俺より可愛い奴なんていません。3-22
湧き上がっていた会場が一気に静まり返り、少しの間、静かな時間がミスコン会場中に流れた。
しかし、それは一時的なものだった。
スグに観客席は、ドワァっと勢いをたてて、盛り上がった。
「紗枝(さえ)〜ッ!! 可愛いよぉ〜ッ!!」
舞台に立つ二宮 紗枝(にのみや さえ)は静まり返った会場を前に、一気に不安に駆られたが、会場にいた数名の紗枝の友達であろう者たちの声援によって、紗枝は励まされた。
紗枝の見せた衣装は、最初は正直困惑の一言で、今までの発表からして考えてみたら、紗枝の衣装は少し特集だった。
「こ、これは……」
観覧席から紗枝の衣装の発表を見ていた結(ゆい)は、なんとも言えない難しい表情で、言葉を詰まらせたように声を出した。
結の隣で見ていた立花 蘭(たちばな らん)もまた、厳しい表情を浮かべていた。
紗枝が見せた衣装はなんと、桜木高校の制服だった。
現在、季節は6月に入ったという事で、今の桜木高校の制服は、衣替え期間に入っており、紗枝はその衣替えで変わった夏の制服での登場だった。
桜木高校の女子生徒の夏の制服は、上が白い半袖のワイシャツとなっており、下が冬とは少し違う、布が薄いスカートとなっていた。
ただ、いくら制服といっても、多少は手を加えており、キッチリと着こなすわけでなく、少し砕けたように着こなし、普段なら校則で禁止されているようなアクセサリーなども少し付け、オシャレに見せていた。
観客の反応から見て、確かに盛り上がってはいた。
紗枝の本来の持つ容姿の良さとその人あたりの良さからくる人望で、友達や仲の良い知り合いなんかは、紗枝に次々と声援を送り、初めて紗枝を見た観覧の者達も、紗枝のその姿が別に似合っていないというわけではなかったため、好印象を与えている様子だった。
しかし、その反応はイマイチだった。
紗枝程の魅力であれば、今までで1番の盛り上がりを見せた、佐々木 美穂(ささき みほ)や加藤 綾(かとう あや)と同じくらいに盛り上がってもよかった。
「正直に言うと苦しいですね、この衣装は…………。
桜木高校の生徒さん達は、見慣れた制服ですし、確かに似合ってる事は似合ってますけど…………、もっとやりようがあった気がします」
会場の盛り上がりに比例するように、結の意見もあまりいいモノでは無く、どちらかと言えば葵の衣装に否定的だった。
結が否定的な意見を答える中、蘭はそれを片耳で聞き止めながら、依然として何も言葉を発する事無く、舞台に立つ紗枝を難しい表情で見めていた。
(葵……、何を考えてコレにしたの…………。どの選択肢を取ったとしても、恐らく着こなせる彼女だけど、この答えはその多くの選択肢の中で最悪よ…………?)
蘭が内心で、色々な事を考えていると、そんな蘭をもう1人、隣でミスコンを一緒に見ていた椿(つばき)が、不安そうな表情で蘭の反応を見ていた。
今までの蘭ならば、発表と同時ワイワイと色々騒いでいたため、そんな蘭の初めて見せる反応に、戸惑いしか無かった。
そして、深刻な雰囲気が流れているのを感じ取り、何より現在の娘が兄の発表でもある事を思うと、不安でしか無かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「お……おいおい、嘘だろ? あれって……」
「そうだな。ウチの制服だな……」
蘭達と同じようにして、1階の観客席から紗枝の発表を見ていた山田(やまだ)と大和(やまと)は声を上げて驚いていた。
「いやぁ〜、メイクしたり髪型変えるだけで、こんなに変わるもんなのか!?
まぁ、正直、二宮さんが舞台にあがった瞬間から驚きの連続だったけど、制服着たら余計に、いつものとギャップを感じるよな〜……」
「だな、二宮さんは普段から真面目な感じで、俺達男子にも優しく微笑みかけて挨拶をしてくれる天使みたいなものだもんな……。
葵みたいなひねくれ者にも例外なく、接するし……。それに、普段黒髪でロングなのも定着してるからなんか別人に見えるよ」
山田は紗枝が現在の桜木高校では禁止となっているが、茶色いに変え、ショートヘアーにしただけで、大きく変わるギャップに驚き、大和もまた、普段の学校での紗枝をよく知っているため、容姿の変化に、別人のように感じていた。
「普段の二宮さんもいいけど、これはコレで…………」
2人が感心した声を上げていると、2人の少し後ろから見ていた中島(なかじま)も少し興奮したように声を上げていた。
「でもな〜……、制服も確かにいいけど、これで二宮さんの私服が見てみたかったってのもある……。なんか、凄いスタイリストさん達がいっぱいいて、衣装も沢山あったんだろ?
髪型とメイクだけでここまで変わるのであれば、見たかったかな〜……」
山田は少し、悔しがるような様子で、答えたが、残りの2人もそれについては同じ考えだった。
色々と、紗枝の発表に対して、高評価を述べていた3人だったが、唯一上げる欠点として、それがあがった。
そして、そんなふうに考えている生徒は、別に大和達だけではなく、同じように考える生徒は少なくなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
ミスコンが盛り上がる中、大貫は隙を見計らい、丁度いいタイミングでマイクを通して話し始めた。
「いやぁ〜……、流石に凄い人気ですね〜、二宮さん。今回、上位4組を決めるという話でしたが、予想の段階でも二宮さんは優勝候補でしたからね〜……、当然と言えば当然ですよね〜……」
大貫は、ニコニコと笑顔を浮かべながら、司会としての進行を始めた。
紗枝も、黒いローブを剥いだ瞬間に、会場が一気に静まり返った事で、一瞬、かなり焦ったが、再び、会場が盛り上がってくれたことで、かなり救われていた。
「二宮さんは、桜木高校の制服ですか〜……、今丁度、学校ら衣替え期間ですからね〜……。今はまだ若干、半袖は肌寒く感じる人が多く、半袖の制服を着る生徒は少ないですけど、もうそろそろ、夏になってくると増え始めるでしょうね。
さてッ! それでは、二宮さんに色々とお聞きして行きたいと思います!! えぇ〜……まずですねッ。二宮さんの、自己紹介から、お願いします」
大貫はそう言い終えると、マイクを紗枝の方へと向け、恒例の自己紹介を要求した。
「はい。え〜と、2年B組の、二宮 紗枝です。部活は、テニス部をやらせて貰ってます。2-Bでは、クラス委員も務めさせて貰ってます。」
大貫から傾けられたマイクに、紗枝は顔を近づけると、リハーサルで練習した通りな、簡単な自己紹介をした。
紗枝がリハーサル通りに答えると、マイクは再び大貫の方へと傾き、このようなやり取りが何度も、質問を変えて、続けられた。
そして、幾つかの質問を終えると、大貫は最後の質問へと移った。
この質問も、参加された出場者全員に聞かれた質問で、とても大事な質問だった。
「それでは、最後となりますが……、ズバリッ、今回のコチラのコーディネートのコンセプトは、何でしょうかッ!?」
大貫は大きく、ハッキリとした口調で、最後を締めくくるような、質問を紗枝に投げかけた。
大貫がそれを尋ねると、紗枝はゆっくりと目を閉じ、軽く息を吐いて、気持ちを落ち着かせると、再び目を開け、決意に満ちた表情で答え始めた。
「今回の私のコンセプトは、変化と夢……です……」
紗枝は、自分を仕上げてくれた、コーディネートしてくれた人の大切な思いを、会場に来てくれた人達、全員にきちんと届くように、ハッキリとした透き通る声で、力強く答えた。
紗枝が真剣な表情で答えると、会場は少し静まり、そして、ざわざわとざわめき始めた。
会場の反応は、当然だった。
今までのコンセプトで言うと、「夜のイルミネーション街を歩く大人の女性」や「遊園地デートで着ていく私服」など、具体的なシチュエーションなどで上げたりが多かった。
抽象的なコンセプトも中には確かにあった。
綾のコンセプトも「天真爛漫」であり、どちらかと言うと、抽象的なイメージのコンセプトだったが、衣装を見れば成程なと誰もが納得した。
そんな中でも、紗枝の答えたコンセプトは、正直に言って意味が伝わらなかった。
そして、紗枝の口から発せられたコンセプトと、今の衣装を見比べても、どうしてそのコンセプトを付けたのか、こうなったのかは理解できなかった。
「え、えっとぉ〜……変化〜と、夢……? ですか…………」
「はいッ。変化と夢、ですッ」
大貫も例外でなく、ちょっとよくわからないといった様子で話した。
そんな大貫の態度もあって、紗枝は自分の発した言葉に不安を感じたが、自信満々にコレがコンセプトだと、言わんばかりに堂々と答えた。
(大丈夫……きっと、伝わる…………。立花君があれだけ一生懸命に考えたんだ……。
このコーディネートは、どの参加者よりも魅力的だ!!)
不安が過ぎる中で、紗枝は自分を鼓舞するように、言い聞かせ、そして、紗枝は続けるようにして、話し始めた。
「多分、これだけじゃ伝わらないと思うので……大貫さんッ
ちょっとお願いがあるんですけど、良いですか?」
「え? え? あ、まぁ、良いですけど、何でしょうか??」
紗枝はリハーサルには無い進行を取り始め、大貫はそんな紗枝の行動に完全に同様しながらも、紗枝の頼み事は断れず、紗枝の願いを尋ねた。
「今、私の前に黒いローブを広げて、私の衣装が会場の皆さんから見えないようにして貰っても良いですか??」
紗枝は内心、心臓が何度も大きく早く脈打ち、バクバクの状態だったが、それでも自分のために一生懸命に頑張ってくれ、衣装を考え、コーディネートしてくれた彼の為に、彼の考えたコンセプトを伝えるために頑張り、平静を装い、優しく大貫に頼んだ。
「は、はい……。分かりました。で、では前を失礼します。」
大貫は紗枝の言われた通りに、紗枝を会場の人達から見えなくするように黒いローブで紗枝を隠した。
少しの時間が経ち、紗枝は大貫にローブを降ろしていいとの合図を掛けた。
そして、そのローブが降ろされた瞬間に、現れた紗枝を見て、会場は今までとは違った反応を見せた。
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