第14話
大塚と父親は、宮城静江の第一の事件の調査で、東北の町に来ていた。
そこで、ピアノ教師殺しの犯人の同級生に連絡を取り、会おうとしていた。
「記憶がありますかね」
「まだ65歳くらいだろ、俺より10歳も若い。十分憶えているに違いないさ」
元警視庁捜査一課の父親は確信のある顔をしていた。老いたとはいえ、刑事の勘が働いているのだろう。心理カウンセラーの大塚とは脳みその構造が大きく違うと、大塚はこの二日間の父親の様子を見て思っていた。
前の日の晩、資料室で見つけた元同級生の住所のところに下見をしていた。
市内の繁華街を少し離れた場所にあるその住所には、元同級生の苗字が刻まれた表札があったのである。最近立て替えられたのであろう、住宅展示場にあるような家だった。
県警に連絡して、電話番号も分かったので、ホテルから電話をすると、次の日の午前中なら会って話しても良いということだった。
インターフォンを押すと、中年くらいの女性の声が出た。
「東京からまいりました、大塚と申します」
「どうぞ、お入りください」
玄関には奥さんらしい女性が待っていた。
大塚たちは促がされて居間に入った。
居間の一角にあるソファにその元同級生は座っていた。
65歳には見えない、50歳前後の若々しさで、定年まで地元で教師をしていたと言った。
「懐かしいというか、悲しいというか、50年も経って、あの事件のことを聞きにこられるとは、何かの因果ですかのう」
「いえいえ、実は宮城静江さんのカウンセラーを担当しておりまして、その参考になればといろいろとこちらの方にお話を伺っているのです」
「静江さんか、元気になさっているんですか」
「まあ、色々とお悩みがあるようです」
「まあ、あん人もええ年やから仕方なかろうわい」
「そこで、50年前の事件の犯人とご懇意だったということですが」
「そうやね。奴とは小学校以来の友人でした。だが、あの事件を起こして、自殺までして、俺はほんにショックやった」
「宮城静江さんと犯人の少年は特別な関係だったことは知ってましたか」
「多分、彼の心のうちを知っているのは俺だけじゃったと思うんですわ」
「それはどういうことですか」
「もう50年も経つから時効じゃろうから言いますわ。俺も、このことを誰かに言わないと冥土に行けんように思ってましたから」
大塚はこんなにすんなりと事件の核心が聞けるとは思わなかった。
「じつは、ピアノの先生のこと、静江さんは嫌っておって、そのことを彼に相談していたんすわ。彼はえらく同情して静江さんにピアノを辞めるように促したそうじゃ。しかし、静江さんのお母さんがえろう厳しい人で、けっしてピアノを辞めさせてはくれなかったんだと」
「しかし、それだけで殺人にまで起こしますか」
「言いにくいことじゃが、静江さんは今で言うセクハラを受けていたんだわ」
大塚には衝撃的な事実だった。はっきりいって、そこまで考えてはいなかった。大塚の父親は多分そこまで考えて、静江が犯人を動かしたと推察したのだろうと思った。
「奴はそのことを聞いて、静江さんへの同情から、ピアノ教師への憎悪に変わったんじゃないだろうかと考えたんです」
「それはあなたが犯人から直接聞いたのですか」
「許せないという言葉は聞いた」
「そのことは警察には話しましたか」
「もちろんじゃが、中学生がそんなこと秘密にしとられんもん」
前の日に読んだ資料にはそのことは書かれていなかった。
目の前にいる元同級生の記憶違いか、虚偽か、それとも警察が意識的にそのことを隠蔽したのか。大塚は混乱をきたしていた。
#15に続く。
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