三分間恋愛相談
虹色
第1話
「えっと、ブルーノ君は恋愛相談ってことでいいのかな」
小柄な少年、ブルーノ君
年は妹とと同じくらいだろう。
彼がとある少女を挙動不審に見ていたので連れてきた。
恋心、というやつか。
第三者眼線で眺めていると、彼女への好意はとてもわかりやすかった。漫画なら、背景にハートの描写が現れてそうな程に。
だが、当の本人ーーつまり好意を持たれている側である少女は気づかない。あっけらかんと、無邪気に微笑み返すだけだ。
ーー
妹はうんうんと少し考えた素振りをすると、いつものように人差し指を立てる。
貰い物の時計で、時間を確認しつつ答える。
「君の相談事を解決するのに時間は要らない。3分もあれば十分」
「え、それはどういうことですか?」
ブルーノ君は不安そうに尋ねた。
「今すぐその子ところへ行って、自分の好意を伝えなさい。わかりやすく、真っ直ぐ、丁寧にね」
「そんな、彼女とはまだ話したこともないんですよ!街でばったり見かけて、一目惚れでーー」
ブルーノ君の反論を、妹は許さなかった。
強い語気を込めて言う。
恋する男子に、説教する。
「その準備はいつできる?三分か?一時間か?一日か?一ヶ月か?そんな決断を先送りしたい君に、時間経過で訪れるリスクのいくつかを紹介しよう」
妹は言う。
「彼女がほかの誰かに口説かれるかもしれない、どこか遠くに引っ越すかもしれない、誰かに惚れるかもしれない」
躊躇なく、
容赦なく、
妹は続ける、
恋する男子に言い放つ、
あるかもしれない、起こりうる『最悪』の可能性の数々を。
「病気になるかもしれない、事故にあうかもしれない、死んでしまうかもしれない」
そして、妖艶に笑う。
魔女のように。
「また、それは同様に全て君にも起こりうることだ」
ブルーノ君は黙る。
妹は教えるのをやめない。
「だから、君が欲する時間でそれら全てのデメリットを解消できるくらいの成長が期待できるなら、存分に時間を使うといい。だが、難易度はどんどんあがるし、報酬はどんどん下がる。実に分が悪い賭けだ」
妹はやめない、
ブルーノ君が動き出すまで、
行動を起こすまで、
想いが結果に変わるまでやめない。
「彼女と過ごす時間も減るし、君も彼女も年をとる、待っていいことなんて何もない」
と、突然ブルーノ君は走り出す。
妹の前から、全速力だろう、疾風の如く立ち去る。
妹は時計を確認する。
満足そうに笑った。
どうやら、予定の3分が終了したらしい。
「さあ行け、ブルーノ君。命短し、恋せよ男子、だ」
年長者風に妹は私に言う。
「どう、お姉さんぽくなかった?」
と、妹は笑う。
兄の私から見ればそれはブルーノ君と大差ない、あどけない少女の笑みだった。
ーー
この話にはまだ続きがある。
ブルーノ君の恋の行方。
彼は妹の助言通り、とある少女に自分の好意を伝えた。
君のことが好きだ、
一緒にいたい、
恋人になってくれと。
それは実に分かりやすく、誤解の入る余地もない。
この明確な『愛の告白』から生み出される結果は2つ。
成功するか、
失敗するか。
そのどちらかだ。
だが、結果は違った。
「ありが……とう、とっても……嬉しい」
ブルーノ君の想い人である少女は、そう答えて微笑むだけだった。
回答をしなかったそうだ。
だが、それは彼女が回答に困ったからではない。
恋とか愛とか、そういった感情を知らないからだ。
だから、その告白の結果は、『よくわからない』という中途半端な、なんとも煮え切らない終わりを迎えた。
だがしかし、このブルーノ君の告白、つまりは妹の助言は正しかったと私は思う。
報告をしにきた彼の顔は、
晴れやかで爽やかだった。
人が変わるのに時間は必要ない。
たしかに、三分くらいあれば十分なんだろうと、私も思った。
三分間恋愛相談 虹色 @nococox
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