俺より可愛い奴なんていません。3-32
午前12時半。
予定よりも早くにミスコンは進み、13時からの集計だったが、30分も早くに集計に移れていた。
生徒会役員は、予め割触れられていた箇所に趣、投票の紙を入れる箱を持ち歩き、徘徊しながら声を上げ、投票を呼びかけていた。
ミスコンの会場である中庭では、1度イベントが中止され、有志による生徒達の様々な発表が行われ、参加者を飽きさせないように間に空く時間を埋めていた。
お昼時という事もあり、ミスコンで盛り上がっていた会場にいた観覧者達はパラパラと会場から離れていく者もあったが、それでも一定数の観覧者はいた。
有志による発表が舞台上で行われる中、舞台裏で控えていた参加者達は休憩をとっていた。
仮設だが、いくつか机と椅子が用意され、希望される参加者にはお弁当とお茶が用意されていた。
生徒会で用意されたそれだったが、中には1時間の集計によって出来た空き時間で、桜祭を廻る一環として、何処かにお昼を買いに行く者達もいた。
そんな中、美雪(みゆき)や綾(あや)、紗枝(さえ)の3人は、仲良く仮設の椅子とテーブルを利用し、生徒会に用意されたお弁当を食べていた。
「いや〜、舞台上がった時は凄い緊張したけど、思い返して見れば凄い楽しかったね〜……」
綾はお弁当を開きながら、一緒に昼食を楽しむ2人に話しかけた。
「そうだね。凄い緊張したし、疲れたけど、出てよかった」
「私も、そう思います! 先々月に立花(たちばな)さんに提案された時や、先月までは結構不安だったんですけど、会場の人達も優しくて、楽しかったです。」
綾の問いかけに紗枝が賛同するように答えると、美雪も気持ちは同じだったため、肯定するように答えた。
美雪と紗枝が答えると、1度会話は途切れ、綾は何か考え込むような表情を浮かべた後、2人の顔を見渡し、ニヤニヤと悪戯っぽく微笑みながら再び話し始めた。
「ねぇねぇ……。2人にちょっと聞いてみたかったんだけどさ……。
今回、優秀賞を貰えたら2人はどうするの??」
綾は、2人の答えに期待を膨らませ、興味津々といった様子で尋ねた。
しかし、綾の期待とは裏腹に、美雪も紗枝も、綾の質問にピンと来ていない様子で、2人で顔を見合わせ、首を傾げていた。
「だ〜か〜ら! 投票の上位4名は優秀賞として、あの、この学校でもトップクラスにモテて、イケメンな4人と一緒にお食事出来る、とかっていうやつだよぉ〜」
ピンと来ていない2人に綾は、焦れったいと感じつつも、2人に説明し、綾の言葉に「あぁ〜」と声を上げ、思い出したように反応した。
「あぁ〜って……、なんかその反応で何となく、答え分かっちゃったし…………」
綾は2人の反応で、紗枝も美雪も特にその件については興味が無いのだと、分かると一気に萎えてしまい、明らかにテンションが下がった綾を見て、紗枝と美雪は申し訳なさそうに苦笑した。
「えぇ〜? 2人ともホントに興味ないのぉ〜??」
「そうですね……。私は基本人見知りですんで、あんまり話した事がない人と会ったりするのはちょっと…………」
綾は再度確認するように尋ねると、美雪が少し気まずそうに答えた。
美雪の答えを聞き、綾は「そっか」と小さく呟き、美雪の理由には納得すると、今度は紗枝の方へと視線を移した。
「紗枝は?? あの4人とも話した事結構あるよね?」
「え? まぁ、あるけど……。う〜ん…………。私もあの4人はちょっと苦手かな……。
うちのクラスにいる北川(きたがわ)君ならまだそんなにじゃないんだけど……、ちょっとノリが……ね??」
綾の質問に、紗枝もまた少し答えずらそうにしながら答えた。
綾は紗枝の答えにも少し納得出来た。
紗枝は言葉を濁し、綾に伝えたが、紗枝が伝えたかった事を的確に捉えていた。
紗枝が言ったように、北川はそこまででも無いが、他の3人は良くいえば、ノリが良く、誰とでもフレンドリーに接するが、悪く言えば、少しチャラい節もあった。
紗枝はチャラいと、ハッキリと言葉に出す事はしなかったが、付き合いが長い綾はもちろん、美雪も何となく、紗枝が言いたいことを分かっていた。
「う〜ん。まぁ、分からなくもない……。
実際、里中(さとなか)と馬場(ばば)あたりはちょっと色々あったしねぇ〜…………」
紗枝の答えに納得した綾は、昔に女性関係で2人がトラブルを起こした事を思い出し、呟くようにして話した。
「ま、まぁ! 2人とも悪くない人だよ? とゆうか、4人ともいい人。だけど、ちょっとね……」
「なるほどね〜……」
紗枝は4人をフォローするように答え、最後には少しやんわりと言いづらそうにしながらも、何かを伝えようと締めくくった。
紗枝のそんな話し方に、綾はうんうんと首を縦に振り、肯定するように呟いた。
「でも、あの4人、顔は文句無しで良いからな〜……。
あッ! そう言えば、この優秀賞って、立花が入ったらどうなんの??
北川達男子4人と優秀賞を取った女性3人と、立花って事になるの??
なんか、凄いややこしい事にならない?」
綾は何かに気づいたように、2人にふと思い浮かんだ疑問を投げかけた。
「た……確かに…………。」
「立花さん、選ばれたとしたら女装で来るんですかね?
見た目は男子4人と女子4人に見えなく無いですけど…………、
フフフッ……、なんか想像しただけで奇妙で笑えてきますね?」
綾の疑問に、紗枝も今気づいたと言った様子で呟き、答え、美雪はお気楽にカオスな現場を想像して、楽しむように頬んでいた。
「そんな状況になったら、私は耐えられないわ……
とゆうか、どうなっちゃうのかまるで想像が出来ない……」
美雪の感想に反応するように綾は、少し葵(あおい)に対して嫌味っぽく答え、苦笑いを浮かべていた。
そんな話題で盛り上がっていると、不意に男性の声が楽しく談笑している綾達にかかった。
「悪かったな……、奇妙な雰囲気を作る奴で……」
不意にかかった男性の声は、美雪達にとって聞き覚えのあるもので、3人は声のした方向へと一斉に視線を向けた。
「あ……」
一番最初に声に気づき、声の主を見た美雪は、思わず声を漏らした。
その次の瞬間、ほんの少し流れた3人の間の沈黙を破るようにして、綾が大きな声をあげた。
「た、立花ッ!? な、なんでッ……!」
ここに居るはずのない、先程仕事があると言って、舞台裏から姿を消した葵(あおい)の姿を見て、綾は驚いた。
「はぁ……、不正がバレて解雇されたんだよ…………」
葵は大きく肩を落としてため息をついた後、不満げに声を上げた。
「不正……?」
葵の言っている事が理解出来なかった美雪は、葵に聞き返すように答えた。
「投票券を集める時に、男子に色目使ってたら、バレて生徒会長にしょっぴかれた……」
「せ、せっけぇ〜〜…………。冗談だと思ってたけどホントにやるとは…………」
葵は特に反省した様子は無く、全く悪びれずに、愚痴を零すようにして事情を話した。
葵が話すと、綾は若干引いたように、葵を罵倒し、美雪と紗枝も流石に葵の行動をフォロー出来ず、苦笑いを浮かべていた。
「セコくなんてねぇよ。当然の権利だろ、俺に付け込ませる隙がある相手が悪い……」
「な、なんて奴だ……」
葵は間違った事をしているつもりは無いと言わんばかりに堂々と話し、綾は全く懲りていない葵に悪態をつく事しか出来なかった。
「ねぇねぇ、立花君。優秀賞の話なんだけど、もし、立花君が4人の中に入ったら立花君はどうするの??
北川君達とのアレに出席するの?」
綾と葵のやり取りを見ていた紗枝は、葵が不正を働き、生徒会長である並木 麗華(なみき れいか)に注意された話よりも、先程の話題の答えの方が気になり、2人の会話の隙をつき、割り込むように尋ねた。
「ん? あぁ〜……アレか…………。一応出るぞ? 優秀者だしな」
葵がキッパリと、再び当然だろと言わんばかりに答えると、3人はそれぞれの反応を見せた。
葵に質問を繰り出した張本人である紗枝は、何処か気まずそうな様子で、葵から視線を逸らし、少し俯きながら「へぇ〜……」と一言呟き、美雪は、笑いを堪え、言いよどみながら「出ちゃうんですか?」と追求するように葵に問いかけていた。
そして、綾は小さく吐き捨てるように一言「出るのかよ……」とツッコミをいれるように呟いていた。
葵は特に3人の反応には期待していなかったが、それでも3人のどの反応にも納得がいかず、ムッとした表情になった。
「なんだ? 俺が出るのが可笑しいのか?」
「いッ、いえいえ……」
「いやぁ〜…………、まぁ……可笑しくは無いのかも……」
葵が問いただすように聞くと、美雪は気を使うようにしてスグに否定し、紗枝もハッキリとしない答え方だったが、最後には美雪に便乗するように否定した。
美雪も紗枝も否定したが、美雪は依然として口元が少し緩んでおり、紗枝も便乗感が否めず、葵はスッキリとしなかった。
それでも、これ以上は聞かず、言葉を飲むようにして自分の中で納得させた。
「いや、立花が出るのは別に個人の自由だから良いのかも知れないけど、周りの人達はどうするんだよ……。
万が一にもウチのクラスの佐々木(ささき)さんとかが選ばれたりしたら絶対嫌がると思うし、佐々木さんが選ばれなかったとしても、ほとんどの女子は嫌がると思うよ?」
「は? なんでだ? お前ら女子は北川達と食事出来ればなんでもいいんだろ??」
綾は女子たちが嫌がるという事実を伝えると、葵は本当に分かってない様子で、天然をかますように答えた。
「い、いや! お前がなんでだよッ!! そんなわけないだろ!!
北川とかはイケメンだし、あわよくばって考えてる女子が大半だよ!」
綾は少し感情的にキレながら、葵に言い放った。
「は? ただの1回の食事で??
二宮達もそんな事考えてるのか?」
「えッ、えッ!? わ、私は、別に〜…………」
「私は立花さん来てくれた方が気が楽かもですね! 基本人見知りなので、話せる人が1人でも多いのは有難いです」
葵に急に振られた事で、紗枝は少し戸惑いながらも、葵の問いかけを否定するように答え、逆に美雪はキッパリと葵が居た方がいいと恥ずかしがる事無く答えた。
2人の意見を聞き、葵は少し満足気にしたり顔を綾に向け、「ほれ」と一言してやった感を出しながら答えた。
そんな葵の顔を見た綾は、「ここには常識人が居ないのか」と悔しそうに一言、小さく呟いていた。
そんな綾を見て、葵は更に満足した後、今度はゆっくりと落ち着いた様子で答え始めた。
「なぁ……。かなり無理やりの参加だったけどさ……、その…………どうだった?」
葵は落ち着いた声色で話し始めたが、いつも言いたい事はキッパリと言う葵らしく無い話し方で、抽象的な質問を美雪達に投げかけた。
「え? 何が??」
綾は当然といったようにピンと来ておらず、他の2人も不思議そうに葵を見つめていた。
「い、いや……、だからッ、その……ミスコンッ、出て良かったか?って…………」
葵は歯切れが悪くも、2人にきちんと聞きたい質問を問いかけた。
葵のそんな態度に、3人は驚いた表情を浮かべ、お互いの顔を見合わせた後、再び葵へと視線を向け、答え始めた。
「楽しかったですよッ!」
「まぁ、つまんなくは無かったかな〜??」
「充分楽しかったよ!!」
美雪と綾、紗枝はそれぞれ、発した言葉を重ねながらも、答えた返事はどれも、同じだった。
葵はその答えを聞い、思い何かが体から取れたように楽になり、自然と笑顔を浮かべた。
「そっかッ……」
葵は普段あまり見せない、屈託のない少年のような笑顔を浮かべ、清々しく答えた。
美しく整え、女装をしている彼だったが、その笑顔の瞬間だけは、男の子だと誰もが認識できた。
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