第17話
日曜日、その日は天気も影人の心もとても晴れやかであった。
終戦。
年度末の書類地獄を抜け出し、飲み会のどんちゃん騒ぎを終えて優雅な昼下がりを堪能している。
魔法少女の姿で
雪華晶はラフな格好でベッドの上に寝転がり、ゲームをしていた。
影人の身体は二日酔いで死にかけてるので、快適な雪華晶の身体は丁度良い。
変身できなければ、1日中ベッドの上で苦しみながら過ごすことになっていただろう。
こんなダラダラしてる雪華晶でも、一応やる事はやっている。
昨日も魔法少女の務めを果たすべくシャドウを狩っていた。
「渋いわぁ……」
雪華晶が言ったのはゲームのアイテムのドロップ率の事だが、シャドウを狩った時の報酬も渋かった。
ポイントで交換できる通販の商品を現実の商品と比較した場合、時間当たり学生バイトの時給以下と言う結果になった。
東京という魔境で星10以下のシャドウを見付けるのが難しいと言う事もあるが、魔法少女でしっかりとした生活を送りたければ、星11以上のレッドランクと戦わなければいけない。
おそらく、レッドランクで安定して戦えるくらいが魔法少女の平均なのだろう。
「あ、宝玉出たわ。10体で3個……本当に運が良くなってるのか分かんない効率ね」
ゲームで運気上昇の効果を確かめていると不意に影人のスマホが鳴る。
ゲームに夢中になっていた雪華晶は画面を見ずにスマホを手に取って電話に出る。
「はい」
『みぎゃあああああああ!?!?』
スマホの向こうからつんざくような悲鳴が上がって、雪華晶はスマホを耳から離す。
そして、気が付いた。
変身を解き忘れた!
急いで変身を解くとその瞬間に強烈な吐き気が振り返し、つんざくような悲鳴がダイレクトに脳の深部を揺らす。
二日酔いだ。
「頼むから黙ってくれ!」
『誰!?今の声、誰!?』
「ゲームの音だ……つか頼むから声を抑えてくれ……高音は二日酔いに響く……」
改めてスマホの画面を見て通話相手を確認する。
通話相手は今年の春から高校生になる従姉妹だった。
話すのは正月以来だろうか?
「入学式を見に来いって話なら無理だぞ。その日は娘の入園式に行く先輩の代わりをしなきゃいけないからな」
『ハズレ。入学式じゃないし』
一体何の用事なのだろうか?
『ママからの伝言。“うちの娘達をヨロシコ!”』
「おい、その言葉は」
影人が全部を言う前に電話が切られる。
影人の脳裏に浮かんだのは子供時代の思い出。
伯母が影人に自分の娘達の世話を押し付ける時に決まって言うセリフだった。
影人の母親である義姉との買い物からちょっとした小旅行まで。
そんな時に従姉妹の世話を出来るくらいの年齢だった影人はとても便利な存在だった。
ピンポーン
部屋のチャイムがなる。
「……」
そして、観念したかのように影人が玄関の前に向かう前にガチャリとドアを開けられて、中に二人の少女の侵入を許してしまう。
「「へい!兄ちゃん!」」
完璧なハモリを披露しながら全く同じ顔をした二人の少女を見て影人は溜息を吐いた。
「
秋月楓香と秋月穂香。
彼女達は夏山影人の従姉妹である。
一卵性双生児でその容姿は瓜二つだ。
肩口で切り揃えられた日本人特有の限りなく黒に近い茶色の髪、あどけなさが若干残るものの既に美人への成長を予感させる整った顔立ち。
スタイルもその年にしてはかなり良い。
そして、厄介な事に彼女達は容姿に差異を作るどころか、全く同じ格好とで同じ髪型にするなど態と容姿を合わせてきてる。
なので、生みの親も実のところ容姿に関しては見分けが付いていない。
「遊びに来たのか?」
「全然違うし」
「この格好見て気が付かない?」
二人は鏡合わせのように同時に反対方向へくるりと一回転する。
紺色のスカートがひらりと舞う姿はとても眩しい。
「もしかして、高校の制服か?態々見せびらかしに?」
「兄ちゃん態と考えないようにしてる?」
「世間一般的に入学式は明日って分かってる?」
嫌な予感がする……
「それにしても高校の近くで助かったし」
「部屋も兄ちゃんの隣借りれたし」
「おかげでママ達も許可出してくれたし」
「晴れて高校二人暮らしデビューだし」
二人はお互いの顔を見合わせてねーと言い合う。
「まさ……か」
「「兄ちゃんの隣の部屋に引っ越してきました!」」
「ま、待て!いつの間にやってきた!?」
「先週だよ」
「日曜日の昼下がり」
「結構五月蝿かったと思うんだけど」
「気付かなかったの?」
騒音が丸聞こえになるようなマンションではないが、思い返してみれば確かに隣に誰か越してきたような気配があった。
「「と、言う訳でヨロシコ!」」
悲報
従姉妹の襲来により影人のプライベートが消滅のお知らせ。
しかも、影人の部屋の合鍵も所有済み。
これから四六時中従姉妹が部屋にやってくる事を警戒しながら魔法少女活動を行う事になってしまった。
全然運気上昇の効果ねぇじゃねぇか!!
心の中で文句を言ったところで、どうにもならない。
影人自身は色々納得できないだろうが、即バレしなかっただけとても幸運である。
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