第15話
宮城静江の第一の殺人事件の調査をしていくうちに、犯人と同級生の男に会うことが出来た。
彼の話は大塚には衝撃的すぎた。
静江はピアノ教師にセクハラを受けており、ピアノを辞めたかったのだが、母親が許さなかったということだった。
静江は、そのことで悩み、犯人に相談すると、犯人は同情から憎悪に変わり、殺人に至ったのではないかということだ。
県警の資料にはそのことはまったく残っていなかった。
「彼の言うことは間違いはないだろう。俺は老いぼれだが、頭ははっきりとしている。あくまで推論でしかないのだが、犯行に静江のセクハラという事実を残したくなかった、静江の父親が、県会議員という地位を利用して県警に圧力をかけ、静江を事件から遠ざける細工をしたというのが正解だな」
父親の推理にはまったく同意できると大塚は思った。
だが、それを静江にぶつけるかどうかで、迷っていた。
古い傷を掘り起こして、心理的ストレスになりうることを告げることは良くないのではないかと考えていた。
帰りの新幹線のなかで、大塚は旅の疲れで睡魔に襲われそうになると、調査した事件のことが頭に浮かび、寝るどころではなかった。
大塚は東京に戻ってきた。
いったん実家に寄り、父親と今回の総括を話し合った。
「お前が静江の事件の事実を知ることはけっして無駄ではない。それをどうカウンセリングに生かすかは、プロであるお前の考え方ひとつだ」
「はっきり言うと、混乱しています。静江さんの現在の悩みとどう関係があるのか分からないのですから」
「まあ、今回は静江をホン星ではないかという好奇心で現地に向かったのが目的だったからな」
「そうなんです。でも、事態は複雑化しましたね。静江さんが犯人であれば、それが今回の悩みの肝と言えるわけでしたし」
「犯人となれば、別の意味で大変なことになる」
「警察に通報するという意味ですね」
「そうだ、殺人事件の時効はもう無いからな」
「しかし、殺人事件は犯人が逮捕され、処理されてますから、新たな事実があったとしても、再捜査にはならないのではないでしょうか」
「言う通りだ。県警にとっては迷惑な話にしかならないだろう。マスコミが騒ぐだけになるだろうし」
「もやもやしています」
「俺は第二の事件にも興味があるぞ」
「そうですね、次の日曜日にでも始めますか」
「そうだな」
大塚は決断した。
今回のことは、静江には黙っていようと決めたのだった。
第二の殺人事件の調査が終わって、もう一度このことを考えようと思ったのだった。
いよいよ、二日後には静江との二回目の面談がある。
今回の調査は一度心に封印しなければならないと大塚は決めたのであった。
#16に続く。
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