第2話
異形の鎧は逃げる青年達の姿を捉えると追うように駆け出した。
「そうだ!」
青年はあの巨体なら家の中には入れないだろうと踏んで、青年は近くの家の居間の窓にに向かって全速力で蹴り破った。
「ちょっと!」
黒毛玉も青年を追うように蹴破った窓から家の中へと侵入する。
青年はカモフラージュの為に別の窓を開け放ち、黒毛玉と一緒に倉庫の中へと隠れた。
「結構、考えるね。でも、アレは視覚とかでキミを追ってる訳じゃないんだよ」
巨体が家の中の壁を壊しながらゆっくりと徘徊する音が聞こえる。
まるで隠れた獲物を追い詰めるのを楽しんでいるかのようにじわりじわりと青年と黒毛玉が隠れている部屋へと近づいて行く。
「アレは楽しんでいるんだ。ボク達を追い詰めるのをね」
出口のない倉庫のような部屋に入り込んでしまった青年は打開策が無いことに気がついてしまい頭を抱えて蹲ってしまった。
「何なんだよ……俺が何したってんだよ……」
「……」
思い返してみても特に何か悪い行いをした覚えはない。
「あ、来週ゲームの発売日だ」
「案外余裕そうだねキミ!」
「そう言えば、もうちょっと質の良い枕欲しかったなぁ。そうだ、布団も変えよう。フカフカの羽毛布団に包まれたい」
「ゴメン、余裕なさそうだね……」
絶望のあまり一周回って思考が現実逃避を始めたのだろう。
青年はうわ言のようにやり残した事をつぶやき始めた。
「……1つ、君が助かる方法がある」
希望のある言葉に顔を上げた青年と黒毛玉の目が合う。
そして、黒毛玉は意を決したようにあの言葉を発した。
「ボクと契約して魔法少女になってよ!」
「死ねぇ!!」
そのチョップには色々な物が込められていた。
こんな時にふざけるな!
男になんて物を提案してるんだ!
そして何より……
例の宇宙詐欺師の白いエイリアンの姿が重なって見えてしまったのだ。
そして、物語は冒頭へと戻る。
「ひ、酷いじゃないか!」
「うるせぇ!!詐欺師みたいな事言いやがって!!」
「風評被害だ!ボクもアレを見た事あるけど、ボク達はあんな質の悪い契約はしないよ!」
ギィ!!
「ッ!」
倉庫の扉を易易と生物的な爪が貫いて、倉庫の中へと侵入し始める。
「あまり、逼迫した状況で契約を迫るのは卑怯だからしたくないんだけどね。でも、このままじゃキミの命が危ないんだ」
「俺は……」
青年は迷っていた。
ほぼ1択しかないと分かっていても青年は覚悟する事が出来ないでいた。
何故なら……
「ち○ち○を失いたくない」
「ち○ち○と命どっちが大切なのさ!!」
青年は思わず血の涙を流すような苦しい思いをして、歯を食いしばりながら決断をする。
「俺を……俺を……ま゛ほ゛う゛しょ゛う゛じょに゛し゛ろ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛!!!!!」
「……い、いくよ?」
黒毛玉は血反吐を出しそうな剣幕叫ぶ青年にでドン引きしながらも契約の言葉を紡ぐ。
『ここに契約は成った。揺り籠の母の命において新たなる守護者に器を授けん』
黒毛玉から発せられた光の粒子が急速に青年の中へと吸い込まれていく。
「さぁ!想いを形にするんだ!」
青年から大量の光が溢れ空間を満たしていく。
想いを形に
心を武器に
そして、小さな手の中に一振りの刀が握られていた。
異形の鎧がドアを破壊するとともに、異形の鎧の兜の隙間目掛けて冷たい刃が突き出された。
チッ
異形の鎧は首を少し傾けて刃を兜に掠らせるようにして避けると、ドアを破壊したのと別の腕を振るって壁と共に襲撃者を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた襲撃者は外壁と隣家の壁ををぶち破り、足の裏で床を削り取りながら衝撃に耐える。
異形の鎧の兜の奥にある赤い目が細くなる。
そこには追い掛けていた青年の姿は何処にも無かった。
そこに居たのは青年よりも一回り小さく、淡い水色の長い髪を後ろで一括にした美少女がいた。
白を基調に雪の結晶の意匠をあしらった振袖をミニスカート風に改造した服を着て、右手に氷で出来た刃を持つ刀と左手にそれを収める鞘を持っている。
「魔法少女参上」
大いなる哀しみを秘めた目をした魔法少女は右手に握られた刀の先を異形の鎧へと向ける。
異形の鎧は魔法少女の姿を確認するや否や先程までの鈍重な動きからは考えられないくらいの速度で迫り、凶悪な爪で魔法少女を切裂こうとする。
魔法少女は間一髪でそれを左手の鞘で防ぎ、右手の刀で反撃をするが、刀は甲高い音を上げて鎧に浅い傷を付けて弾かれてしまった。
「硬いッ!」
すかさず異形の鎧はもう片方の腕を振るって魔法少女を攻撃し、魔法少女は2発目を防ぎ切れずに野外へと吹き飛ばされた。
「逃げに徹するんだ!満足に魔法少女の力を使えない今のキミじゃインベーダーを倒せない!」
「インベーダーってなんだよ。業界用語を使うな……俺だって勝ち目が薄いって事くらい分かってる」
何度もコンクリートやアスファルトを砕きながらも痛むだけで済んでいる身体に鞭を打って立ち上がる。
「でも、俺の逃げ足じゃアレから逃げられないって事も分かってんだ」
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