第11話

宮城静江との三回目の面接まであと五日になったとき、大塚は最初の事件のあった東北の街に向かっていた。何と、父親も一緒だった。事件のことをすべて聞いた父親が75歳にもなりながら、昔の刑事魂が湧き上がってしまったからだ。大塚はこの歳で、親子旅でもないだろうと思ったが、父親の情熱に負けて、同行を承知したのだ。

父親はふるい伝手を頼って、地元の警察OBに連絡し、当時捜査に関わった刑事の人とアポイントを取ったりしてくれたのである。

とりあえずふたりは県立図書館に行って、当時の地元新聞を閲覧した。

そうすると、確かにその事件は報道されていた。

「私立音楽大学の教授が殺害される。犯人は高校生」と確かにあった。

「宮城静江の話は本当だったんだね。事実としては」

父親は目を丸くしていた。心のどこかには、宮城静江の虚偽だという疑いもあったのである。

大塚は胸が高まっていた。

「事件の真相に迫れますか」

「もう年月も経っているから、証言者も少ないだろう」

図書館を出ると、父親がアポを取ってくれた、元捜査官の家に向かった。

一度、駅に戻り、バスを乗り換えて30分ほどかかった。田んぼが続く田園地帯の真ん中に集落があった。元捜査官の家は古い農家のようだった。

元捜査官は85歳だった。だが、外見はそんな歳には見えない若々しさで、武道で鍛えた体を思わせる、居丈夫な男だった。

「古い話だけど、覚えておるわ。印象的な事件やったから」

「犯人は少年で、起訴猶予になったのですか」

「保護観察処分やったわ。動機もはっきりせんし、少年ですけ、保護観察つきやったわ」「中学生ですよね」

「そうやった」

「動機がはっきりしないとはどういうことですか」

「昔、ピアノを習っていたいうことやったが、犯行時はピアノはやっておらんかった。では、どうして犯行に及んだのかというと、我々の捜査では家庭の問題だったという結論やはな」

「どんな問題ですか」

「今で言う、虐待やは。親父が酒癖が悪うて、よく少年を殴っていたし、母親が早くに死んで、後妻には冷たくされてたそうや」

「いわゆる心神喪失という判断ですか」

「そういうことやね」

「では、自殺したのも、心の病のせいということだったのですか」

「そういう結論やったわ」

「ところで、宮城静江という当時犯人と同じ歳の女の子は捜査の対象にはならなかったのですか」

最初、元捜査官は宮城静江の名前を思い出せなかった。しばらくしてやっと思い出した。

「ああ、県会議員の娘やった子やの。女優になった」

「そうです」

「ピアノ教室の生徒やったわ」

「そうです」

「いやー、一度もわしは聴取してなかったわ。上からの指示もあったしな」

「指示とはなんですか」

「その娘はたいそうなショックを受けているということやったし、事件には関わりもなさそうやったしな」

元捜査官の家を出て、バス亭まで歩いていると、父親が口を開いた。

「収穫がなかったな」

「そうですね」

大塚は、元捜査官から聞いた、犯人の家族のなかでまだ生きている兄弟がいるということに期待していた。




#12へ続く。






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