夢幻の果て

亜未田久志

サイハテ


 砂煙に巻かれ、前が見えない。

 ゴーグルを付けて、なんとか目に砂が入らないようにしている。

 ひたすら進むは砂漠。

 襤褸切れを纏って、ただひたすら進む。

 オアシスも、その蜃気楼すら見えやしない。

 少年、七瀬那奈斗ななせななとは歩く。

 きっとこの砂漠を超えられると信じて。

 だがしかし、まだ果ては見えない。

 ゴールが見えない。というのはとても辛い事だ。

 ゴールが決まっている、ただそれだけで、もう少し頑張ろうという気になれる。

 だけど七瀬は足を止めない。

 喉が渇く。

 だが辺りを見回しても、あるのは。

 砂、砂、砂、砂、砂、砂砂砂砂砂…………

 思わず足を砂にとられそうなる。

 一歩一歩慎重に前へと進む。

 するとどうだろうか。

 遠くに黒い点のようなものが見えた。

 人影だ!

 七瀬は思わず駆け足になる。

 砂のせいで転びそうになりながら人影目掛け一心不乱に駆け出していた。

 ようやく黒い点は人の輪郭を現した。

 でも、まだ遠い。

「おーい!」

 思わず声をかける。

 乾いた喉から発せられた声はがらがらだ。

 人影はこちらに気付いたのか、振り返った。

「ちょっと待ってくれ!」

 必死に書けよってようやく、その人物のもとへとたどり着く。

「君も、この砂漠を旅してるのかい?」

 顔を布で覆った相手に向かって問いかける。

「うん、そうだよ。あなたも、そうみたいだね」

「ああ、でもとっても大変だ、心が折れそうだ」

「じゃあ一緒に行こうよ、少しは気持ちが楽になるよ」

「ああ、俺もそう言おうと思ってた!」

 二人は並んで歩く、走ってきた七瀬は息を切らしていたが。

 少しペースの落ちた七瀬に相手もペースを合わせてくれる。

「君、名前は? 俺は七瀬那奈斗」

「私? 私は……うーん、内緒、かな」

「ナイショ? 変な名前だね」

「え? ああ、あっはは、うん、そうでしょ」

 互いに笑いあう。

 変な勘違いを起こした七瀬を訂正するでもなくナイショはそのままそれを肯定し自分の名前とした。

「ナイショも果てを目指してんの?」

「うん、まあね」

「俺も、どうしてか分からないけど、果てに行かなきゃいけない気がするんだ。」

「じゃあ一緒に行こうか果てまで」

「いいの!?」

「もちろん、私、あなたといてとっても楽しい」

「へへっ、そうかな、じゃあ一つ面白い話を聞かせてあげるよ――」

 他愛もない話が続く。

 だんだんと二人の会話も弾んでいく。

 もう果てなどどうでもいいかのように二人は笑いあっていた。

「本当に君といると楽しい!」

「私も!」

 七瀬もナイショもご機嫌で、手をつないで二人歩いていた。

 しかし、そこで、地平線の向こう光が見える。

「え……まさか、あれって」

「果てだわ」

 ナイショが断言する。

「……果てまで行ったら、もうお別れなのかな」

「そんな事ないわ、私達は果てにいくべきよ」

「……うん、分かった」

 二人はゆっくりと歩きだす。

 一歩一歩を、踏みしめるように。

「ねぇ、ナイショ、俺は君の事が好きだ」

「ええ、私もよ那奈斗」

「やった! すごく嬉しい!」


 そしてとうとう二人は果てへとたどり着く。


「眩しい、とっても眩しい」

「これが目覚めよ、那奈斗」

「なあ、ナイショ、本当にお別れじゃないんだよな?」

「ええ、

 ナイショは顔に纏った布を取った。

 その顔は――


 朝、ベッドの上。

 隣には最愛の妻がいた。夢で最後に見た顔がそこにあった。

「ん……珍しい、今日は早起きなのね」

「ああ、君と会った時の、会ってからの夢を見てた。って言ってもなぜか砂漠を歩いてたけど」

「なにそれ、私との付き合いは砂漠を行くようだったって事?」

「違う違う、砂漠だったけど、すっごく楽しかった!」

「そう、なら良かった」

「でも君、名前を教えてくれな買ったんだ。どうしてだと思う?」

「そりゃきっと、聞き覚えのある名前を聞いたら、アナタの目が覚めちゃうって心配したんじゃない?」

「そっか、うん。おかげ良い目覚めだ、とっても良い目覚めだ」

「なら良かった、じゃ行きましょ、私達の砂漠へ、オアシス目指して」

「もう、ここがオアシスだよ、なんてね」

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夢幻の果て 亜未田久志 @abky-6102

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