第23話
目の前にいる静江は、相変わらず薄気味悪い瞳の奥の光を大塚たちに向けていた。
「実は、私と父は、あなたのまわりで起きた事件の調査に行っておりました」
静江は、微動だにしないで大塚の言葉を飲み込んだ。
表情が変わらない。何も言葉を発しなかった。
「よろしいですか、あなたにとって決して気分の良いことではありませんが、あえてお話しようと思い、本日父とお伺いしたわけです」
「前置きはいいです。どうぞ、お話くださいませ」
「事件が古いものですから、警察からの情報はほとんどなかったのですが、犯人である人の同級生や、弟さんに会うことができたのです」
静江はまだ表情を変えなかった。
「そこで私は弟さんからある事実を聞いたのです」
大塚はいきなり本題に突入した。それには、父親も驚いた。
「それは、犯人の母親が見つけたある紙切れに書かれた言葉なのです」
初めて静江の表情がやや強張った。
「Sのために、と書かれていたそうです」
静江は何を言われているか分からないような顔をした。
「犯人の母親が犯人の机を整理したときに発見したそうです。一番上の引き出しで、一番上に置かれてあったということです」
「Sのためにですか」
静江は大塚と父親の顔を交互に見た。
「私たちが考えるには、Sとは静江さんのイニシャルだと思うのですが」
「それは私に聞かれても分かりませんわ」
「取りようによっては遺言だとも言えます」
「私は初めて聞きました」
「そうでしょう。警察にも報告しなかったようなので」
「どうしてでしょうか」
「あなたのお父様が県警に圧力をかけて捜査があなたに及ばないようにしたということもありえますね」
「父がそんなことをするとは思いません」
「犯人が何故自殺したかは知っていますか」
「ピアノの先生が亡くなられたということのショックが大きすぎて、犯人のことまで考えが及びませんでした」
「それは本心ですか」
「どういう意味でしょうか」
それまで黙っていた父親が始めて口を開いた。
「あなたがピアノの教師にセクシャルハラスメントを受けていたという情報もあるんですよ」
その言葉を聞いた静江は激しく動揺した。顔を伏せて、むせび泣きだしたのだ。
「すいません、いきなり不躾でしたね」
しばらく静江は顔を上げなかった。
大塚と父親は顔を見合わせた。
「そこまで調べたのですか。まさに古傷を抉り取るようなことをしたのですね」
静江の声は怒りに震えていた。
#23に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます