俺より可愛い奴なんていません。2-12
◇ ◇ ◇ ◇
桜木(さくらぎ)高校は大いに荒れていた。
立花 葵(たちばな あおい)がミスコンを決行すると決め、それが職員会議にあがっていた。
山口(やまぐち)が約束通り、職員会議でその話を上げると、やはり職員の中でもかなりの波乱が起こっていた。
様々な意見が出され、結果として、葵には会議が良い方進み、人数確保が叶えば開催してもいいという結論に至っていた。
そこから、職員会議で決定された話を、朝礼で各クラスに指示し、全校生徒の知るところとなり、ミスコンが行われるかもしれないということで、男子と女子は違った理由で、熱く盛り上がっていた。
葵は、現状参加希望を示してくれている、佐々木 美穂(ささき みほ)、二宮 紗枝(にのみや さえ)、加藤 綾(かとう あや)、そして橋本 美雪(はしもと みゆき)のミスコンでの上位3名を決めるために順位付けをしてもいいかと、確認し、それぞれからその了承を得ていた。
葵の事を嫌いな佐々木などは、断るかと思われたが、意外と融通が効き、すんなりと順位付けを了承してくれた。
ミスコンの話をしに行った葵だったが、佐々木との会話の中で、ミスコンの話題に触れたのはほんの一瞬であり、佐々木はそんな事よりも聞きたいことがあり、そっちの話の方が長々と話してした。
佐々木が聞きたかった事とは、上位3名に与えられる景品の事だった。
葵はしつこいほど、景品(北川 敦(きたがわ あつし)等と一緒に食事にいける件)について尋ねてきては、何度も葵にその話が本当の事なのか確認を取ってきた。
鈍い奴でも恐らくその佐々木の態度を見れば、佐々木が明らかに食事にいける4人の中の1人に好意を抱いている事は確かだった。
葵は内心、一件不良に見える彼女でもそんな可愛らしい、乙女らしい一面があるのかと、少し感心し、驚いていた。
紗枝と綾に関しても、そこまで苦労せず了承を取れた。
綾はともかく、紗枝に関しては少し、その話をした途端、少し戸惑ったような困ったような表情を浮かべていた。
葵は、その表情を見て、上位3名しか順位は発表しない事と、正直、紗枝の見た目ならば、間違いなくその3名の中の1人に入る事は確実だと確信していたため、それを伝え説得すると、紗枝は「そういう事じゃ無いんだけどな……」と苦笑いで呟きつつも、了解をしてくれた。
綾に関しては、葵は雑に強制と言わんばかりに伝えるだけ伝え、紗英にやったように特に説得のような事をする事は無かった。
もちろん、その態度の違いに綾は、ブーブーと愚痴を思いっきり零していたが、葵は特に気にすること無く、綾もハッキリと出ないとは言わなかったため、2人の間でそれは暗黙の了解となった。
無事に了承も得、美雪を含んだ参加者4人以外にもちらほらと、参加者が増えて来ていた。
葵の起こした行動は間違いなくミスコンにとってはいい方向に進んでいた。
恐らく、男子バレー部に任せるだけでは、ここまで上手くは回らなかった。
その要因としては、やはりプロのスタイリストにめかしこんで貰える事が1番の要因だった。
こんな事は、普通に暮らしてるぶんには、あまり体験出来ない事であり、女性陣はそこに惹かれる者が多かった。
しかし、葵にはそれに付随して色々と悩みも上がってきていた。
それは、想定よりも参加者が出てきている事だった。
まずは、スタイリストの人不足になる恐れの問題。
このままじわじわと参加者が増えた場合は、明らかにスタイリストの数が足りなくなる恐れがあった。
葵の姉、立花 蘭(たちばな らん)との話では、当日来れるスタイリストは蘭を含み4人程だった。
葵は女装をするため、大体一人あたりに構う手間や時間を分かっていたため、このまま増えると足りなくなるのはすぐに分かった。
そして、似た問題として、衣装だった。
メイクだけして、下は制服なんて事も考えたが、それでは明らかに地味で、見ている人にとっては手抜きにも見えてしまうような気がした。
葵はそんな数々の問題を抱え、解決するために試行錯誤をする日が連日に渡って続いていた。
昼休み、周りがミスコンで湧き上がっている中でも、葵は頭を悩ませていた。
「お〜い! 葵ッ! サッカー部の1年生の女子マネージャーも出てくれるってさッ!!
後輩女子マネ…………最高だなッ!」
葵が必死に頭を悩ませている中、昼休みだというのに何処かに行っていたのか、教室に入ってきた大和(やまと)は、楽しそうにしながら葵に報告をしてきた。
「あんま、そうゆうこと言うなよ、捕まっても知らないぞ?」
「どういう意味だよッ」
葵は、大和に思考を妨げられた事にイラッとしたため、仕返しをするようにして、わざと嫌味を言うと、すかさず大和からツッコミが返ってきた。
「女子マネージャーか…………これで、かれこれ9人、お前ら女装隊を入れるともっと増えるな……」
大和の必死なツッコミも忙しい葵は華麗に無視し、確認するように呟いた。
「女装、結局やるのかよ……」
「あ? 当たり前だろ。それと、女装の方はお前ら何から何まで自分たちできちんと用意しろよ?
こっちはお前にまで構ってる暇はない……」
「えぇッ!? それはちょっとッ! 俺もプロにやってもらいたいよッ!!」
葵の突然の発言に、そんな事聞いていないと言わんばかりに、大和にまるで命乞いをするように大和は答えた。
「何があろうと出ては貰うからな? ちゃんと準備しないと壮大に滑るぞ〜……」
葵は追い討ちと言わんばかりに、大和に伝えると、大和は一気に顔が青ざめていき、何か思い出したかのように、葵の席から離れ、何処かに駆け出していった。
おそらく、仲間である他の男子バレー部員にもそれを伝えに行ったんだろうと葵は思い、本当に彼らに構ってるほど暇じゃなくなってきたため、スグに彼らの事は思考から外し、ミスコンについて考え出した。
(不味いな……効き目が思ったより出てる…………。まだ桜祭(おうさい)まで2ヶ月ある。
この締切を1ヶ月後に控えたとしても、このままジリジリと増えたら…………定員を設けるしかないか……)
葵は思考を巡らし、何とか打開策を考えたが、いい案は出ず、1番取りたくは無かった手だったが、定員を設ける事も視野に入れだした。
(とゆうか、これ以上大掛かりなイベントになるとヤバいな……俺一人で回せる自信がない……。
男子共に無理やり協力させるか、協力しない奴はミスコン見せないぞって脅せば何とかなんだろ……)
葵は、他の男子からしたら恐ろしい事を考えながら、開催する側としての人手も増やす事を考えた。
「はぁ……なんで俺がこんな事やってんだぁ……?」
葵はあまりの忙しさに思わず本音が零れた。
当初は美雪にミスコンに出てもらい、姉の手によってめかしこまれた美雪に美しさで勝つことによって、本来の自信、女装をしている時の自信を取り戻すだけのつもりが、流石の葵もここまで大事になるとは思っていなかった。
「大変そうだね……」
葵が項垂れ、愚痴を零していると、席に座る自分に上から声がかけられた。
その声は、柔らかな声で、明らかに女性が発している声だった。
葵は顔を上げると、そこには、項垂れる葵と、零した愚痴を聞いていたのか、苦笑いを浮かべた二宮 紗枝(にのみや さえ)の姿があった。
「大変だ……手伝ってくれ……」
葵は冗談半分で、紗枝にそういうと、紗枝は少し驚いた表情を浮かべた後、笑顔で答えた。
「フフフッ……私にもそういう冗談を言うってことは相当だね。」
紗枝は最初、葵からそんな冗談を言われるとは思ってなかったため驚いたが、楽しそうに笑いながら答えた。
「なんか、いい案ないか? 手伝ってくれるあてとか……」
「う〜ん…………」
葵の問いに、紗枝は顎に人差し指を当てながら、斜め上を向き、考え込むようにして声を漏らし、いい案が出たのか、再び葵に視線を戻し、答えた。
「まだウチのクラスの出し物決まってないでしょ?? クラスの出し物としてミスコンを開催するのは??」
「あぁ〜……なるほどな……」
紗枝の出したことは、確かに一理あった。
葵もそれは思いつかなかったが、中々いい案だと思い、参考にしようかと考え始めた。
しかし、すぐにそれではダメだという考えに辿り着いてしまった。
「確かにいい案だけどな……ダメだ。タダさえうちのクラスには出場者者が4人いるんだ。そいつらに出てもらうだけじゃなく、ミスコンの運営までさせるのは、流石に気が引ける……」
「え……?あ、ま、まぁ……そうかもだけど…………」
葵の答えに益々紗枝は驚き、動揺した様子で答えた。
紗枝の動揺には、葵も気が付ついた。
「ん? なんか変なことでもいったか……?」
「え? いや、んん〜? まぁ…………」
葵の問いに紗枝は、歯切れの悪い感じで答えた。
その答え方は何か、引っかかるところがあるといったような様子で、紗枝も、この引っかかる点を葵に伝えまいか悩みながらの返答だったため、こんな変な返答になっていた。
紗枝は葵が、ここまで出場する自分達の事を考え、その手段を選ばなかった事が以外だった。
確かに、1年の頃から紗枝は葵が悪い人だと思った事が無く、気が利く優しい人だと分かってはいた
。
それは、紗枝が以前に葵に助けられていた事があったから分かる事だった。
紗枝がクラス委員を1年の頃に引き受けていた際に、授業で提出しなくてはいけなくなった宿題を、クラス委員だからという理由で、回収しなければいなくなった事があった。
その際、たまたま男子のクラス委員は病気で長期で休んでおり、男子の分も回収しなければならなくなっていた。
しかし、そこで奇妙な出来事が起こった。
提出期限日1日前の日、放課後、たまたまトイレに行くことがあり、トイレから戻ると、自分の机に、そこには男子生徒全員分の宿題が積んであった。
その日は誰がやってくれたのか分からなかったが、後日聞くとそれは、葵によるものだということがわかった。
それ以降、紗枝は葵の嫌な噂を聞いたとしても、葵を悪い人だとは思えなかった。
葵の手助けは分かりずらく、さりげなく、手を貸してくれていて、後になってそれに気づくという形が多かった。
しかし、今の葵は何か心境の変化があったのか、その優しさが全面に出てきているようなそんな気がしていた。
本来、あまりこういう事優しさを見せない彼だったはずだったが、何かあったのか、その変化に紗枝は気になっていた。
葵も、何が気になっているのか少々気にはなったが、追求したりなんかはせず、適当に流すことにした。
「そうか、ならいいんだけどな。悪いな? せっかく案だして貰ったのに……」
葵は相談に乗ってくれたことに感謝しつつ、提案してくれたにも関わらず、反対意見を出してしまった事を軽く謝罪した。
「ううんッ! 別に……。こっちこそ力になれなくてごめんね?
あッ、それとこれッ。修学旅行実行委員宛の手紙。渡しておくね?」
紗枝はそういって、手早く用事を済ませ、「それじゃあ」と軽く挨拶すると葵の席から離れていった。
「なんか、変だったな……」
葵は離れていく紗枝の後ろ姿を見ながら、呟いた。
その時だった。
ポケットに入ったスマホが大きくバイブレーションを立て、通話が入ってきていることを知らせた。
葵は、その事に気づくと、すぐにスマホをポケットから取り出し、呼び出し相手の名前をみた。
スマホの画面には大きく立花 蘭と書かれていて、その電話は姉からの電話だということがわかった。
葵は蘭の電話に出ると、スグに蘭の声が聞こえてきた。
「電話出るのおそ〜いッ!! ワンコールで出ろって言ってるでしょ〜?」
「無理だろそれは……」
蘭のいきなりの無茶ぶりに葵は呆れた様子で若干面倒くさそうに答えた。
「あぁ〜、今の声の感じ、お姉ちゃんをダルがっただろぉ〜? いいのか〜?
せっかくお姉ちゃんが耳寄りの情報を持ってきたのに〜」
「わかったわかった……悪かったって……。
それで? 何??」
感のいい姉は電話越しでも、姉の電話をダルがった葵を感じ取り、スタイリストの件を頼んでいる身である葵としては、蘭の機嫌をこれ以上損ねるのは得策でないと考え、スグに謝罪し、要件を尋ねた。
「あのね、こないだ葵から頼まれてたスタイリストの件あるでしょ〜?
それねぇ〜、ウチの事務所の名前使って大々的にやりたいんだってぇ〜」
「え……? それってどゆうこと??」
葵は、思考が追いつかず、蘭の言ってることがよく理解できず、聞き返した。
「だからぁ〜、ウチの事務所のイベントとしてやりたいんだって。ミルジュのイベントとして」
「は……?」
葵は驚き、思わず声を漏らした。
そして、蘭とのこの電話により、ミスコンの規模が更にでかくなるという事を理解した。
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