俺より可愛い奴なんていません。2-10
立花 葵(たちばな あおい)と橋本 美雪(はしもと みゆき)が自分のクラスを出て、修学旅行の実行委員が集まる教室に着き、数十分が既に経過していた。
現在は、早く終わった美雪と葵しかいなかったが、そろそろ他のクラスの実行委員がこの教室に入ってきてもおかしくない時間帯だった。
そんな中、葵と美雪はある程度、緊張感を漂わせていた。
「えっと……どこから話せばいいのか。 まず、俺がなんで女子に対しては敵対的なのかから話すか…………」
葵は、独り言を発しながら、美雪に話すための順序を考え、話し始めた。
「橋本のさっき言ってた噂っていうのは、多分ほとんど嘘じゃなく実際にあった事だと思う。
多少、自分達が綺麗に映るように話をでっち上げたり、誇張したりはしてるのかもしれないが、基本噂は信じて貰っても構わない。
実際、あっちからみたら態度が悪くて、口調も冷たいのも真実だからな」
「はい……でも、確かに立花君の口が悪いと思う事はありますけど、そんなに噂程悪い印象は私は無いですよ?
最近は二宮さん達とも話す事が多くなってきて、そういった話題もたまに上がりますけど、私と同じ意見の人もいるみたいですし……1部の人達は、立花君を嫌いというよりは、怖いってイメージがあるんだと思います」
葵は美雪から1部の女子からは、別に嫌われているのでは無く、怖いとイメージを持っているというのを聞いて、そんな意見もあるのかと初めて気づいた。
しかし、確かに言われてみればそうだし、自分自身も近寄り難いオーラを出してる自覚はあった。
「なるほどな。でも、ほとんどは多分俺の事嫌いだぞ?」
「ま、まぁ……」
葵は苦笑しながら、美雪に話しかけると美雪もそこは否定出来ないのか、肯定する事しかできなかった。
「ど、どうしてあんな冷たい態度をとったりするんですか? 今日も佐々木(ささき)さんと言い合いになった時も、立花君が頼み込む立場だったので下手には出ていましたけど、明らかに敵意があるような感じでしたよね?」
「あぁ、やっぱり嫌な感じ出てたか?」
「出てました。私、てっきり最初は私と同じように、異性と話す時は上がってしまったり、人見知りであんなふうな無愛想な態度をとってしまうと思ってたんですが、そうじゃないですよね?
だとしたらあんな堂々と佐々木さんと言い合えないですし……」
葵はわざとあの時は挑発するようにあんな風な態度で話していたが、やはり傍から見ていても、嫌な感じが出ていたのだとここでようやく再確認できた。
美雪は当初、彼を見てからてっきり自分と同じように人見知りなんかで上手く話せないとだと、自分と同族だと思っていたが、彼と接しるにつれ、そんな考えは薄れていっていた。
「なんだ? お前、俺も人見知りだと思ってたのか??
だとしたら、お前に大和(やまと)となんかと話す時でも、俺と話す時みたいに堂々としろなんて、偉そうな事言うわけないだろ?」
「ですよね。その時にはもう気づいてましたよ……はぁ……仲間かと思ってた自分が恥ずかしいです……」
美雪はため息をつき、明らかに落胆した様子で呟くように話、そんな言葉を漏らす美雪の仕草は葵には珍しく、思わずまじまじの見つめていた。
そして、2人の間に会話が無くなった事で、葵は自分が美雪の珍しい態度に夢中になっている事に気づき、ハッとした様子で、少し焦ったようにして再び会話を再開させた。
「ま、まぁ、人見知りの気持ちも分からんでも無いけどなッ。とゆうか、なんで人見知りの話になってんだよ……」
「そうでしたね、フフフッ……」
葵が1人でツッコミを入れていると、美雪もこの会話を楽しんでいてくれているのか、楽しそうに声をあげながら笑い、美雪のその笑顔を葵は気になったが、スグに先程の二の轍を踏まないようつとめ、気にするのをやめた。
「それで…………どこまで話したっけな……?」
「どうして、立花さんが女性に対して、冷たくあたるのかって話です」
葵は話の脱線から何から話せばいいのか忘れたが、美雪はすかさず答え、美雪の答えによって葵も思い出したように話し出した。
「冷たくか……もう癖になってる部分もあるんだと思う。一時期、これは後で話すけど、女子ってものが……女子っていう集団そのものが嫌で嫌で仕方ない時期があったんだ……。
そこから女子と面を向かって話す状況になると無意識攻撃的になってしまうんだ。」
「なるほど……どうしてそんなに嫌になってしまったんですか?
あ、とゆうかその前に……、今はどうなんですか??」
葵のその行動を取ってしまった理由を聞かない限り、美雪は否定と賛同も出来ず、とにかく答えてくれた葵の意見を受け止め、更に尋ねた。
「今……か…………。どうなんだろうな、前より憎いとかは多分もう無い」
「そうですか……良かったです。…………とゆうか、無いのであればその悪癖は直してください」
深く考え、答えた葵の言葉に美雪はホッとした様子で、優しく微笑みながら答えた後、スグに葵の事を注意した。
「分かった分かった……その内な……」
美雪の指摘も虚しく、葵はてきとうに直す気の無さそうな返事で答え、美雪の話を流した。
「まったく…………。
でも、立花君から話を聞いている内に何となくですけど、話が見えてきた様な気がします」
「え……?」
葵が間抜けた声をあげたが、美雪は話を続けた。
「その、女子を嫌いになっていった、憎くなっていった理由と立花君が女装をするようになっていった話が繋がるんですね?」
「あ、あぁ……」
笑顔で話す美雪に対し、葵は少したどたどしく、返事を返した。
「それで? どうして何があったんですか? 昔に……」
「ま、まぁな……えっと色々あって…………なんか急に恥ずかしくなってきたな……」
美雪に優しく聞き出され、美雪のこの会話を楽しむようなそんな様子に、葵は今までベラベラと自分の事を話していたが、急に恥ずかしくなってきていた。
「なッ、なんでですかッ! ここまで話して急に……」
葵が話すのを辞めようかとそんな雰囲気を出すと、美雪は激しく反対した。
「分かったよッ、話すよッ、もう………」
「そうしてください」
反対する美雪に対して、葵は諦めたように呟き、軽く愚痴を零しながら諦めたようにため息をつく葵を見て、美雪は、再びニコニコと楽しそうに答えた。
「え、えっと、まずは、なんで嫌いになったのかを話すか……。
昔な、小学生の頃、中学に上がる少し前だったから6年生の頃かな、いじめがあったんだ……結構陰湿な…………」
「え……?それって……」
葵が話ずらそうに、言いづらそうにしながら話した。
美雪の質問に葵が真摯に答えると、美雪は驚いた表情で思わず声を漏らした。
「あ、あぁッ、俺じゃないぞ? そのいじめられてたのは……」
美雪の漏らした少し暗い声色と、先程まで楽しそうにニコニコしながら話を聞いてきた美雪のガラッと変わった表情を見て、葵はスグに美雪に気を使わせないよう、フォローを入れるようにしてそう答えた。
美雪が人の良い人だということは葵も知っていたため、これを聞いて美雪に余計な罪悪感を感じさせたくはなかった。
「でも……お友達だったりするんですよね……?」
「あ、ウッ……ま、まぁ…………」
恐る恐る尋ねる美雪に、全てを話すと決めた以上、嘘を伝えても意味が無いと思い、答えずらそうに葵は、美雪の意見を肯定した。
「ごッ、ゴメンなさいッ……」
「あぁ、いやッ、別にもう気にしてる事じゃないし、そんな謝らくてもいい。
それに話すって決めたのは俺だ……橋本が何かを気にする必要は無い」
葵の思っていた通り、美雪は葵にとって嫌な話をしてしまったと罪悪感を感じ、頭を下げ謝罪してきた。
葵は、焦った様子で、美雪が少しでも気にしないよう、早口で捲し立てるようにして、弁明した。
葵の言葉に反応するようにして、美雪は頭をあげた事で、葵は少し安心し、再び話し始めた。
「ホント、気にするなよ?」
葵は念を押すように美雪に言い聞かせ、続けて話し始めた。
「それで、まぁ話を戻すんだが……その友達は、今でこそ橋本なんかは信じられないかもしれないが、女の子だったんだ。
家が近所でさ……結構昔から遊んだ事のある幼馴染だった」
葵は美雪に注意しながら話を続け、美雪が先程よりも罪悪感を感じている様子はなく、真剣な表情で自分の話を聞いてくれている事を確認すると、そこからは美雪を意識すること無く話を続けた。
「小学生6年に上がっても、昔ほど一緒には居なかったけど、それでもやっぱり仲はよかった。
結構珍しいタイプだったんだと思う。
小学生って、高学年になるにつれ、異性と遊ぶなんて事無くなっていって、つるむと馬鹿にされたりもしたしな……」
「確かにそうですね……私も、男の子とはあんまり話したりとかはしなかったです……。」
葵は少し、昔を懐かしむように、優しく微笑みながら話、美雪も葵と同じような環境の幼少時代だったのか、同意していた。
「家に帰る時とか、クラスは違ったから学校ですれ違う時とかは結構話しかけてたかな……。
流石に、中学に上がる時には昔ほど会話とかは減ってきていたけど。
そいつも結構明るい性格でさ、偶に下校で会って話しかけても笑顔でさ、悩みなんか一つもないっていう感じだったんだ…………でもッ……」
葵は口ではあれほど気にしていないと言っていたが、話し出すとやはり、葵にとってそれほど嫌な思い出なのか、一気表情が暗くなっていった。
そして、葵は重い口を開いた。
「中学の夏休み明けたらさ、ソイツ、なんにも言わずに急に転校しちゃったんだ……」
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