三分間の飛行

美作為朝

三分間の飛行

<バイパー>はシバリング峡谷の間をすり抜け鉄橋をロケット砲で攻撃したとき、ロケットの発射による振動と別の振動音を感じていた。

 パイロットととは敏感なものである。

 <バイパー>はすぐ機体を起こし、水平飛行に戻すと方位を1-9-0に戻した。

 同じく、直後に攻撃を終えた、<キューブ2>が小さく旋回して脇につく。

 <バイパー>はすぐ後方についた<キューブ2>に無線で尋ねた。

「こちら、<シャイボーイ3>、<シャイボーイ4>へ機体に変な振動がある。機体の後方の下部をチャックしてくれないか」

『こちら<シャイボーイ4>、コピー』

 メットの無線機を通じて<キューブ2>が答えてくれた。

 <シャイボーイ4>がフラフラやや減速して微妙な飛行をしながら<シャイボーイ3>の下に回る。

『あ、<シャイボーイ3><シャイボーイ3>主翼の付け根のパネルから白いバイパーが見える。火災ではなく、おそらく燃料か油圧のオイルの漏れだろう。燃料の残りゲージはどうだ?』

 <バイパー>は急いで燃料ゲージをチェックする。

「問題ない」

 そして<バイパー>は指でトントンと計器盤の燃料残存量を叩くと、その瞬間。燃料の残存量を示すゲージが大きくがくんと下がった。

「だめだ、燃料漏れらしい」

『<シャイボーイ4>了解した、あと何ガロンだ?』

「ゲージの落ちるスピードが止まらない。今止まった。残り1200ガロン」

『<シャイボーイ4>ログ』

 こころなしか、キューブ2の返答の声が弱い。

「どうやら、ねぐら空軍基地にはかえれそうにないな」

『諦めるな、<シャイボーイ3>出来る限りエスコートする。緊急救命信号を出すか』

「ちょっとまってくれ、今計算してる」

 <バイパー>は太ももに縛り付けてある地図に1200と小型のペンで書くと次に400と書こうとしてやめた。

 小学生でもわかる割り算だ。

「あと、飛べるのは三分間程度だな」

『ログ』

「すまんが、今のうち出来るだけ高度を取っておきたい、上昇する」

『ログ、後にバッチリついていくよ』

 <バイパー>は操縦桿をかなり急角度で引いた。体に若干のGがかかり機体が斜めになり順調に登っていく。姿勢儀が10度の上昇を示す。

 機体のジェットエンジンだけは、好調なのが恨めしい。燃料さえあればいいのだ。

「なぁ、<シャイボーイ4>、空気中の酸素濃度が薄いほうが燃料の消費効率が良いんだったっけ?」

 <バイパー>が尋ねた。

『すまん、よく知らない』

「だろうな、俺も知らん」

 <バイパー>はずーっと避けていたが下をちらっとみた。今日は快晴で雲による上空と地上との遮蔽しゃへいがいっさいない。敵国バランダ共和国の赤茶けた地表と赤松の濃い緑がパラパラと見える。

「<シャイボーイ4>、やっぱ緊急救命信号を出すわ。すまん。もう離れてもいいぞ」

『いや方位が同じ限りついていく』

「メイデイ。メイデイ、メイデイ、現在位置はおよそNL39.15。EL128.44。メイデイ。メイデイ。メイデイ。残存燃料が少なく救助を乞う緊急だ」

 救命信号は敵国バランダ共和国も傍受しているはずだ。送り狼が上がってくる可能性もある。

 しかし、<シャイボーイ4>も<バイパー>も知っている。バランダ共和国のこんな奥深くまで自軍の救命ヘリは飛んできてはくれない。

「もう一分は飛んだかな?」

『<シャイボーイ3>燃料ゲージはどうだ』

「下の方で全然動かなくなった」

『コピー』

 <バイパー>はウィングマンの<シャイボーイ4>こと<キューブ2>を見た。風防越しで表情まではよくわからないが、こっちを見ている。

 <バイパー>は<キューブ2>に向けて軽く手を降ってやる。

 すると、<キューブ2>は飛行手袋ごと大きく前方を指差し前を突く。

 とにかく前へ向かって飛べと言っているのだ。

 <バイパー>は真剣に機体からベイルアウトしたあとのことを考えだした。右胸の救命パックを確認する。持っている武器は9ミリの拳銃とコンバット・ナイフだけ。

 おれはパイロットで兵士ではない。捕虜になって喋っていいのは認識番号と階級と名前だけ。機体の完全な破壊まで義務付けられているが無理だ。

 捕虜になるのはいいが、拷問は耐えられそうにない。<キューブ2>に撃墜してくれとも頼みにくい。

「<シャイボーイ4>なんか、面白い話をしてくれ。気が滅入る」

『そんなのないよ』

 本当は、ROE交戦規定では無線での私話は禁じられている。

「先週、慰問に来た、女優のルシール・ボアーの下着を貰った整備兵がいただろう」

『272中隊の奴だろ』

「だっけ?あれ、偽物らしいぜ」

『どっちが、ルシールがか?下着か?』

「馬鹿だなルシール・ボアーは本物だよ。」

『あの時、ベロンベロンに酔ってたし俺席が後ろの方でよく見えなかったんだ。<ミーン・マシーン>の話しだと胸はブラに詰め物してたって話だぞ』

「それ、聞きたくなかったよ」

 しばらく、お互いに無言になった。

『ひょー!!<バイパー>思い出した』

「なんだ!!敵か?」

 <バイパー>はキョロキョロする。この機体にレーダーは装備されていない。肉眼だけが頼りだ。

『違う、空中給油機だ。今週ローテでエリア・コードC・T・Hチャーリー・タンゴ・ホテルだろ。近いぞ』

 <バイパー>が喜悦の声を上げる。

「それを早く言え、二分は損したぞ」

 <バイパー>が太ももにくくりつけてある地図を確認しようとするが大きくペンで1200と書かれていてわからない。変な計算は地図でするものじゃない。

『<シャイボーイ3>ここからだと方位は2-7-0ぐらいじゃないのか?』

「<キューブ2>おまえ本物の天使だよ、ハード・ライト、右へ旋回」

 二機が右へ旋回し、西へ向かう。間に合うのか、、、。<バイパー>の気だけはやる。

『<シャイボーイ3>、もう一回高度を稼ぐか?今のうちに』

「そんな余裕はない1マイルでも先に飛びたい」

 <バイパー>は前方の風防を必死に手袋で擦った。早く空中給油機を見つけたい。照準器でさえ邪魔なくらいだ。

 晴天の青空の真ん中に黒い点が現れた。と同時に無線のガサガサ言う音に混じって声が聞こえてきた。

『こちら、<オイル・マザー>、、<オイル・マザー>、、、、』

「こちら<シャイボーイ3>現在残存燃料に問題を抱えている。緊急給油を行ってほしい現在残存燃料ほぼゼロ。燃料計も故障の可能性あり」

『こちら、<オイル・マザー>ログ。先程のそちらの緊急救命コードは受信していた。アプローチを許可する』

「<シャイボーイ3>了解。早くブローブを出してくれ」

 大型の古いタイプの輸送機がレシプロ・エンジン4発で悠然とたゆたうように飛んでいる。

『<オイル・マザー>コピー』

 4発の大型輸送機の機体の後ろから長い管が伸びてきた。先には漏斗のような物がついている。

 変な振動が<バイパー>の機体に感じられた。エンジンの回転数が落ちている。エンジンから異音もする。本当にガス欠らしい。

 ブローブはもうちょい先だ。しかし、空中給油機は遅い。速度を調整してドッキングする必要がある。

『こちら<オイル・マザー>の<ギバー>後方より確認中<シャイボーイ3>、ふらついているぞ』

 <バイパー>には返事をする余裕すらない。なんとか機体をあやつりスロットルを操作している。

 しかし、機体がふらついて揺さぶったのが功を奏したらしい。最後の一滴が燃料ポンプに入ったかのようだ。急にスラストが甦った。今だ!!。

「こちら<シャイボーイ3>悪いがちょっとホットにいくぞ」

『ログ』

 機会を選ぶ余裕は<バイパー>にはない。お互い3次元的に揺れている中、今だと思った瞬間にブローブのドローグめがけてスロットルを押し込む。

「タッチ、タックイン!」

 <バイパー>が叫ぶ。

『こちら<オイルマザー>、タッチならびにタックインすべてコンファーム、確認した給油開始する』

 <バイパー>はメットのゴーグルを外し顔の汗を拭う。がすぐに重要なことに気づく。この機体の主翼の右側燃料タンクは漏洩しているのだ。

 急いで、燃料コック弁を左全開に切り替える。

 燃料ゲージが順調に上がっていく。

 助かった。

 おそらく、左のタンクだけでどうにか帰還できるだろう。

『こちら<シャイボーイ4>給油後右から漏れたのが、俺にかかったよ」

「すまん」

『風防が汚れた。しかし、よかったな、<シャイボーイ3>間一髪だよ』

 

 空中給油は順調にいった。


 バイパーが言った。

「<オイルマザー>こちらは左タンクだけだ、もう給油を止めてくれ」

『ログ、今止めるが、ちょっと待った少しトラブってる』

 <バイパー>が言った。

「こっちも満タンだ。離脱する。ディタッチ、ディタッチ」

『待ってくれ<シャイボーイ3>』

 これが、この空域にいる三機が交信した最後の言葉だった。

 <バイパー>は無理やり機体をひねりブローブから離れようとした。左タンクははちきれんばかりになっていた。受けていた空中給油機のドローグと<シャイボーイ3>の受け手のブローブが擦れて火花を散らした。

 航空機燃料のケロシンはブローブまで溢れていた。火花はあっという間に<シャイボーイ3>の燃料タンク、エンジンにまで到達機体ごと大爆発を起こした。

 燃料が足りなくて困っていた<シャイボーイ3>は燃料が溢れて落ちた。

 給油機側では給油が停まっていなかったドローグで起きた火花は可燃物であるケロシンをつたい、ブローブから給油機の超巨大な燃料タンクに引火。<オイルマザー>は大爆発を起こした。

 ウィングマンの<シャイボーイ4>も給油機のブローブが吹き出す印加した燃料を大量に浴び、それを空気口から吸い込み大爆発を起こした。

 三機とも木っ端微塵になった。

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