第18話
「どうして俺がこんな事を……」
深夜、影人は壁に耳を当てて隣の様子を探る。
物音はしてないから、おそらくあの二人は眠っているのだろう。
(つか、なんで魔法少女なんだよ。ふざけんな!せめて特撮ヒーローにしろよ!)
もしも、魔法少女姿を見られて、身内から生涯永遠に複雑な視線を送られ続けると考えるととても恐ろしい。
(そもそもどうしてアイツ等が俺の部屋の合鍵持ってんだ?俺のプライベートがねぇじゃん!もう魔法少女廃業だろ!)
出るわ出るわ小声で漏れる小さな不満。
かつては大切なモノがモゲて無くなる決死の覚悟で変身をしたというのに、その時の心構えを何処かに忘れてきてしまったようだ。
(寝てるよな?起きてくれるなよ)
ただし、影人には魔法少女を辞める選択肢はない。
先日のヒノミコとナビィの会話。
影人が魔法少女としての力を習得出来なかった場合に何かしらナビィの身に起こると言う話だった。
それは逆を言えば、仕事を放棄した場合に影人の身にも何か起こる可能性があると言う事だ。
所謂、契約違反のペナルティ。
ナビィにあってこちらにはないとは言い切れない。
それにペナルティとは関係無く、魔法少女として力を付けなければならないと影人は考えている。
その内、魔法少女全体を巻き込む何かが起きる。
その時までに生き残れるだけの力を蓄えたい。
「変身」
男性から少女へ
魔法少女雪華晶は今宵も腕を磨くべくハザマの中へ身を投げた。
―――――――――――――――――――
雪華晶の相手は星6〜10のイエローランク。
辛うじて現実世界に影響を与えるか与えないか微妙なラインのシャドウだ。
シャドウ予報の画面に表示されるイエローサークル内に入った雪華晶は目の前に現れたシャドウに言葉を失う。
丸くて白い身体に4つの腕が付いており、その身体にはニコニコお目々に丸い口の顔が付いている。
「……すっごい見た事あるフォルムね」
主にインターネット界隈で……
件のシャドウはこちらに攻撃する気が無いのか腕をシャカシャカ動かしながら何かを探している。
雪華晶はスマホでとあるアプリを起動して、シャドウに向ける。
「えーと……“探求者”清らかな乙女の飽くなき探究心が産んだ純白のシャドウ……清らか?」
雪華晶はジトッとした目で何かを探し続けてるシャドウに疑いの眼差しを向ける。
何故なら彼女が知ってるその生物は清らかとは程遠い存在だからだ。
少し疲れたのかシャドウは何かを探すのを中断して、顔を上げて溜息を吐くかのように鳴き声を漏らした。
『ホモォ……』
「ホモォ言ったわよね!?ホモォって!!やっぱホモォじゃない!何が清らかよ!淀んで腐り落ちてるじゃないの!」
叫んでる雪華晶に視線を向けて、シャドウは一言鳴き声を漏らした。
『ホモ?』
ザシュ
「ブッ殺す」
おそらくただの鳴き声の筈なのだが、まるで問い掛けられたかのように感じて雪華晶の中の男の部分で糸よりも脆い堪忍袋の緒が切れた。
害があろうがなかろうが知った事ではない。
雪華晶が心の中でブッ殺すと決めた時には既にシャドウは細切れとなっていた。
「ふぅ……?」
そんな時だ。
雪華晶はふと何かの視線を感じて周囲に視線を巡らせる。
目に見える範囲には何も居ないように見えるが……
「上だよ」
何故か空から声が聞こえてきた。
雪華晶が視線を上に上げるとそこには見知った顔が空中に浮かんでいる。
「レインバレット!」
「久しぶり!元気してた?」
魔法少女レインバレット。
かれこれ3回目の遭遇になるだろうか。
「身体は元気よ。ところで、アンタってここら辺で活動しているの?」
「そうだよ。ま、雪華晶とは所謂ご近所さんってとこかな」
雪華晶は近くに降り立ったレインバレットを見て、とある疑問をぶつける。
「レインバレットは空を飛べるのね……もしかして、魔法少女って皆空を飛べるのかしら?」
「みんなって訳じゃないけど、飛べない魔法少女は珍しいかな。その代わりそう言う魔法少女ってメチャクチャ近接戦闘が強かったりするんだよ」
「あー、そう言えば似たような話を師匠が言ってた気がするわね。近接型は対空戦闘が苦手とか何とか」
「師匠?」
雪華晶はヒノミコの言ってた事を思い出しながら話しているとレインバレットは師匠と言う単語に疑問符を浮かべた。
「アタシってどうも魔法少女としての力を使いこなせていないらしいのよね。だから、ナビィが師匠を用意したのよ」
「そうなんだ。魔法少女の師匠ってのは私も初めて聞いた」
「普通は要らないらしいわね。参考までに聞くけど、レインバレットは魔法とかどう覚えたのよ」
「こう……内から自然と湧き出る感じ?雪華晶も初めて会った時はそんな感じで魔法を覚えてなかったっけ?」
レインバレットに言われて、雪華晶も最初の魔法を覚えた時は自然と内側から溢れるような感じで覚えていた事を思い出した。
「そうよね……」
雪華晶は自分の手の平に視線を落とす。
まるで源泉から流れ出す水を堰き止められたかのように、内から自然と湧き出るような感覚は無い。
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