第33話

大塚の父親は、第二の事件での静江のアリバイを崩した。さすが、元刑事だと大塚は感心していた。


その日、大塚と父親は、アリバイを作った、静江に背格好が良く似た深井園子の現住所に向かっていた。


深井園子は、女優を引退したあと、親の薦めで見合いをして結婚していた。

夫は十年前に病気で死亡し、今は一人で暮らしていた。

子供はいない。


東京都板橋区練馬北3丁目に深井園子が住むマンションはあった。

三階に深井園子の部屋はあった。グレーの鉄製のドアが古ぼけていた。

ドアの上に深井というネームプレイトが貼ってあった。

チャイムを押しても何の反応もない。郵便受けには何も入っていなかった。

父親はドアに耳をつけて中の物音を聞いていた。

「いないようだ。管理人に話しを聞いてみよう」


一階の管理人部屋には日勤の管理人がいた。

「深井さんは二日前からお留守ですよ」

深井園子は、留守にするので、郵便受けのものを取っておいてもらうように管理人に頼んでいたのだ。

「深井さんのところに60歳を超えたくらいの風体の変わった女性は訪ねてきたりしていませんか」

「分かりませんね。住人の客まではいちいち覚えていないので」

父親が口を開いた。

「深井さんが自殺する可能性があり、行方を捜しているのです。手がかりを得るために管理人さんお立会いのうえで深井さんの部屋に入りたいのですが」

「あなたたちは何なんですか」

「深井さんと多分一緒に死のうとしている女性の心理カウンセラーを担当しているものです。ふたりの命がかかっています」

「分かりました」


深井園子の部屋に入ったが、何の手がかりもなかった。部屋のなかには、宮城静江と関係があるようなものも発見出来なかった。


「深井園子はどこに行くとも管理人には話してないですね」

大塚は管理人に聞いた話を父親に告げた。

「静江と一緒かどうかも分からないし、もしかしたらただ旅行に行ったとも考えられる」

「とにかく手がかりがありません」

「静江の家に行ってみよう」


ふたりは静江の家に向かった。


静江が居なくなってもう何回も静江の家を訪ねているが、誰もいないことは確認している。それなのに何故父親は静江の家に行こうと思ったのか。

「何かありそうな予感がする」

ふたりは静江の家に急いだ。

深井園子のマンションから、静江の家まで一時間ちかくかかった。

静江の家に着くころは町はすっかり夜の暗闇に覆われていた。

静江の家に灯りは灯っていなかった。

郵便受けを確認すると、なかに手紙が入っていた。二日前に確認したときにはなかったものだ。

手紙の表には「大塚さま」と書かれてあった。




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