第5話

「次はインベーダーについてだ。文字通りの侵略者だよ」


 インベーダーはこことは違う別世界からやってくる侵略者のようだ。

 侵略者の目的は……


「……世界の破壊」


 やけに実感の籠もった声だった。


「また安直な……ニチアサのアニメじゃないんだぞ」

「とは言ってもボク達が掴めた情報はそれだけしかないんだよ。倒したり捕縛したりすると自爆するしね」


 影人の脳裏には昨夜のインベーダーが白い閃光を放ちながら大爆発する瞬間の映像が流れる。

 そして、疑問を覚えた。


「俺、どうやって助かったんだ?」

「ああ、それはね。ボクには身体の消滅と引き換えに魔法少女を緊急離脱させる機能があるんだ。それを使ってキミをこっちの世界に戻したんだよ」

「……それだと」

「そう、今居るボクは昨日の個体と別個体って事さ。でも、気に病む必要はないよ。この身体は本体が操るドローンみたいな物だから」


 黒毛玉は何も魔法少女を死地に送りたい訳ではなく、いざという時には魔法少女を逃がす手段を持っているようだ。


「それにしても、昨日は良くインベーダーと戦おうと思ったよね。ぶっちゃけて言うけど、レベル1の勇者が中盤のボスを相手にするようもんだよ」


 結果的には助かったが、黒毛玉が逃げに徹しろと言ったのは実に的確なアドバイスだった。

 しかし、それならば始めから緊急離脱をさせるべきでは無かったのかと言う疑問も残る。

 それについて黒毛玉に影人が問う。


「まぁ、それも考えたよ。本当にいざって時はするつもりだった。でも、同時にインベーダーを見失う訳にはいかなかったんだよ」


 インベーダーと魔法少女の戦いの歴史は長い。

 それこそ紀元前にまで遡る程、長い間魔法少女とインベーダーは戦い続けた。


「ボクらもインベーダーに対しては様々な対策をしてきた。そして、この70年間くらいはインベーダーの出現は無かったんだ。昨日も“観測上インベーダーは現れていない”んだよ」


 昨日は確かにインベーダーが現れて魔法少女と交戦したにも関わらず、インベーダーの出現は観測されていない。

 それが示すものは……


「セキュリティを搔い潜られた訳か」

「そう、長い間ボクはインベーダーの侵入を許してしまっていたんだよ。別の個体は今も必死にインベーダーを探しながらハザマを飛び回ってるんだ」

「へぇ、大変だな」

「他人事禁止!キミももう当事者なんだから!」


 とは言われても影人にはイマイチ実感が湧かなかった。

 つい昨日までは大衆に埋もれそうなレベルのサラリーマンだったのに、気が付いたら魔法少女の副業をやらされていたのだ。


「命をかけた副業なんてやりたくない」

「キミは……まぁ、そう言うのも無理はないか」


 流石の黒毛玉も半ば無理矢理魔法少女にした自覚はあるのか、影人のやる気の無い言葉を攻めたりはしなかった。


「それでも必要最低限魔法少女の使命は果たしてもらうよ」

「……俺、魔法少女やりたくないんだけど」

「残念ながら魔法少女はやめられませーん!でも、安心して!やり甲斐搾取はボクのポリシーに反するからね。労働には対価を……って事でこれをあげるよ」


 何処から取り出したのかいつの間にかテーブルの上に見知らぬスマホが置いてあった。


「スマホ?」


 影人が手にとって確認して見ると何処にでもありそうな普通のスマホだった。

 起動してみると電話とメールの基本的な機能の他に少ないながらもいくつかアプリが入っていた。


「異形大全、マジポギフト、シャドウ予報、インベーダーアラーム、ナビィニュース……?」


 見た事も聞いた事もないアプリの名前が並んでいる。


「そのスマホには魔法少女の活動に必要な全てが詰まってるのさ。ボクが作ったんだよ。スゴイでしょ」

「確かに凄いけど……これは報酬じゃねぇだろ」


 どちらかと言えば、会社から支給されるパソコンに近い。

 報酬ではなく仕事の為の支給品。


「報酬はマジポギフトから受け取るんだよ。シャドウとかを討伐するとポイントが貯まって、好きな商品と交換出来るんだ」


 アプリを開いて商品を確認する。

 運気上昇とか物凄く怪しい商品から何処で製造してるのか分からない謎の飲料水や食品、文房具等の日常品……


「……」

「それ見ると皆ビミョーそうな顔をするんだよね。どうしてだろ?」

「マジカル要素が薄い。それにこれって普通の通販アプリじゃねぇか!」

「失敬な!一応、ちゃんとマジカル要素あるよ!ここの運気上昇とか」


 効果が実感できるかも怪しい品物をマジカル商品として言い張る黒毛玉。


「はぁ……おいおい確かめるとして、もう時間がアレだし風呂に入って寝たいんだが?」


 現在の時刻は深夜0時。

 既に日付が変わっている。


 いい加減寝ないと明日の仕事に響くのだ。


「ちょっと待って!まだ、魔法少女の能力とかの説明してないから!とりあえず、変身しよう!」


 そう黒毛玉に言われたところで影人は困ってしまう。

 何故なら……


「どうやって?」


 変身の仕方が分からないからだ。


「え?分からないの?」


 まるで信じられない物を見たような反応をする黒毛玉に少しイラッとした影人は両手で黒毛玉をぎゅむっと掴む。


「説明なしに即実践とか何処のブラック企業だ!説明責任を果たせ!」


 ぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむ


 人は寝不足が続くと若干凶暴になるのだ。

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