氷刃の魔法少女

第3話

「だから、戦う。生きる為に！」

　家の内部を破壊しながら出てくる異形の鎧の動きに合わせて左手の鞘を使い衝撃をいなしながら背後に回る。

　刀を鎧の隙間目掛けて突き出すが、それよりも早い速度で異形の鎧が振り向き様に再び攻撃を振るう。

　姿勢を低くして異形の鎧の裏拳を躱すが、そのまま振るわれた逆の腕が魔法少女の胴体に食い込み、身体がくの時に曲がる。

「掴ん……だぞ！」

　胴と左手腕で異形の鎧の腕を挟み込み、肘の内側の関節部分に刀の刃を滑り込ませた。

「グオォオオオ！！！」

　初めて聞く異形の鎧の叫び声。

　まるで獣のような声を上げながら、腕にしがみつく魔法少女を腕ごと地面に叩き付けた。

「かはっ！」

　地面に大きなクレーターを作るほどの衝撃を全身に浴びて、魔法少女の意識が一瞬飛んで異形の鎧の腕から離れる。

　朦朧とした意識の中、異形の鎧が止めを刺すべく凶悪な爪を振り下ろす光景が見えた。

　その時、何処からともなく青い一筋の閃光が走り、異形の鎧の兜に直撃する。

「ゴメン！遅くなった！」

　赤いマフラーを靡かせ、右手に長い銃のような物を持った魔法少女が現れた。

「遅いよ！」

　魔法少女と異形の鎧の戦いを見守っていた黒毛玉は救援に来たもう一人の魔法少女に歓喜の声を上げる。

「これってどう言う……って聞いてる暇は無さそうか」

　青い閃光によって仰向けに倒れた異形の鎧の巨体がムクリと起き上がる。

「嘘！？チャージショットで無傷！？」

「レインバレット、アレの兜は特別硬い素材で出来ている。狙うなら心臓だよ」

　もう一人の魔法少女は銃を構える。

　その銃の見た目は一見するとショットガンのようにも見える。

　銃口付近から１２本の黄色い光の短い直線がショットガンを包み込むように浮かんでいる。

　異形の鎧はもう一人の魔法少女、レインバレットに一瞬視線を送るが、そのまま倒れている魔法少女に向けて再び腕を振り下ろす。

「シールド！」

　レインバレットは特殊な弾丸を発射して、魔法少女と異形の鎧の間に円盤状の黄色いエネルギーシールドを展開して、魔法少女を異形の鎧の攻撃から守った。

　そのままレインバレットの銃口から重い音を響かせながら青い弾丸が発射されるが、異形の鎧の表面を僅かに削るだけに留まる。

「何コイツ！？」

　レインバレットの反応出来ない速度で近付き異形の鎧が攻撃してくる。

　瞬間、先程のエネルギーシールドよりも小さなシールドが複数展開されて、異形の鎧の攻撃の威力を大幅に削りながら次々破壊されていく。

「ぐっ！吹き飛べ！」

　レインバレットの銃口にある光の直線が開く。

　間一髪、攻撃が届く前に異形の鎧は銃口から発せられた衝撃波に大きく吹き飛ばされて何処かの民家に墜落した。

「あ、危なかった。一撃でストック全部持ってかれた」

　レインバレットはその隙に急いで倒れている魔法少女へと駆け寄って抱き起こす。

「ねぇ、あなた大丈夫？」

「そう……見え……る…？」

「見えない」

　住宅地の塀を突き破って再び異形の鎧が姿を現す。

「無理言って悪いんだけど、一瞬だけでも良いから足止め出来る？」

「……」

「アイツの動きが早過ぎて狙いが定められない」

　きっと、レインバレットでもどうにもなら無い

　飛びそうな意識の中、名も無き魔法少女は異形の鎧の姿を見て掠れた声で言う。

「……出来る」

「オーケー！タイミングは任せた！」

　レインバレットは負傷した魔法少女を腕に抱えたまま銃口を異形の鎧に向ける。

　異形の鎧はレインバレットの狙いを理解しているかの様に塀や屋根を飛び跳ねながら立体的な起動で迫りくる。

「……」

　名も無き魔法少女は片手を地面に着きながらタイミングを測る。

　先程、彼女は意識が飛んだ瞬間に少しだけ魔法少女の力を理解した。

　もしかしたら、全体の中でも本の欠片かも知れない。

　それでも、明日を生きる為の賭けに出た。

「氷縛」

　魔法少女の力によって異形の鎧の足が地面に着いた瞬間に氷に包まれて地面に縫われたかのように張り付いてしまった。

　ダァアアアアアン！！！

　レインバレットの銃口から一際輝きを放つ青い閃光が放たれる。

　それは本の一瞬身動きの取れなくなった異形の鎧の胸元に吸い込まれる様に着弾した。

「！！」

　しかし、それでもなお威力は足りなかった。

　青い弾丸は生身を覆う胸部の装甲を砕いただけに過ぎなかった。

　大きく仰け反る異形の鎧。

　その胸元は白と黒の虎柄の毛が露出する。

　その胸元目掛けて音速を超える速度で迫りくる者がいた。

　先程までレインバレットに抱えられていた魔法少女だ。

　そもそも彼女はレインバレットが銃を撃った瞬間から駆け出していた。

　社会人としての本能が魔法少女を突き動かす。

「ハァアアアアア！！」

　保険はとても大事だと

　異形の鎧を纏う生物の胸元に魔法少女の氷の刃が突き刺さる。

「グァオオオオオアアアァ………」

　敵は断末魔を上げると血を吹き出しながら仰向けに倒れた。

「勝っ……た」

　死闘の末に勝利を収めた魔法少女はその場の地面に倒れ込むように寝そべる。

　これで命の危機は去った……

「キミ！！今すぐその場を離れるんだ！！」

　黒毛玉が叫ぶ。

　完全に油断し切っていた魔法少女達は気が付かなかった。

　異形の鎧の白い兜が内側から押されるように歪な形へ変形している。

　空気を吸い込むようにして何倍も体積を膨らませた黒毛玉が身体を割り込ませた。

「黒毛玉！？」

　瞬間、世界から色が消えた。

　真っ白な閃光と凄まじい衝撃波を感じながら魔法少女は意識を手放した。