第十段階

 小説家という私の将来の展望の上に描き出している夢のような職業は、至極儚い存在である。私はそんな存在になりたいと夢想し続け、今に至っている。ここまでで、この時点で、私の思考回路が壊れていることは既にわかるだろう。そんな職業は、今この時代に存在しないのである。


 過去数百年の文献によれば、小説を書いていたのは機械ではなく人間だったそうだ。機械が存在しなかった時代もあっただろう、容易に想像できる。ただ一つ疑問なのは、人間が小説を書いた際、物語上の矛盾は生まれないのだろうかと。整合性を取れるほどの思考が可能だったのか。


 過去の人間に向けて物事を書くのであれば。現時点で私が最も頭の良い人間だと崇められていることだろうか。しかし私自身、小説家を目指せば目指すほど、小説を書く機械からは目の敵にされる。それでも目指すのだから、過去の人間からは愚か者だと思われても仕方がないだろう。


 殺されながら文章を書く心持ちを、過去の人間は体験しているのだろうか。こうして機械に殺されながら、私が夢想した小説家自身に殺されながら、文章を書いたことがあるのだろうか。過去の人間は、殺されるとすぐに死ぬと書いてあった。文献に誤りがないのならば、凄いことだ。

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