ、プログラムは生まれなかったわけだ」
「ふふ、ちょっと変な言い方だけど、まあそういうことになっちゃうね」
というわけで、プログラムの文字増殖は四十回でストップした。というか僕がそのようにさせた。冷静に考えたら、二倍を続けるということは、それまでに書いてきた分量を二倍する、という話であり、文字数は簡単にカンストする。手元の計算機を使って数字を二倍していった結果、四十回目で電卓に「e」が表示されたから、という単純な理由に過ぎない。だから結局のところ、僕はプログラムを壊してはいない。
僕自身が作り出した文字増殖プログラムは、そのあまりにも酷い稚拙さにより、自ら壊れてしまったのだ。
増殖小説 氷喰数舞 @slsweep0775
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