第18話

宮城静江は、大塚の紹介したクリニックを受診し、薬物療法で不眠はとりあえず解決に向かっていた。後は、薬を使わずに眠れるように心理療法を行っていけば良い状態になっていった。

一先ず、大塚の仕事は一区切りしたのだが、大塚にとっては別の仕事をしなければならなかった。

それは、静江の第二の事件と、第三の事件の調査である。それが済むまでは、静江の案件は終わりを告げないと考えていた。

幸い、大塚の父親の元警視庁捜査一課の大塚英彦が助けてくれているので、調査もスムーズに行く予定だった。

その日、大塚と父親は、元撮影所の関係者と会っていた。場所は新橋だった。古ぼけたビルの地下におりるBARにその男は先に来て座っていた。

「お忙しいところすいません」

その男は、当時撮影助手をしていた、水口勇介だった。歳は70歳を越えたくらいだったが、元映画関係者の雰囲気を持つ、なかなか洒落たおじいさんという感じの男だった。

「もう古い話ですから、お役に立てるかどうか。静江さんは元気ですか」

「はい、体の方は何ともないのですが、やはりお歳のせいか、心に淋しさがあふれていらっしゃいまして、その悩みを少しでも軽くするのが私の仕事なものですから」

「どんなことから話せば良いのでしょうか」

「静江さんにしつこく付きまとっていたんですよね、被害者は」

「しつこくというか、あれも愛情のなせるところと思うんです。端からみたら異常なのかも知れないけどね。でもね、相手は若手のホープとして売り出し中の女優と、泣かず飛ばずのエキストラに毛が生えたような俳優ですからね、会社からの圧力もありましたしね」「でも助監督はどうして殺したのでしょうか」

「彼も静江さんに惚れていたんです。でも、彼は女優として大成して欲しいという思いがあって、静江さんには自分の気持ちを伝えてなかったんですよ」

「だから、女優としての傷を付けるかも知れない俳優を消したということですか」

「簡単に言えばそうだね」

「静江さんから助監督に殺人をお願いしたということはなさそうですか」

ちょっと驚いたような表情をした。

「それはないでしょ。いくらなんでも・・・・」

「そういうことは考えられないかということです」

「難しいな、私はそこまで彼らと親しいわけではなかったから」

「ふたりの関係をもっと深くご存知の方を紹介して欲しいのですが」

「あなた達は静江さんを疑っているのですか」

「そうじゃありません。真実を掘り下げることで、静江さんの今の悩みの原因を探ることに繋がればと考えているのです」

元撮影所の関係者だった男は、しばらく考えていたが、思い出したように、当時静江と仲が良かったメイキャップの女性が存命していることを大塚たちに教えた。

現在は、80歳を超えているが、神奈川県の海べりの町でひとり暮らしをしているという。年賀状のやり取りをしているとかで、住所も教えてくれたのだった。

大塚はその女性に手紙を書いた。電話番号を調べて電話すれば済むことだが、ここは礼節をもって相手に対したほうが良さそうな気がしたのである。

二週間後、大塚と父親は、京浜急行に乗って、元メイキャップの女性が住む海べりの町に向かっていた。






#19に続く。






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