最高の目覚め

別所高木

第1話 呪い姫の目覚め

オペレーションルームに冷静な声が響く。


室温 28℃

湿度 50パーセント

姫の体温 26.5

血圧下 82

血圧上 122


目覚め時刻 20分前

布団除去開始

鳥のさえずり音再生開始

送風機、さわやかな風レベルで送風開始


ブーン!

姫の眠っている部屋の自動ドアが開いた。


王子入場

姫と姫の状態をチェックするスタッフがいる部屋にK3(王子)が入ってきた。


オペレーションル司令官がつぶやく。

「頼むぞ!K3」

「山下司令官、生まれてから、ずっと王子教育を続けてきたメンバーの中でK3は、全世界の女性による投票で男前一位になった男前です。これ以上の王子はいません。これで、目が覚めない女性はいません。きっと大丈夫です。」

「きっと?」

「いえ、絶対であります。」


目覚め時刻 10分前


K3と姫のいる部屋のスピーカーにオペレーションルームから指示が届いた。

王子のオーラルチェック開始。


スタッフたちはテキパキとチェックを行った。

口内状態:OK

口臭:OK

唇:若干乾燥気味表面粗さ有→リップクリーム塗布により状況改善OK

目の光沢:OK

オールOK


目覚め時刻5分前


K3は、目覚めのキスのポジションに移動してください。

姫の部屋のスタッフは退場してください。


山下司令官がマイクをおもむろにつかんだ。

「K3、お前は生まれてから、今日この日の為に教育を受けてきた。

自分の力を信じて任務を遂行してくれ。頼むぞ!」

K3静かにうなずいた。


オペレーションルームからの通話はこれで最後になります。

これ以降の作戦はK3の自律行動でお願いします。

時間の確認は壁の時計で確認してください。

通信終了します。


K3、目覚めのキスのポジションに移動しました。

目覚め時刻1分前

K3脈拍急上昇してきました。

脈拍140


目覚めの時刻30秒前

K3の脈拍 150

どうしますか?

「かまわん、このまま継続だ。」


目覚めの時刻10秒前

目覚めの時刻5秒前

タッチダウン

唇接触確認

「姫は目覚めたか?」

「モニター、姫の表情カメラに切り替えて」

姫の表情変化なし

脈拍変化なし

心拍変化なし

10

11

12

13

山下指令はうなだれた。。。。

「また失敗か・・・・」

「山下司令官、人類はどうなってしまうんですか?」

「さぁな、これから先は地球防衛軍の作戦が全てだ。我々にできることは、ここまでしかない。ご苦労だった。」


椅子に深々と腰掛、天井を見上げ山下司令官は回顧した。

あれから50年か・・・・山本博士


私は山本博士と潜水士の大山の3人でオジポ帝国の海底遺跡の調査に行った。

潜水をして宮殿を調査していると、宮殿内に空気に満たされたエリアがあった。

そこから、宮殿の奥につながる通路を進んだ。


山下君。人がいるぞ!

なぜ、この宮殿に我々以外の人間がいるんだ?


子供?

女の子?

こんなところに、人間がいるなんて、、、なぜだ?

しかし、可憐だ。


「お嬢ちゃん、どうしたの?」

少女は振り向きもしない。

「邪魔をするな!」

少女は赤いな光を発する大きな水晶玉を抱え、何かつぶやいている。

やがて水晶玉の光は青く変わっていった。


「ふぅ、やっと治まった。。。。

貴様ら、何者だ?

人の城に勝手に入ってくるとは、泥棒か?」


「ち・違う!この遺跡が太平洋に突然現れたから調査に来たんだ。」

「まぁどちらでもよい。お前らはこの水晶の光を浴びたのだ、宮殿から出て生き続けることはできない。腹をくくってここで暮らすことだ。」

「この宮殿から出てはいけないって、出たらどうなる?」

「出てみればわかる。ただし死ぬから覚悟を決めてからな。あと、これから私は眠る。次に私が目覚めた時の水晶の光を浴びれば宮殿から出ることができるようになる。気長に待ってくれ。」

「明日になれば出れるのか?」

「せっかちだな、私の眠りは深い、基本的に起こすことは不可能。毎年一回夏至の日の出が一番眠りが浅くなるので、そこで起こしてくれ。ただし50年経っても目が覚めなかったら、地球に隕石が激突するので人類は消滅すると思ってくれ。」

「隕石?一年に一もう寝る。おやすみ。最高の目覚めをさせてくれ。」

少女はすぐそこにあるベットに入って眠ってしまった。


「山本博士、隕石とか宮殿から出られないとか言ってましたけど。。。」

「とにかく、もうちょっと話を聞こう。山下君、彼女を起こしてくれ。」

「おい!起きて!おい!」

肩をつかんでゆすっても全く反応しない。


「山本博士、駄目です、まったく反応ありません。」

「ちょっと代わって」

ガイドの大山は、おもむろに少女の顔にビンタを浴びせた。

「こらガキ!大人をなめるんじゃねーよ。」

大山のビンタはさらに続いた。

しかし、少女は何事もないように眠り続けている。

しかも、あれだけ殴られても顔に傷一つつかない。


大山は、息を切らせながら、帰ると言い出した。

山本と山下は、少女の忠告を確認したほうが、いいことを伝えたが、怒り狂った大山には通じなかった。


3人が入ってきた通路を引き返していくと、水がなくなっていた。

遺跡は海面に浮かび上がっていた。


大山は足早に歩き、宮殿の出口から出た。

その瞬間、大山の体から力が抜け、よろよろと倒れていった。


死んだ。。。。


・・・・・・

あれから50年、この謎の少女と水晶の光で人類は、50年後の隕石も信じるよ言うになり、必死になって生き抜く方法を考えた。

少女は何年たあっても老化することなく眠り続け、いつしか姫と呼ばれるようになった。

宮殿は改造され研究施設もどんどん拡張された。


少女を眠りから覚ます為の組織のトップに山本博士が、就任したが目覚めさせることができずに、昨年、宮殿から外に出て亡くなった。

もう、年齢も90歳を超えていたので、死因の特定もできなかった。


最後の望みを託された山下が司令官となったが、失敗した。


「地球防衛軍より入電、隕石破壊に失敗したようです。」

辺りがどよめいた。


「我々はできることをすべてやった、君たちの協力には大いに感謝している。私の力が及ばなく申し訳ない。すまんが、姫と二人にしてくれ。」


姫と二人きりになった部屋で山下はベットの脇に腰掛、姫を見ながら話しかけた。

「50年も苦しい思いをさせてきて、ごめんね。。。

ほんとに、つらかったと思う。

いつの間にか君は呪い姫と呼ばれるようになってしまったし、

水につけられたり、電気ショックを与えられたり、知らない男とキスさせられたり、、、、

ほんとにごめん。。。。

隕石が落ちてくるまで一緒にいよう。

いや、隕石がぶつかっても一緒に行こう。いつまでも一緒だ。」


姫は眠り続けている。

山下は姫を抱きかかえてバルコニーに出た。

爽やかな潮風が吹き渡り、太陽の光がきらめいていた。

ただ、頭上には肉眼でも隕石が見えるようになってきた。


「僕には、君と一緒に見たい景色が沢山あった。

。。。。

。。。

結婚しよう。。

70を過ぎた男が言ってはダメなことだな。」


山下は水平線を見つめた。


「いいのか?お前が50年間私の面倒をしっかり見てきたことはほんとにうれしい。でも、民のいない、、、、もうすぐ亡びる国の王になるのだぞ、、、、」

山下は驚いた。

姫が目を開いて山下を見つめている。


山下は首を縦に振った。


「頭上に隕石はあるが、最高の目覚めをありがとう。

話したいことは山ほどあるが、宮殿内の全員に水晶の光を浴びて宮殿の外に退避させてくれ。」


5分後、全員が宮殿の外に出た。

宮殿の出口で姫が山下に箱を渡した。

「これは大切な物が入っている。預かっておいてくれ。決して開けないでね。」

「一緒に行こう。」

「いや、私はあれを何とかしなくてはならない。外で待っていてくれ。」

そう言い残して、宮殿の奥に戻っていった。


そのとたん、宮殿が光を放ち始めた。

周囲がまばゆい光に包まれ、宮殿は光の玉となって空に上がっていった。


上空でまぶしい光が発生し、隕石は消えた。

それから3日間流星が流れ続けた。。。。


おしまい

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