俺より可愛い奴なんていません。1-3


立花 葵(たちばな あおい)と別れ次の日になり、橋本 美雪(はしもと みゆき)はいつもと同じように学校へ向かって歩いていた。


美雪にとって昨日の出来事は怖い目にあったが、思い出したくないような悪い思い出にはなっていなかった。


それは葵を襲おうとしていた東堂(とうどう)等とのやり取りよりも、葵とのやり取りが彼女にとって何故かとても印象に残ったからだった。


時間にしてみてもそれほど長い間話したわけでも、一緒にいたわけでもなかったが、それでも彼女にとっては貴重な時間で出来事だった。

学校への通学路ももう終わりの方で、美雪と同じ高校に通うであろう同じ制服を着た生徒が同じ方向へと歩いていた。


美雪の通う高校は桜木(さくらぎ)高等学校という名前で、偏差値的にはそこまで高いわけではなかったが、スポーツが強く、様々な部活が大会で大いに活躍している高校だった。


(いやぁ〜、我ながら昨日は興奮してたとはいえ普段の自分からは考えられないほど頑張りました……)


美雪は改めて昨日の事を思い出すと、葵を3人の男達から助けた事と言い、急に男性に名前を聞き出した事と言い、普段のおとなしい自分からは想像も出来ない程の行動をしたなと自分に感心していた。


(それにしても綺麗でしたね、葵さん。背も私より少し高いくらいで年上だった? もう一度会ってみたい、次会った時は写真お願いしてみましょうか……、亜紀(あき)や晴海(はるみ)にも見せてみたいし)


美雪は次もし彼と仮に会えた時の事を想像し、次はもっと仲良くなれたりもっと会話をしてみたいとそんな思いばかりが思い浮かんだ。


美雪がそんな想像をしていると後ろから聞き馴染んだ女性の声が自分に投げかけられた。


「みゆき〜!!」

「みゆっち〜!」


2人のそれぞれ違った声と違う言葉に美雪は反応し、声のする方へと振り返った。


美雪が振り返るとそこには、2人の女性が美雪に向かって駆け足で向かってくるのが見えた。


2人は美雪と同じ桜木高校の制服を着、誰が見ても同じ高校に通う女子高生にしか見えなかった。


「あ、亜紀! ハル!」


美雪は仲良しの2人の姿が見えたことで気分が上がり、自然と笑顔が零れた。


亜紀の普通の挨拶と晴海のホンワカした語尾を伸ばした挨拶に美雪も答え、美雪の所まで2人が到着すると、3人で仲良く歩幅を合わせ、桜木高校へと再び歩き出した。


「2人とも駅で会ったの?」


美雪は2人と話す時の砕けた話し方に変わり、亜紀と晴海に訪ねた。


「そだよ〜、朝snsで話してたらまだ駅にいるっていうから、あっちゃんには待ってて貰ったんだ〜」


晴海はそう言ってのほほんとした声と口調で美雪に答えた。


晴海は親しみを込め美雪のことはみゆっちと、亜紀の事はあっちゃんと命名し、亜紀は最初は嫌がっていたがそのうち折れ、それぞれをあだ名で呼んでいた。


そして、美雪もそんな彼女に親しみを込めてハルと呼んでいた。

晴海とは去年同じクラスになり知り合い、彼女の人懐っこい性格もあり、人見知りの美雪にもグイグイと仲良くなっていき、スグに友達になるほどの人懐っこさだった。


美雪はそんな彼女には心から感謝しており、美雪からしたら凄いと思えるその社交性を心の底から尊敬していた。


美雪の大切な友達の1人だった。


「そっか。グループトーク見てなかったから気づかなかった。私も駅で待ってればよかった。」


美雪はそう言ってケータイでsnsのアプリを開きグループトークを確認すると3人で作ったグループトークに確かにそんなやり取りがされていた。


駅で自分も待てていれば朝の登校の時間彼女たちと楽しく過ごせたと思うと美雪は残念に思えてきていた。


「あ、そういえば美雪、新しいクラスにはなれた?こないだ相談受けたけどさ」


亜紀は思い出したように美雪に訪ねた。


亜紀はハッキリとした性格で、下手したらそこらの男よりも男らしいく、女性から見てもカッコイイと思えるほど堂々としていた。


亜紀との付き合いは長く、小学生のころからずっと仲良しだった。昔からなんでも話せる間がらで、今は晴海も入れて3人でいる事が多かった。


そのこともあってか、美雪はクラスの変わるこの季節になると必ずと言っていいほど問題になる自分の悩みを2人に相談していた。


「え、えっと……、ボチボチかな……」


「おぉ〜! 流石みゆっち〜。アドバイスを早速実行したんだね!」


亜紀の質問に美雪は歯切れ悪く答えたが、晴海は素直に感心し、美雪を称賛した。


「いや、晴海。美雪のこの言い方は、上手くいってない言い方だよ」


「えぇ〜?」


美雪の答えに流されそうになる晴海に美雪と付き合いの長い亜紀は的確に指摘し、晴海は腑抜けた声を漏らした。


「もうクラスが変わって3週目だよ? もうそろそろ作らないとクラスでも浮き始めるんじゃない?」


亜紀は美雪の事を気遣うような様子はあまり無く、ヅカヅカと痛いところを指摘していった。


「ま、まだ大丈夫」


「う、うん! そうそう、大丈夫、大丈夫!」


美雪の明らかに苦しそうな言葉に、晴海も内心は少しヤバい雰囲気を感じつつも無理矢理に美雪の言葉に乗っかり、励ますように美雪に答えた。


「大丈夫じゃないって……」


傍から見ても苦しい2人に亜紀は思わずポロリの本音を呟いた。


「あ! そ、そういえばさ! みゆっちの方でも修学旅行の実行委員って決めたりしちゃった?」


晴海はそんな美雪が見てられず、いつものほほんとしている晴美だったが気を利かせ、話題を変えて話し始めた。


「えぇ〜と、まだかな……」


「え!? ホント? ならさぁ一緒にやろ〜よ! 今回の実行委員ってさ1クラス男女1人ずつじゃなくなっててさ、ウチのクラス、あっちゃんとウチなんだ〜」


「あぁ、そういえばそうだったね……はぁ〜……、認めたくなくて忘れてたわ……憂鬱」


嬉しそうに話す晴海に対し、亜紀は勘弁してよといった様子でため息をつき、明らかに気落ちしていた。


「なんで今回は男女じゃなかったんだろ〜」


「なんか、去年誰もやりたがらなくって結構揉めたらしいよ。それで今回は生徒からの立候補を狙ってそういうのを突破らったらしい、友達で立候補させる方が揉めないだろうって…。」


「へぇ〜。みゆっちもやろ〜よ! 3人でやったら絶対楽しいよ〜。」

晴海は3人でやる実行委員の未来を想像しているのか、楽しそうにしながら目を輝かせながら美雪を再度誘った。


「大変そうじゃない?」


美雪は確かに3人で放課後残って何かやったりするのは魅力的だなと感じたが、それ以上に仕事が多そうで大変そうなイメージの方が強かった。


「そんな事ないよ!」

「大変」


美雪が尋ねると2人はそれぞれ違った意見、態度でスグに返答した。


「まぁ〜たあっちゃんはそんな事言う〜……。誘ってるんだからそゆこと言わない!」


「ホントの事。私やりたくなかったし……。とゆうか、あの決まり方は納得いかないんだけど」


必死に美雪を誘っている中で晴海の不利になる事ばかり呟く亜紀に晴海は注意し、亜紀はまだまだ不満があるのかどんどん愚痴を零していった。


「なにかあったの?」


「あったわよ。晴海が立候補したから、あと一人立候補者を募るだけだと思ってたらいきなり、晴海が私を名指しで推薦してきて、後は流れるように決まって行った」


美雪が尋ねると、亜紀はスラスラと当時の事を話していき、話すにつれどんどん気落ちしていっていた。


「だって、ウチが立候補して後1人決まらずに揉めたらなんかキツいじゃん〜……」


「いや、アンタのコミュ力ならスグに相方も決まったわよ。なんならアンタモテるんだから男子だって立候補したかもしれない」


「えぇ〜……ならあっちゃんで尚更良かったじゃん!あんま良く知らない子とかになられても気まづいし、ウチのクラスの男子あんま好きじゃないし」


「それ、自分のクラスでは言わない事だね。男子が聞いたら泣く」


晴海の裏表の無い素直な言葉に素直だからこその手厳しさを感じながら、自分のクラスで割とモテる晴海がそんな言葉を零した時の状況を想像し、苦笑いしながら晴海に忠告した。


「そんな事より! みゆっちもやろ!! 絶対楽しいから!」


晴海は自分のクラスの男子の話題をそんな事呼ばわりし片付け、美雪と亜紀と3人で委員をやる事以外頭にない様子だった。


晴海にとって他の生徒の事などどうでもいいと思えるほど3人でやれる委員にそれほど魅力を感じていた。


美雪は晴海のここまでのアプローチを鬱陶しいとも感じず、むしろ自分をここまで誘ってくれることを嬉しく思い、美雪の心は委員をやる方向へと傾いていた。


「うん。やってみようかな……」


「やた! これで3人揃うね!!」


「まぁね」


美雪の返答に晴海と亜紀はそれぞれ違った温度差で喜んだ。


「それにさ! 実行委員って各クラス2人でしょ? 一緒になった子と友達になるチャンスじゃない!?」


晴海は美雪に希望を持たせるように更に美雪の気持ちをその気にさせるように話した。


「まぁ、美雪が立候補してその後、誰も立候補しなかったら絶望的だけどね……」


せっかく晴海がポジティブな考えを提案した所で亜紀がポロリと現実的な、起こりうるようなネガティブな事を呟きいた。


そして、希望を持て、表情も少し明るくなってきた美雪はそんな一言を聞いた瞬間、どんどんと表情が暗くなり、こころなしか美雪の周りの空気も重くなっていった。


「あぁ〜!! またそうやってあっちゃんは言わなくていい事言う〜!」


「あっ! ごめん! つい、最悪の状況を想像しちゃって……。ない! ないから!!」


晴海に指摘され、亜紀も別に悪気は無く、ついつい口をついて出た言葉に後悔しながら美雪に謝罪した。


「そうだよ! もしかしたら男子が立候補しちゃうかもよッ!?」


「それは……、どうだろうか……」


晴海は続けるようにフォローを入れたが、亜紀はそのフォローは無いだろうと感想を零した。


美雪は確かに美人ではあったがそれは休日の時の事で、何故か学校がある日は意図して地味目に徹していた。


美雪がオシャレに興味が無いという事でも無く、一般の女性並には興味があり、例えば休日の日は、外に出る日はコンタクトにしていたが、学校では授業中はメガネをかけ、髪も寝癖を治し、整える程度で目立ったセットはしたがらなかった。


亜紀や晴海はそんな美雪を指摘したが、どうも彼女の引っ込み思案が邪魔をし、学校ではそういった事をしたがらなかった。


「そうだね、無いよハル」


亜紀の言葉に美雪も冷静に考え、低い声で冷めたように答えた。


「そんな事無いってぇ〜!」


晴海はお世辞なんかでは無かったが、美雪は冗談半分で受け取っていた。


モテる晴海から言われた事を嬉しく感じながらも、美雪はそうは思わなかった。


それよりも、美雪は「男子」というフレーズからある事を思い出し、2人にこの話題を振りたくて堪らなくなっていた。


「そういえば思い出したんだけど、昨日凄い綺麗で可愛い子と松木駅で会ったんだけど二人とも知ってる?」


美雪は自分の話題をここで終わらせ、新しい話題を2人に提案した。


晴海は自分の意見をスルーされた事に一瞬少しムッとした態度を取ったが、美雪の話題にスグに乗っかり、亜紀と2人で自分の記憶を辿るような様子で考え込んだ。


「う〜ん、見たこと無いし聞いたことも無いかな……」


晴海は少しの間考え、答えは出なかったのかそう答えた。しかし、亜紀は心当たりがあったのか、晴海よりも少し考えた後、答え始めた。


「もしかして、それって結構派手な服着てた子? え〜と、コスプレ衣装みたいな」


「うん! そうそう。私があった時はゴスロリっぽい服を着てた!! 見たことあるの!?」


美雪は亜紀が彼の事を知っていた事が嬉しく、ついついテンションが上がり気味になり、亜紀に追求した。


「え? い、いや〜見たことは無いけど……、聞いたことはあるかな」


亜紀は普段落ち着いた美雪がやけにこの話題に食いつき、テンションも上がっている事を不思議に感じつつ、少し動揺した様子で答えた。


「そっかぁ〜……、見た事はないか〜……。でもね! すっごい綺麗で! 美人だったんだよ!! ホント、芸能人みたいに」


美雪は亜紀も姿を見たことが無いことを知ると一瞬ガッカリしたが、スグに熱は再熱し、珍しく饒舌に話した。


「まぁ、割と有名かも知れないよね。知ってる人も何人かいるみたいだし……」


「え!? なになに? 知らな〜い。そんなに有名なの?」


亜紀がそう答えると一切知らない晴海は益々興味を惹かれた様子で詳しい話を聞きたがった。


「写真とかあればな〜」


亜紀がそう呟くと、美雪はいい事を思いついた。


「じゃあ! 今度3人で見に行こ! 多分、居るかもだし。それにね、その人、そんなに綺麗なのに男の人だったんだよ!!」


美雪は遊びの計画を立てるように楽しそうに2人に提案したが、亜紀と晴海はそれどころではなかった。


「はぁ!? 男!?」

「えぇ〜!? 嘘〜」


2人はそれぞれ大声で驚き、あまりの大きさに周囲から見られるほどに目立ってしまった。


晴海は特にそんな事を気にはしなかったが、亜紀は少し恥ずかしくな

ってしまい、咳払いを一つした後、美雪に話しかけた。


「美雪、その人と話したの? てか、男って聞いたの?」


「うん、ちょっと色々あってね。名前も教えてもらったよ!」


2人の大声に少し戸惑いながらも、スグに昨日の事を思い出すようにして嬉しそうに話す美雪を見て、亜紀は益々動揺した。


亜紀はその噂の彼女が女ではなく、女装した男だったという事よりも、幼い頃からの付き合いで、人見知りな部分も嫌という程よく知っているその美雪が、男性のしかもかなり変わった趣味をしてる人と仲良くなっている事に驚きを隠せなかった。


「な、なんて名前だったの?」


「えっと…、立花 葵(たちばな あおい)さんって方だよ」


「立花……」


亜紀は何故かその名前に聞き覚えがあるような気がし、呟きながら考えたが答えが出てこなかった。


「ちょっと、気が合いそうだったな〜……」


「えぇ〜、みゆっちそゆのがいいの〜?」


「いや、そうゆうんじゃないって。友達として」


「友達でも無いでしょ〜」


美雪と晴海は楽しそうにキャッキャッと話している横で亜紀は何か引っかかるような、モヤッとした感覚に覆われていた。


そうして3人は学校につき、別れるまでその話をしていた。

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