俺より可愛い奴なんていません。2-7
立花 葵(たちばな あおい)のミスコンに自分も出場するという発言を最後に、葵のクラスは静まり返っていた。
葵の発言に、誰もが思考が追いつかず、驚いた表情で皆、固まっていた。
数十秒の沈黙が流れ、その沈黙は佐々木 美穂(ささき みほ)の爆笑によって終わった。
「ア〜ッハッハッ〜ッ!! バッカじゃないの立花ッ」
佐々木はお腹を抑えながら、葵に指を指し、馬鹿にするようにして大声で笑った。
佐々木に釣られるようにして、何人かの女子は葵を馬鹿にし、笑い声をあげ、男子も数人、女子とは違い悪意は無いが、やはり、普段葵が絶対言わなそうな言葉を発した事で面白がり笑っていた。
「え? なにッ?? 立花、頭でも打ったッ?? 今のギャグ、超ウケるわ」
佐々木はもちろん、周りから見せ物のように扱われながらも、葵は特に反応するような事はなかった。
そんな、葵の堂々とした立ち振る舞いを美雪は以前も見た気がした。
「ギャグでもなんでも構わない。でも、これでお前にも参加する理由が出来たんじゃないか?」
「んん〜? なんで?」
佐々木は依然としてニヤケ面で葵に訪ねた。
「景品は簡単に取れ、北川達との食事に付け加え、綺麗になった自分を写真に撮ってsnsで映えさせるのもアリだしな。
それに俺を嫌いな奴はここで大いにミスコンで恥をかいた俺を馬鹿にできる……。
なんなら、無様な俺の女装をsnsに上げて映させるのも別に構わない。
自分も出てミスコン出て俺に勝てば尚更馬鹿にできるだろうよ……」
「ふ〜ん……なるほどね…………確かに楽しそうかもね」
葵の提案した自分をまるで陥れるような話に、葵の事を嫌いな女子生徒達はクスクスと笑い、佐々木もまた、少しずつ乗り気になってきている節があった。
彼女達からすれば、いくら葵がめかしこもうと、自分たちもプロにやって貰えるため、万が一にも負ける要素が見当たらず、ミスコン当日に葵が負け、赤っ恥をかいている姿は容易に想像出来た。
「分かった。私は別にやってもいいよ。楽しそうだしね」
佐々木は少しの間考え込むように黙った結果、葵に参加をする事を伝え、話したい事が全部話せたのか、佐々木からそのから話を振られることはなくなった。
「他に、何か疑問や質問がある人?」
葵がそういって、クラス中を見渡すと、特に何がリアクションを起こす生徒はいなかった。
葵はそれを確認すると、再び山口の方へと向き直り話し始めた。
「山口先生、今みたく佐々木が答えを変えたように、あの条件ならやってくれる生徒は、いると思います」
「ん〜…………分かった……とりあえず、やってみろ」
山口は葵の説得を聞き、唸りながら考え込み、葵のやる気とあのイベント事には対して興味を持たなそうな佐々木を言いくるめた事で、渋々引き受けた。
「すいません。ありがとうございます。あッ、先に伝えて置くと、俺だけ女装するのもおかしな話だからな、バレー部の奴らにも全員舞台に女装で立ってもらうぞ?」
葵は山口に頭を下げ、礼を伝えた後、思い出したように再びクラスに呼びかけるようにして、生徒全員に聞こえるほどのちょうどいい大きさの声で、今回の事件を引き受けたバレー部に言い放った。
何人かのバレー部生徒は、葵に講義しようとしたが、自分たちの置かれている立ち位置を理解したのか、ガタガタと椅子の音をたてただけで、葵に何かを言う生徒はこれ以上現れなかった。
「さて、ミスコンの話も一応、決着した事だしな、授業を再開するぞ〜。おっ? 残り30分か……丁度いいな……」
他に何も伝えることが無いのか、席についた葵を山口は確認し、クラス中に呼びかけるようにして授業の再開を促し、時計を見てニヤニヤとニヤつきながらボソッと何かを呟いているのが、美雪からは見えた。
「す、凄かったね〜……一時はどうなるかと思ったよ〜」
ミスコンの話が終わると、美雪の隣に座る綾が美雪にヒヤヒヤしたと言った様子で話かけてきた。
「そうでしたね……佐々木さんと立花さんで喧嘩になるかと……」
大事にならなかった事で2人少し、ホッとした様子で事件を振り返る事ができた。
「それにしても、最近の立花って少し変というか、変わったよね〜……、紗枝もあたしもさ、立花とは1年の頃から同じクラスだったんだけどさ、1年と時のアイツってもっとこうギラついてた感じがしたんだよね〜」
「そうなんですか……? ちょっと意外かもしれないです」
「えぇ〜、そう思えるのはきっと立花と橋本さんは仲が良い?からだよ〜…………多分……」
あまり葵の1年のイメージが上手く想像出来ず、しっくり来ていない美雪に、綾は驚き、仲が良さそうに見える2人を疑問形で指摘した。
「私なんて、1年の頃にまともに立花と話した事ないもん。 ねぇねぇ、紗枝もそうだよね?」
綾はそういって、前の席に座る二宮 紗枝(にのみや さえ)にも話を振った。
「え? 何?」
綾の呼びかけに紗枝は、こちらに振り向き、話を最初から聞いていなかったため、なんの事を聞かれているのか分からないといったような様子で、声をあげた。
「紗枝も立花と1年の頃、あんまり話した事無いよね?」
「え? う〜ん……私は別にそんな事無いよ? クラス委員もやってたからなのかもしれないけど、たまに話した事あるよ?」
「えぇ〜ッ!? 怖くなかった? 酷い扱いされなかった?」
飄々とした様子で告白する紗枝に対し、綾は知らなかったのか、驚き、声をあげ、紗枝の事を心配するように紗枝に続けて訪ねた。
「綾……前にも言ったと思うけど、立花君そんなに悪い人じゃないよ? ねぇ、橋本さん」
「私もそこまで怖いとか嫌なイメージはあんまり無かったですね」
紗枝と美雪、2人に嘘をついているような様子は感じられず、綾はますます疑問に思った。
「えぇ〜、二人ともおかしいよ〜……私なんてこないだ名前も覚えられて無かったんだよッ?」
「あぁ〜……そんなこともあったね……でも、あれは綾が悪いッ」
「なんでッ!?」
必死に同意を求めようとする綾に紗枝は友達にする優しいイタズラをするかのように、微笑みながら、綾の意見を完全に否定し、綾は理解出来ないといったように声をあげた。
長年に渡って仲の良い2人の定番の乗りなのか、美雪からはそのやり取りだけだ2人がとても仲良く見えた。
そして、そんな2人が羨ましくも思えた。
こうして、中途半端に開始された授業に美雪達は雑談を要所要所で楽しみながら、時間は過ぎていった。
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