第十一段階


 小説を書いて人々に売る職業に関して私が言えることはただ一つ。それは「絶対になれない職業である」こと。当たり前だ。私は人間であり、小説家は人間の職業ではないからである。絶対になれない職業なのだ。きっかけは本当に単純な出来事である。本を読んだのだ。機械が書いた本。話。物語。起承転結。まだ小説を機械が書いているという事実を知らなかった幼少の私は、そうして小説家を幼いころから志した。歳を取って、知識を身につけるにつれ、人間に小説は書けない、という一つの真実に辿り着く。だが、それでも、私には諦めることができなかった。


 出版されている小説の全てを、機械が書いている。その座を揺るがすことは誰にもできない。しかしそれでも、私はこの手で小説を書きたかった。どうにかして小説を書いて世に発表したいと思った私は、機械に隠れてこっそりと小説を書くことにしたのだ。見つかれば、多分、取り上げられて殺される。どうなるか、という想像が私につかないのは、人間の誰もが自らの手で小説を書いていないからだ。或いは、こっそりと取り上げられて殺されているのだろう。過去の文献を見るに、出版の世界は大幅な変化を遂げたらしい。機械の台頭は予想できなかったようだ。


「私よりも頭脳の優れた人間がいない」というデータを、人類は弾き出した。それはつまり、人間自身が自分の頭で考えることをやめた、ということである。考える必要がなくなったのだ。人間が持つ欲望は全て仮想現実の中で解決された。小説もその一つである。人々が個々に考える、求める、それぞれの筋書きを、機械が満たしてくれる。労働という概念も消えた。いよいよ人間が自身の存在理由に疑問を抱き始めているところを必死に抑えているのである。人々が自分の立ち位置に悩み、その末に死を選ぶようなことがあっては、機械の存在理由も消滅するから。


 そしてまた、私は殺される。ここまで書いた文章が、彼らにバレてしまったためだ。どの道、この老いぼれを生かす理由などはないはずだから、さっさと殺してほしい。殺されてる最中も私は書き続けるので、せめて私が書けなくなるまで、つまり完膚なきまでに殺し尽くしてほしいところ。私は何度も何度も夢に生きて夢に殺され、そしてまた再度、夢を見出し、同じことを繰り返す。できれば私が同じことを繰り返せないように殺して欲しいのだが、因果律の操作は彼ら機械をもってしても不可能であるらしく、結局私は殺されて終了する。終了したことにされる。

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