第24話
静江は激しく動揺していた。大塚がピアノ教師からのセクハラを指摘したからだった。
「ピアノの先生を犯人が殺したのは、あなたが受けた性的虐待を許せなかったからではないかと考えています」
静江は黙っていた。
「犯人は、Sのためにという言葉を残しています。それを見ても、あなたへの思いが犯行を起こさせたのは明白です」
静江は顔を両手で覆っていた。泣いているようだった。
「あなたの心の底にあるのは、自分のために犯行を犯し、自殺してしまった同級生への贖罪の気持ちがあるからではないですか」
しばらく沈黙の時が流れた。
静江が顔を上げた。
「確かにそうでしょう。私にはあまりにも重い出来事でした」
そのとき、黙っていた大塚の父親が口を開いた。
「口を挟むようで申し訳ないことですが、私はあなたに疑惑を持っています」
静江は鋭い眼光を父親に向けた。
「何ですって」
「あなたが犯人に殺人をするように仕向けたということですよ」
「何を根拠に言われるのですか」
声が低く、穏やかな口調だったが、威嚇するような鋭さがあった。
「確証なんて何もないです。残念ながら。しかし、私たちがあなたの故郷で、関係者に伺った話を総合すると、犯人の少年は残虐な犯行を犯すような人間ではないのではないかということが分かったのですよ」
「それだけですか」
「はい」
「元警察官だったとおっしゃいましたね。警察はそんな程度で捜査するのですね」
大塚と父親は言葉が継げなかった。証拠は何もない。
「いやいや、申し訳ない。私がこう言えばあなたがどういう反応するのかを確かめたかっただけです。お気を悪くしたら大変申し訳ありません」
「すいません。父は刑事だった癖が抜けないのです。刑事は人を見ればみんな犯罪者に見えるらしいのです」
静江は納得いかないような顔をしていた。
「まあ、いいですわ。少し無礼だとは思いますけど、私はけっして偽りを申し上げているわけではありませんので」
「犯人の弟さんが、兄は絶対犯人ではないと強調されていたのと、Sのためにという言葉が気にかかったものですので」
父親は静江を再度挑発するようなことを言った。
「ではやはり私を疑っているということですか」
「難しいところです。何十年も前のことですから今更捜査も出来ないですし」
「いくら古い話でしかもまったく的外れだとしても疑われるということは、気持ちの良いものではありません」
「おっしゃる通りです。だから私はあなたを責めようとは思いません」
「そういう言い方が私を傷つけるということをお分かりになりませんか」
「刑事というものは少しの疑問点でもあると気になってしまうものなんです」
「もうこの話は止めましょう。あなたが犯人を操ったわけがないとおっしゃるならその通りなのでしょう」
大塚はこれ以上深堀しても、静江が真実を話すことはないと悟っていた。
#25に続く。
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