第3話

心理カウンセラーの大塚は、相談者宮城静江の洋館の応接室で宮城と面談していた。

面接室の異様な内装に恐怖感を覚えたが、こういう趣味の人もいるのかと自分に納得させて宮城という老女の話を聞いていた。


「まずお話は私のほうからにしていただきます。質問はしないでください」


何と居丈高な老女であるのか。

大塚は大いに不満を持った。

だが、そんな不満も宮城の話しているときの瞳の異常さにどこかへ消えていた。

その瞳には狂気と思えるほどの異常な炎のようなものが見えたからである。

本当は、適当に話を聞いたうえで、早々に退散したかったのだが、その場に張り付かざるおえないような迫力が宮城という老女にはあった。


「よろしいですよ。お話ください」


「ありがとう。では私の生い立ちから話しましょう」


「そこからですか、お悩みの話からではないのですね」


宮城という老女の瞳に「憎悪」の影が映った。その気味悪さが大塚を萎えさせた。


「失礼しました、どうぞお話ください」


宮城静江は、東北の大きな都市の出身であった。父親が大きな酒造会社の社長をしており、そのうえ県会議員でもあった。よくある「地方の名士」の家系であった。


静江は小さいころから利発で、将来を嘱望された子供だったらしい。兄がいて、その兄が家を継ぐことになっていたので、静江は将来大学を出て好きな道に進みなさいということだった。だが、静江は単に利発なだけではなかった。類まれな美貌も備えていたのだという。


高校生のとき、ある映画のオーディションを受け、八千人のなかからヒロインに選ばれて女優デビューをしたのだという。

大手の芸能事務所にスカウトされて、高校の途中で東京に出てきたのだという。両親は反対しなかったという。逆に父親は大いに喜び、東京に部屋を用意までして娘の活躍に期待したのだという。



「そうですか、女優さんだったのですね」


「今日は一応ここまでの話としますが、実は私の中学生時代に私の周りに起きた事件のことについてお話しなければなりません」


大塚は胸がざわざわしてきた。静江からどのような話が飛び出すのだろう。静江の異様な瞳に気持ちを操られているような気がした。

私は5歳のときからピアノを習っておりました」


静江の話によると、母親がえらく教育熱心で、小学校に上がる前からピアノ、英語、習字、バレエと毎日のように習い事に通わされたということだった。


静江がそのなかでも熱中したのが、ピアノだった。


音楽大学の助教授だった男の先生も静江のピアノの才能を褒め称え、将来はプロになれるかも知れないと太鼓判を押すほどだったという。


「先生に褒められるのがうれしくて、家に帰ってからも何時間も勉強はしないで、ピアノに熱中したのです。ですが、私が中学校の2年生のとき、事件が起きて、それを機会にピアノを辞めてしまいました」


大塚は恐る恐る口を開いた。


「どのような事件があったのですか」


静江は紅茶を一口含むと大きくため息をついた。


「私の先生が亡くなったのです」





#4に続く。






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