俺より可愛い奴なんていません。3-30


「えッ!? えッ!!? お、男だよねッ!?」


「ちょッ……ちょっと、ヤバすぎッ!!」


「マジで女にしか見えない……。とゆうか、同い年??

この妖艶さは何なんだ…………。大人の色香が凄い……」


「な、なんだか俺……変な気が…………」


女子は、元が男性とは思えないほどの美しさに驚き、動揺した様子で周りに確認を取るような行動をする者が多く、男子は男子で、素直な美しさに、多くの者が見とれていた。


葵(あおい)が見せた魅力は、まだほんの一部でしか無く、下の衣装は黒いローブで隠されていた。


「ど、どうなってんだよ……一体…………」


会場で葵を見ていた中島(なかじま)は、かなり動揺した様子で、周りにいた大和(やまと)や山田(やまだ)に聞こえる程度の声で呟いた。


「アレが、立花って…………、ちょっと信じられないぞ……」


「いや、絶対ありえねぇだろ!!」


中島の言葉に反応するように、山田も動揺した様子で答え、1番葵と近しい関係である大和は大声を上げ、驚いていた。


大和がギャーギャーと騒ぎ中、中島は難しい表情を浮かべ、何かを考え込むようにして、少しの間静かに黙り込みんだ後、そのまま真面目な表情でゆっくりと話し始めた。


「俺……、あそこまで綺麗なら男でもいいかもしれない…………」


「はッ………?」


真面目な表情で何を話すかと思ったら、急に突拍子も無い事を口走った中島に対して、それを聞いた大和と山田は二人同時に、驚いた表情を浮かべ、声を漏らした。


「お、お前何言ってッ…………」


大和はすかさず中島を問いただすように声を上げると、一緒に驚いていたはずの山田がそんな大和の言葉を遮るように声を上げた。


「そんな事……、今気づいたのか? お前……。俺は出てきた瞬間から、もうアリだと判断してたぞ……?」


言葉を遮るようにして声を上げた山田に、大和が発言権を山田に譲ると、山田もまた大和の予期していない言葉を口走っていた。


山田の中島以上に酷い言い分に、大和はギョッとした表情を浮かべ、友人だが、少し軽蔑するような目で山田を見つめた。


「お、お前ら……何言ってんだよ…………」


「いや、お前こそなんだ?? もう、アレは半分……、いや、丸っきり女だろ。目腐ってんのか??」


大和が2人に引きながら、少し怯えた様子で話すと、山田は若干キレ気味に、めちゃくちゃな言動を、まるで正論を振りかざすように、堂々とした様子でキッパリと言い放った。


「山田……、止めてやれ。神崎(かんざき)はB専なんだよ……。」


「あぁ〜、なるほどな……。あの美貌が分かんないなんて可哀想だな……。」


「いや、お前らの方がよっぽど可哀想だよ…………」


中島と山田は大和を憐れむように話しており、可哀想だと憐れまれ、可哀想だと言われた大和だったが、目の前の男達の方がよっぽど憐れに見えていた。


化粧を施した葵は確かに美人で、山田や中島だけでなく、他の男子生徒も多く魅了しており、女子ですら目を輝かせて葵を見つめていた。


そんな状況だったが、葵と付き合いの長い大和だけは、やっぱり化粧をしていても葵だと認識する事ができ、驚きはしたが、その美貌に惑わされるまではいかなかった。


「付き合いが長いからか…………? いや、俺に彼女がいる事がデカいのかも…………」


大和は、不思議そうに葵を見つめ、呟きながら葵をきちんと男として認識している事に考えていたが、結局は自分の惚気けた状況のお陰だと片付け、自然と笑みが零れ始め、ニヤニヤとしながら告白して来た彼女の事を思い浮かべた。


「おい……中島…………。俺はもう、限界なのかもしれん……」


「抑えろ山田……。今は、立花を見て癒されろ……………」


ニヤつきながら呟く大和を尻目に、呟くように2人は会話した後、気持ちを落ち着かせるためにも舞台へと視線を再び振った。


◇ ◇ ◇


盛り上がる会場の中、葵がどういったメイクで出場しようとしていたか知っていた、舞台裏の人達は、静かに舞台を静観していた。


「た、立花さん。やっぱり凄い歓声貰ってますね!」


「だね〜……。悔しいけど、初めてアイツの化粧姿見た時はビビったもん……」


美雪(みゆき)は舞台裏で、何故かワクワクしたような様子で舞台を見つめ、言葉を発し、綾(あや)も葵が出て歓声が上がり、当然だよといったしたり顔で、答えていた。


「私のメイクで自分の化粧をする時間も削れてたのに、立花君って実はかなりメイクの腕、凄いよね?」


美雪と綾の会話に、紗枝(さえ)は、自分のコーディネートで葵が自分のために使える時間が削られていた事を知っていたため、そこにも関心していた。


「まぁ、ちょっと怖いくらいだよね……。女であるアタシよりも上手いとか……自信無くすレベルだし…………」


「むッ……た、確かに………」


紗枝の言葉を聞き、ますます葵の女子力の高さを感じたのか、綾は暗めに呟くと、紗枝も自分のセンスには自信がなかったため、痛い所を付かれたと言わんばかりに、苦虫を噛み潰したよう表情で答えた。


「衣装はどんな感じなんですかね? とっても楽しみですッ」


何とも言えないような表情を浮かべる綾と紗枝の中、美雪は心から楽しみにしている様子で、ニコニコしながら期待の表情で呟いた。


◇ ◇ ◇


(掴みは完璧だな……。)


会場に出て瞬間は、なんの反応もされず、少しヒヤッとした葵だったが、普段の盛り上がり、体感的にはそれ以上の盛り上がりを感じいた葵は心の中でガッツポーズを取りながら、呟いた。


(はぁ〜……なんか久々かもしれないな、この感覚……。やっぱ気分がいい……)


葵はこの頃、色々と忙しく、東堂(とうどう)との1件もあったため、女装をして街にくり出すという、最大の趣味を自粛していたため、今、会場中から浴びる熱い視線と歓声に酔いしれていた。


葵は、優越感に浸りながらも、冷静に大貫(おおぬき)の言葉を聞いていた。


「いや、ホントに凄い出来栄えですね! どっからどう見ても女性にしか見えないですよ!

それでは、早速ですけど、自己紹介の方! お願いしますッ!!」


大貫はそう言うと、マイクが葵の方へと傾けられた。


葵は1つ咳払いをするとゆっくりと答え始めた。


「2-B組の立花 葵(たちばな あおい)です」


葵が声を発すると、会場は今度は歓声では無く、大きくどよめいた。


葵の隣に立つ大貫までもが、葵の声を聞き、その声がリハーサルの時と少し異なっている事に驚いていた。


葵の発した声はいつものような気だるそうな低い男性の声とは違い、透き通るような中性的な声で、丁寧な口調から余計に雰囲気が出ていた。


葵の事を知っている人ほどこの変わりように、大きく動揺していた。


普段、女装をして街にくり出す時は、可愛らしい女性の声を作っている葵にとって、こんな事は朝飯前だった。


(惑え、惑え……、もういよいよどっちの性別か、分かんないだろ……)


会場に来ていた者達は、流石に声で男性だとハッキリ認識できると思っていた者が多く、葵のまさかの行動に、葵を知らない観覧者は男だと認識出来ず動揺しており、葵を知る者は舞台に立つのが葵じゃないのでは無いかと疑い初めていた。


会場を見渡すようにして、来場者達の反応を確認し、その中には見知った顔もいくつかあり、そのほとんどが困惑したり、葵の魅了されているような表情を浮かべていた。


(はぁ〜……、快感…………)


葵は自分に惑わされる人達を、舞台から見下している様な状況に、優越感に浸っていた。


葵が悦に浸っていると、見知った所では無い、何度も見た事のある人物の者と、何年かぶりに見た顔の人物が葵の視界に入った。


葵はその2人を凝視すると、あちらの2人も葵と目が合った事に気づいたのか、1人は少し照れくさそうに可愛らしく微笑んでおり、もう1人は葵をバカにするかのように、舞台に立つ葵を指さし笑っていた。


「姉貴の野郎……、人の顔見て笑い転げてやがる…………。

椿(つばき)もこっちに帰ってきてたんだな……。橋本(はしもと)があの衣装を着ていた時点でまさかとは思ったけど…………」


ここまでいい気分でいた葵だったが、久しぶりに会う身内の登場と、姉である蘭(らん)の癇に障る態度に、少し現実に戻されたような間隔に陥った。


遠くにいた蘭が葵を未だに指差しながら笑っているのをじっと見ていた葵は、蘭がパクパクと口を動かしているのが分かった。


蘭の口の動きと、何となくのニュアンスで葵は蘭が言っている事を呟いた。


「ウ……ケる? 変態? 分かった……どうやら俺と喧嘩したいらしいな姉貴は……」


長々と口を動かしていた蘭だったが、葵は断片的に蘭の言葉をやった事の無い読唇術で読み取った。


そんな葵に、大貫は次々とリハーサル通りに質問をぶつけていき、葵は冷静に淡々と、声を作りながら答えていった。


いくつかの問答が終わると、大貫は関心したように息を吐くように話し始めた。


「はぁ〜……、そうですか……。では、こちらが最後の質問になりますね?

ズバリッ! 立花さんが今回のミスコンに参加した理由をお聞かせください!!」


大貫は、最初驚く事もあったが、リハーサル通りに進め切り、葵に最後の質問をした。


(やっと質問が終わった……。これでやっとお披露目だな…………)


ここまで冷静に答えて来た葵は、内心では早く自分の纏う黒いローブを脱ぎ捨て、自分のコーディネートを晒したいと思ってワクワクしていた。


望んでいた最後の質問が来た事で葵は、少し気持ちが浮つき、作っていた声も、今まで出していた少し冷たいような作り声が、少し明るい口調となった。


「そうですね。私が今回のミスコンに出場した理由は1つしかありません。それはッ……」


葵はリハーサル通りに、予め用意していた答えを、途中まで言ったところで切り上げた。


今までハキハキと答えていた葵が急に黙り込んだ事で、会場は少しザワついていた。


葵は用意していた答えを言うつもりだったが、その瞬間にある事が葵の脳裏を過ぎり、ここまで淡々と答えていた葵の行動を止めた。


(なんで…………、アイツの事…………?)


葵は不意に、脳裏に過ったある者の人物の笑顔が過った事で、動揺していた。


葵が用意していた答えは、普通の人からしたら少し引かれるような答えで、葵はこの多くの人がいる会場で、参加した理由は、自分が1番美しいと言う事を証明するためだと、高らかに宣言するように言おうと決めいていた。


引かれようが、葵は直前まで本気でそれを思っていたし、言おうとしていたが、不意に自分がここまで色々と面倒な事をしてきた理由として、それが正解なのか分からなくなってしまった。


「た、立花さん??」


急に黙ってしまった葵に、隣に立つ大貫が心配するように声をかけてきた。


大貫の声に葵は気づいていたが、今はそれどころではなかった。


葵の脳裏に不意に過ぎったのは、1人の女子生徒の笑顔であり、葵は何故ここまで頑張ってきたのか、来れたのか、時間が経つに連れ、何となくだか分かってしまった。


(そういや、アイツ……、俺が女装をする時、やたらと喜ぶよな…………。

どっちが美しいとか、白黒付けてやるとか思ってたけど、アイツ自体そうゆうのに全然興味無くて、張り合いも無かったしな……。

むしろ、俺の女装なのに、自分の事のように胸を張って自慢するように周りに話してた節まであったし…………)


葵は、過去にあった彼女との出来事を、少し懐かしむようにいい思い出として思い浮かべていた。


「あ、あの〜……た、立花さん?」


「ん?……あ、あぁ……、悪い。えっと……」


不安そうに再度尋ねてきた大貫に、葵は今までの作り声とは違う、普段の男性としての素の声で反応した。


少しの間俯き、自分の胸になんでここまで頑張れたのかを問いかけるようにして、答えを考え込み、そして、ゆっくりと会場を見渡すように顔を上げた。


「俺の女装を見て、自慢げに喜ぶ奴がいるんです。

そいつの行動が面白くって、そのためにミスコンに参加しました。」


葵は、清々しい表情で、素の声で淡々と誠実に答えた。

脳裏には、その女性、橋本 美雪(はしもと みゆき)の笑顔が思い浮かんでいた。


葵のリハーサルとは違う答えに、大貫は少し動揺しており、葵の答えはあまりに意味が分からなく、会場で見ていた観覧者も頭の中で、はてなマークを浮かべているようなそんな表情で、葵を見つめていた。


(ホント……、変な奴…………)


葵はそんな会場や大貫を気にすること無く、内心で不思議な魅力のある美雪に対して呟いた。


そして、美雪自体も、姉にコーディネートされ、舞台上で笑顔で振舞っていた事を思い出し、先程、舞台裏で感じた妙な感覚は達成感から来る物だったのだと結論付けた。


「え、えっと……そ、それではッ!! お披露目してもらいましょうッ!! こちらが立花 葵さんの衣装です!」


大貫は舞台を仕切り直すように大声をあげると、スッキリとした表情で葵は、黒いローブを一気剥いだ。

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