第22話

大塚と父親は無言のまま向かい合っていた。

父親は、目の前のお茶を一口飲み干した。

俯いていた大塚が重い口を開いた。

「この事件をどう終わらすかに悩みます」

父親も同じだという顔をしていた。

「今までの調査で分かったことは、紙切れに残された[Sのために]という言葉だけが物証だからな」

「俺はお父さんのように事件化して、静江さんを告発しようとまでは思っていませんけど」

「俺だってそんなことは考えてないさ」

80歳を超えた父親がこんなにも元気でアグレッシブだということが今回のことで分かったことが大塚には嬉しかった。

「お前は本当はどうしたいと思っているんだ」

「想像のうえでは、静江さんが犯人たちを動かして実行させたと思うんですけど、物証もないし、証言もない、動機だけははっきりしている、そんなことですか」

「静江の夫と愛人が殺された事件は、まだ解決してないぞ」

「それは静江さんが実行犯だと思いますか」

「一度にふたりを襲い、一撃で急所を刺す、そんなことがあの人に出来るだろうか」

「例えば、誰か雇って実行させたとか」

「不法就労の外国人でも雇って、殺しのあと、すぐに帰国させれば完全犯罪になる」

「そこまで悪人ですか、あの人」

「あの薄気味悪さは尋常じゃないぞ」

「言えてますね」

「それもこれも想像でしかないのがどうしようもないけどな」

ふたりはまた黙り込んだ。

大塚は考えていた。自分たちがやろうとしているとしていることは何だろう。犯罪を暴くことなのか。それとも、ひとりの悩める老人の助けをするためなのか。

心理カウンセラーとして、静江に会った。静江の話を聞いているうちに、悩みの根源は、過去の事件にあると考えて調査をした。すると事件の疑問点が次々と現れて、静江に疑惑が湧いてきた。

結論は、決まっていた。そのことを父親に告げるために会ったのだ。

「やはり、調査のことを静江さんに話してみようと思っています」

父親はやっぱりという顔をした。

「お前の仕事は人を助けることだ。俺は、悪い奴を捕まえることだった。その違いはあるが、俺は静江に犯行を認めさせたというのが本音だな」

「それは分かります」

「静江に俺たちの想像していることすべてを話してみるのか」

「そうですね、相手の反応を見ながらということになると思います」

「最初からまったく話を拒否することも考えられるよ」

「そうなったら、そうなったときのことです。だけど、お父さんは、なるべく口をはさまないでください」

「俺も行っていいのか」

「ぜひ来てください」

父親の顔は生き生きしていた。

大塚は、宮城静江に連絡を取り、二日後に会う約束をしていた。







#23に続く。

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