第7話
NPO法人で心理カウンセラーをしている大塚悠太が相談者の宮城静江の洋館を訪ねてから二日後、二回目の面接があった。
午後の遅い時間にして欲しいという静江の要望に答えて、最寄の駅に着いたのは午後3時少し前だった。
大塚は、第一回目の面接時に聞かされた奇妙な殺人事件のことが頭から離れなかった。他の仕事をしているときも心ここにあらずの状態だった。
静江の洋館までの道、大塚は今日はどんな話の展開があるのかとドキドキしていた。
静江は、一回目と変わらず、玄関を入ったところで大塚を待ち受けしていた。
大きな洋館に一人暮らしであるようだった。
「今日もよろしくお願いします」
静江は紫のドレスに身を包んでいた。胸にはシャンパンゴールドのペンダントをつけている、年の割りには艶々とした髪の毛を薄くカールさせているが、それがこの老女の薄気味悪さを増していた。
応接室に案内され、同じ位置に座らされた。
今回は紅茶はもうセットされていた。前回は一口しか飲まなかったのを静江が気にしているのか、座ると早々に大塚に紅茶を勧めた。
「この前お話いたしましたのは、中学生までのことでしたね。では、高校生のころからの話から始めましょう」
静江の話によると、中学は二年のときに事件が起き、二ヶ月くらいはそのショックを引きずったのだが、その後は両親や先生、友人らの励ましで立ち直り、無事に卒業したのだという。
高校は中高一貫教育の学校だったので、受験をしなくても済んだという。受験という過酷な状況もなかったのが、静江の情緒の安定に寄与したのかも知れない。
「それまでの生活では、ピアノのレッスンが大きな励みになっていましたので、それが無くなって、高校に入ってからは目標が無くなったというのがありました」
「中学を乗り切ったという達成感が満たされて、逆に喪失感が起こったのかも知れません」「高校一年生はそうした虚脱感というか、何をしたらいいか分からないという状態だったと思います」
何をしても意欲が沸かないという状態を心配した父親が、高校一年生の終わりころにあることを静江に提案してきた。
それは、ある映画のオーディションであった。
高校生になった静江は、従来の美少女から大人びて、その美貌がますます磨きがかかっていたのである。
目標を失った娘に新しい目標を持ってもらおうという親心だったのだろうか。
「私は実はとても人前に出るようなものではないと思っていました。どちらかというと人嫌いで、引っ込み思案だったのです。ですから父からそのことを聞いたときは積極的ではなかったのです。でも、母親もやってみなさいということでしたし、気分転換にもなるのかと思い切って東京に行って、オーディションを受けることにしたのです。書類選考がありまして、それが受かって東京に向かうとき、私はどうしてもこのオーディションに受かって、映画に出たいと思うようになったのです」
果たして二次選考、最終選考と合格し、オーディションに見事合格となった。
役は主人公の娘役だった。そんなに出番はなかったものの、映画会社の人たちは、類まれな静江の美貌に目をつけた。
「三本立て続けに映画に出させていただきました。映画会社の方たちは、有力女優の候補として私を大々的に売り出したいと両親に申し出たのです」
それが静江の生涯を大きく変えるきっかけになったのだった。
#8に続く。
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