俺より可愛い奴なんていません。2-9


◇ ◇ ◇ ◇


「え、えぇ〜と何かな? 立花(たちばな)さん……」


橋本 美雪(はしもと みゆき)は、放課後、修学旅行の実行委員の集まりがあるという事で、いつもの集会が行われる教室へと向かう所を、葵(あおい)に呼び止められた。


葵はそこで美雪に一緒に実行委員の集まりに行くぞと一方的に美雪を誘った。


他のクラスよりも数分程早く解散となったため、他の実行委員達はまだ揃っておらず、教室についても葵と美雪の2人しかまだ到着していなかった。


美雪は、葵の向かいの席に座り、テーブル越しに、誘ったからには自分になにか用があるのかと思い、葵に恐る恐る訪ねた。


「あぁ、えっと……ミスコンの話なんだがな、俺はクラスでは俺に勝った優秀者って事で啖呵をきったんだけど、やっぱり優秀者なんかじゃなく、きちんと順位を付けようと思うんだ」


葵は最初、少し吃るような話ずらそうにしていたが、話してしまえばスラスラと言葉は出てきて、きちんと美雪に考えを伝える事が出来た。


「あぁ〜、やっぱりそうなりますよね……」


美雪は分かっていたかのように、しょうがないなと言った様子で答え、葵はその様子に少し驚いたが、スグに真剣な表情に戻り、付け加えるようにして話を続けた。


「もちろんビリとかそんな全ての順位を付けるわけでは無く、上位3名を決める程度だ。それでここからが本題なんだが……、橋本はそれでも出てくれたりするのか?」


美雪は、順位を決めるとなっても葵に出ることを強要されるだろうと思っていたため、葵のこと言葉は意外だった。


葵の表情を見るため、視線を移すと、そこには不安そうな表情で尋ねる彼の姿があった。


「え……?」


美雪はまさか自分を気遣うなどと思ってもいなかったため、驚きのあまり小さく声を漏らした。


「だ……ダメか?」


「え、あ、いやッ……別にそれでも出ても大丈夫ですよ? 立花さんに出てくれと先に頼んだのは私ですし…………」


不安そうに尋ねる葵に、中々答えないことに罪悪感を感じ、美雪は短く言葉を発しつつ、スグに考えをまとめ、素直に答えた。


「そうか……」


葵はそういってホッとしたように息をついた後、呟いた。


そんな葵を見て、美雪は一つの疑問が浮かんだ。


元々、葵に自分も出るなら貴様も出ろと言われた時から感じてはいたが、美雪はそれを尋ねたくて仕方なくなっていた。


「立花さん。どうして、そんなに私をミスコンに出したいんですか?

私が出たとしても、立花には勝てないと思いますし、立花さんに勝てるとしたら、ホントに極わずかな女子だと思いますけど…………」


美雪の質問に葵は、間髪入れずにスグに答えた。


「なんでそんなにネガティブなんだ? お前は自分が思っているよりも綺麗だと思うぞ?」


葵の素直な感想に美雪は驚いた。


葵にとって、可愛いや綺麗などそういった言葉を言うことには、女装をしている事もあり、まるで抵抗が無く、自分が認めたものに対しては簡単にそういった言葉を伝える事が出来た。


それは、普通の一般男子生徒なら小っ恥ずかしいかったり、素直になれなかったりして、簡単には口に出せない言葉だったりしたが、葵にとっては普通な事だった。


「あ、ありがとうございます………」


美雪は、同年代の男子には、ほとんど初めて言われた事に恥ずかしそうに、照れた様子で小さく呟くようにしてお礼を伝えた。


「それと、思ったんだが、敬語! もうそれやめないか? 俺だけ普通に話しかけるのもおかしいだろ」


葵はせっかくなので、言いたいことを全て伝えようと思い、美雪に言いたかった事を続けて言う事にした。


「え……? あ、そうですね…………あッ……えと、分かった」


美雪は急に変えたためまだ慣れていない様子で、敬語を使っては、途中で間違いに気づき、訂正していた。


「後、結局聞きそびれたが、学校ではなんでそんな地味な恰好をしてるんだ? 初めて会った、俺が女装していた時にあったお前とはまるで違うじゃないか」


葵は美雪に1番尋ねたいことを改めて本人に聞いた。


これは、葵が1番初めに、東堂に襲われた時に出会って、再び学校で再開した時からずっと気になっていた事だった。


「えっと……特に理由は無いんだけど、強いて言うなら目立つのが苦手なんだよね……別に自分が可愛いとか思ったりはしないよ?

だけど、自分の性格上ね、あまり荒波が立たないようにさ……その方が無難だから…………」


美雪は少し答えずらそうにしていたが、きちんと葵の質問に素直に答えた。


美雪が人見知りであり、人前に出るのが苦手だとは葵も知ってはいたが、何故か、それを激しく勿体ないとそう感じていた。


「オシャレとかには興味は無いのか?」


葵は、夜に出会った時の美雪の服装や装いを知っており、その装いからオシャレに興味が無いはずがないと分かっていたが、それでも不安になり、美雪に思わず尋ねた。


「い、いや。オシャレとかには興味は全然あるよ? 一応、人並みには女の子だしね」


美雪は自分に自信がなさそうに苦笑いしながら、自分の価値をおとすような話し方で答えた。


美雪の答えを聞いた葵は、難しい表情のまま、少し俯くようにして考え込むように黙り込んだ。


「え、えっとぉ〜……立花君?」


返事を待っていた美雪だったが、葵が急に黙り込み、中々会話の返事が返ってこないのを不思議感じながら、不安そうに葵に尋ねた。


葵は、美雪に呼びかけられたが、少しの間、特に反応することなく、数分の沈黙が流れ、やっと葵が何か結論を出したのかのように、顔をあげ、美雪に再び視線を戻した。


「なるほどな……今回、俺がミスコンでやるべき事が分かった」


「え……?」


美雪をしっかりと両目で捉え、真剣な表情で呟く葵に美雪は、葵の言葉がよく聞き取れなかった様子で、不思議そうに葵を見つめ、声を漏らした。


「自信を付けさせてやる……あんたは自分が思ってるほど地味な人間じゃないって事、嫌っていうほど分からせてやる…………」


葵は決意に満ちた表情で、それでいてこれからの事を楽しみにした様子で、美雪に宣言した。


(大体俺がミスコンをやって、舞台に上げさせたいのはコイツなんだ……それが、こんな弱々しくては困る)


「あ、アハハハ…………お手柔らかに……」


美雪は、葵の熱意とは裏腹に、苦笑いを浮かべ、少し困ったようなそんな様子で答えた。


「と、ところでなんですけど、せっかくなんで私も一つ、立花君にお聞きしてもいい?」


美雪はこの話題は自分にとっては、あまり長く続けたくない話題だったため、少し強引だったが、話題を変えるように葵に話しかけた。


「ん? 別に変な事じゃなければ構わないが?」


葵は美雪の逃げの話題変えを特に不自然には思わず、素直に美雪の提案を受け入れた。


「えっとさ……、まぁ、私も直球で聞かれたからいっかッ……どうして、立花君はあんなに女子達から嫌われてるの?」


「んなッ!? はぁッ?」


美雪は、最初言葉を選ぼうとしていたのか、少し悩んだ様子で言いよどんでいたが、途中から自分も先程、葵からストレートに質問された事から踏ん切りがつき、美雪も直球で葵に尋ねた。


葵はまさかそんな事を今更聞かれるとも思ってなかったため、驚いた様子で、思わず声も漏れた。


「な、なんだ? 急に……とゆうか、そんな話今更聞かなくてもッ……」


「いいえ、私が聞いた事があるのはあくまで噂です。本人から聞いたわけではないです」


葵が戸惑ったように、弁明すると美雪はそれを遮り、キッパリと言い放った。


葵はキッパリと答える美雪に一瞬、驚き、凛々しい彼女に見とれたがスグに我に返り、ため息を一つつくと観念したように話し始めた。


「こういう時だけはやたら凛々しいんだよな…………で? どこまで知ってるんだ?」


葵は小さく、美雪にも聞こえないほど小さな声で呟いた後、まずは美雪がどの程度の噂を聞いた事があるのか尋ねた。


「えっとぉ……やたらと立花君が女子に対して態度が悪くて、口調も悪いみたいな事ですね。

多くの女子生徒が、こんな憎たらしい態度を取られた〜みたいな噂話をしているのを聞いたぐらいです」


「なるほどな……まぁ、別に隠す事でも無いしな、お前の言った今の言葉、その噂通りだ…………別に他に理由なんかはッ……」


葵は美雪の答えた答えに同意していたが、途中で言葉を遮り、難しい表情をし考え込むようにし、話すをやめた。


(いや、違うな……。ミスコンも参加して貰う事になってるし、何より東堂(とうどう)との1件でも、迷惑かけてるしな…………話すべきか……)


葵が最初に答えた言葉は自分も思っている、感じている事だったため、嘘は言っていないし、事実として何も間違っては無かったが、何故かこのまま、全てを話さず、少しでも自分の本音を隠す事に罪悪感を感じた。


そして、葵は誰にも話したことの無い話を美雪にする事を決意し、ゆっくりと話し始めた。


「このお前が俺に聞いた質問した答えとしては、直接関係があるわけでは無いんだが、俺がどうしてこんな行動を取ってるか、どうして女装なんかをしているのか、それの答えでもいいか?」


葵の真剣な表情から、美雪は妙な緊張感を感じ、真剣な表情のまま、首を縦に振り、葵の話を聞くことに決めた。

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