俺より可愛い奴なんていません。2-8


◇ ◇ ◇ ◇


立花 葵(たちばな あおい)のミスコンの決行願いから時間は経ち、昼休みへと時間は進んでいた。


葵の大胆な行動により、葵のクラスから他のクラスにもその話は流れ、かなりの噂になっていた。


今は、葵の学年である2学年だけでの、盛り上がりとなっているが、山口が葵からの進言を一旦預かったため、その話を職員室で教員達に伝える事で、後日にはもっと大きな、全学年を巻き込む騒ぎとなる事は確実だった。


昼休みに時間が進むと、葵に伝えたい事が募っていたのか、葵の席に男子生徒が一気に群がった。


「立花ッ!! 俺たちバレー部を巻き込む必要無かっただろッ」


「アハハハッ……元々お前達が起こした問題だろッ? ヤレ!ヤレ!

それを見る俺達にとっては面白いしな。ミスコンも見れるし、よくやったぞ〜!立花ッ」


葵の行動は、様々な立場からの賛否両論が多く上がり、やや若干葵の事を支持する声が多かった。


「あ、葵……。ぼ、僕、優秀者?とデートみたいな、とゆうかあれってほぼ合コンだよね??

あれ提案しなきゃ駄目だったの?」


葵の行動について熱く盛り上がる中、集団からひょっこりと現れた北川 敦(きたがわ あつし)は葵に、尋ねた。


「あぁ、北川……。悪いな? 提案しなきゃ駄目だった。」


「はぁ〜…………まぁ、僕は良いかもしれないけど、他の3人がッ……」


「大丈夫だ。他の3人の了承も取った。」


北川がため息混じりに、葵にそう言いかけると葵は、自分のケータイの画面を北川に見せながら、北川の言葉を遮るようにして答えた。


葵のケータイの画面には、北川の言った他の3人、里中 涼太(さとなか りょうた)、河野 弘樹(こうの ひろき)、馬場 雅也(ばば まさや)とのメッセージのやり取りをしている画面だった。


「流石に抜かりないわけね……」


北川はその画面に映る他の3人の了承しているメッセージを見て、3人に呆れたように、苦笑いで葵に答えた。


「でも、どうするの? ミスコンやるっていっても大変だよ? 1人で企画立てて実行するの?」


北川の質問に葵は、難しい表情を浮かべた。


北川の言うとおり、1人でこのままミスコンを開催するのは、正直無理があった。


他の桜祭(おうさい)の出し物は実行委員というものを集め、その実行委員を指導に、様々な生徒の手を借りて、出し物を作るという流れが主流で、クラスの出し物にしても多くの手が加わっている。


「勢いで言った所はあるんだよな……正直……」


「なにぃッ!? あんな啖呵をきったのに何も考えて無いのか??」


「オイオイ、立花ッ。俺達、バレー部も出る事になってるだぞ? 桜祭ミスコンとかデカデカと企画うっといて、中身しょぼかったりしたら超寒いぞ!」


葵の呟いた一言で、周りの男子達はザワザワとざわめき、多くの生徒が慌てた様子で、次々に不安の言葉を漏らした。


「ま、まぁ待て……大丈夫だッ。まだ桜祭まで2ヶ月くらいある。それまでに多くの人間を仲間に引き入れ、人手を多くする。ここに集まる楽しみしてるお前らと女装する変態共は、もちろん手伝えよ?」


葵の発した言葉に、周りは一気に静まり返り、文句は上がらなくなり、1部の男子生徒はその場から立ち去ろうとした。


「立ち去った奴はミスコンを見せないし、ミスコンで新たに輝いた女子生徒の情報はやらないぞ〜……もちろん、お前らと関わりの無さそうな後輩女子、先輩女子も引き入れる…………」


「ホントかッ!?」


続けて放った葵の言葉に、周りの男子生徒達は一気に再び葵に距離を詰め、身を乗り出す勢いで葵に迫った。


「わ、分かったッ! 分かったからッ!! 全く……お前らは単純だな……」


1番近くまで迫る男子生徒を後ろに押しながら、葵は男子生徒に群がれるのを嫌そうに答えた。


「さて、まずは場所だな……無難なのはやっぱり体育館だよな……」


葵は自分から少し離れ、距離を取った男子生徒達に安心し、周りに聞こえるようにわざと呟くようにして考えた。


今回の件は、葵1人ではどう頑張ってもまとまる気がしなかったため、1人でも多くの人の意見を聞きたかった。


「体育館を取るのって大変だろ? あれってクラスの出し物が優先されるし、部活の連中も使うからな、軽音やら演劇やら…………」


「だよな〜、それにミスコンってかなり時間とるんじゃないのか? 長い時間、体育館を使うのはできないと思うぞ?」


葵の目論見通り、多くの男子生徒は葵に意見を出してくれた。


何だかんだいっても協力してくれる彼らに葵は心の中で感謝した、葵の性格上、死んでも口には出さなかったが。


「だよな……だとすると外か……校庭は意外と使われないからな。校門から校舎からの通りは、屋台とかが使うけど……」


「でも、校庭って人来るのか? 桜祭の校庭程、人いないとこ無いぞ?」


葵が再び呟くようにして言葉を発すると、再び意見が返ってきた。


その返ってきた意見を最後にみんなは、難しい顔し考え込むようにして、黙ってしまった。


なんの意見も出ない、静かな時間が数分流れると、その沈黙を破るようにして、葵の後ろの席に座る神崎 大和(かんざき やまと)が声をあげた。


「葵。中庭はどうだ? いろんな教室からも覗き見出来るし、なんなら渡り廊下からも見えるぞ? 1番目立つかもしれない」


大和が声を上げると、大和の意見に関心したのかいくつかの生徒は「オォーッ」と驚きの声をあげていた。


(大和……コイツ、いつもはアホな癖に妙な時、適切な案を出すよな〜……)


葵は、周りから少し持ち上げられた感じになった大和に、馬鹿にしつつも感心しながら大和を見つめた。


葵に馬鹿にされているとは知らずに大和とは、周りから持ち上げられた事を良いことに、ニヤニヤと照れたようなニヤケ面をしていた。


「なら、場所は中庭だな。多分取れるだろ。次は参加者か……こればっかりは噂頼みだよな……」


葵はひとまず良さそうな場所が決まってほっとしたが、スグに違う問題をあげ、再び難しい表情に戻った。


ミスコンの参加者に関しては、今回の葵が起こした教室での事件の噂の広まり方と広まり具合にかかっている節があった。


葵は女子から嫌われていたり、恐れられていたりするため、もちろん自ら参加者を募るような事は出来ず、今集まる周りの生徒を見渡しても、実際、自ら参加してくれと頼んで成功すると思える男子は2、3人ぐらいしか見当たらなかった。


「部活やってる奴で、マネージャーとか後輩とか、後、部活引退しちゃった先輩とかで出てくれそうな奴いるか?」


葵はダメ元とはいえ、一応、周りの男子に呼びかけた。


すると、何故か1番初めに、女バレもなく、女子マネージャーもいない男子バレー部達が声をあげた。


「えぇ〜と……俺たちは……女子がいなッ……」


「あぁ〜、時間ないんだ……お前ら、男バレは女装だけ考えてろ」


「なッ……くッ……くそぉ〜……」


声をあげた男子バレー部に葵は容赦なく、バッサリと彼らの話も聞かず切り捨て、男子バレー部達は葵に反論しようと声をあげたが、続ける言葉は無く、悔しそうに、男バレで集まって、傷を舐め合うようにして声をあげていた。


そして、男子バレー部以降、男子達の声が上がる事は無く、痺れをきかせた葵が、次々に質問していった。


「バスケ、サッカーは? お前ら毎日、毎日、チャラい、遊んでるアピールしてんだろ? 何人でもいいぞ、多い分には困らないから」


「い、いや俺は別にしてないぜ? 一途な奴らバッカだしぃ??」


葵から質問された事で、バスケ部、サッカー部は明らかに動揺した様子で、誤魔化すように1人が答え、答えた後も少し不安そうに自分達の仲間であるバスケ部、サッカー部男子に目配せしていた。


バスケ部、サッカー部がそう答えると何故か空気が一気に重くなった。


「はぁ?」


バスケ部、サッカー部の意見が気に食わなかったのか1人の生徒が声をあげた。


「な、何かな? 溝渕(みぞぶち)君……」


先程、答えたバスケ部の生徒が、恐る恐るその生徒に話しかけた。


「いや、お前らいつも彼女いるいないの話してるだろ?

俺のカノピがさ〜とか、俺のカノピがよ〜とか、わざわざ教室で、しかも大きい声でよぉ〜」


溝渕は明らかにバスケ部、サッカー部達に敵意が篭っている様子で彼らに言葉を投げかけた。


溝渕の一言で、一気にバスケ部、サッカー部はこの集団から迫害され、周りの男子生徒達(葵を除いた)に睨みつけられていた。


「それりゃ〜……俺達も思ってたぜ?

卓球部の溝渕さんよ〜……俺らバレー部もコイツらの教室のリア充っぷりは鼻についてたんだよ」


「いや、お前誰だよ……何キャラだよ……」


溝渕の言葉にここぞとばかりに、反応した大和は、おかしなテンションで溝渕の味方をしており、葵はそんな大和に呆れた様子で指摘した。


「大体よぉ〜……お前らバスケ部は、俺らの事を日陰部とか読んでんだろ??

体育館の端で、暗い所で練習する俺らをよぉ〜……あんな広く、練習場所取りやがって……」


「い、いや、それは、バレー部もッ……」


「同じじゃねぇよッ!! 女いねぇよッ!!!」


葵を中心とした話し合いだったはずが、何故だか体育館を練習場所に使う部活とサッカー部を含んだ、男子達は違う話しでヒートアップしており、葵はそんな彼らに呆れ、あの場で1番ヒートアップしているのが自分の親友である彼女のいない大和だという事を考えたくもなく、未だに自分の所に残る男子生徒達だけで話を進めることにした。


「あぁ〜……まぁアイツらはさておき、明日の反応を待ってみてから対応を考えるか……」


葵のその意見に男子生徒は、ほとんどの生徒が首を縦に振ったり、賛同の声をあげていた。


その中で1人、不安そうな表情のまま、1人の男子生徒が葵に話しかけてきた。


「な、なぁ葵……葵はさっきの佐々木(ささき)さんとのやり取りで優勝者は決めない、順位は付けないって言ってたけどそれってイベント、ミスコンとしてどうなのかな?

やっぱりミスコンって言うからには、誰か一人、1番みたいな人を決めないといけないんじゃない?」


不安そうに話しかけてきたのは、北川だった。


北川の意見は確かにそうで、ミスコンとうたっている以上、やはり優劣は決めなければ盛り上がりに欠けると葵もそう感じた。


「だよな……俺もあれを言ったあと、失敗したなと思った」


葵は素直に自分の非を認め、ミスコンとしては優秀者を決めるだけではいけないとそう感じた。


(そもそも、俺に勝った奴にだけ優秀賞って、ほとんど無理だしな……)


「分かった…………参加すると決まったヤツだけでも、1人ずつ了承を貰うしかないな。」


葵はそう言って決意を固めた。

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