08

 俺が中学生の頃、母親が死んじゃってさ。自殺だったんだけど。いやー、その前からやべーなとは思ってたんだけどねー、ほんとは学校休んででも側についてるべきだったんだろうな。でもな、できなかったんだよ。わかってたのにな。薄々。だから俺はねー、ずっと後悔って言うか、無力感みたいなものが、胸の真ん中にある気がするんだよなぁ。


 自分が中学の時にどんな大人に側にいてほしかったかなって考えたときに、ただ見守ってほしかったなって思ったのね。側にいて見守ってくれる人がいてくれたらよかったって思った。父親は仕事が忙しすぎてそれどころじゃなかったから。教師なりたいなと思ったとき、そのことだけが頭の中にあって。なんだよお前、またひねくれたこと言ってんな。俺が運転ミスったらお前も危ないからね。鈴木君はもう少しタイミングとか周囲の雰囲気とか考えてもの言おうか。


 いやでもな。お前はほんとに悪口以外の語彙を増やせ。あかん。俺思ったもん。自分の気持ち口にできないってこんな辛いんだって。母親の病気が悪化して、どんどん悪くなっていくのを、誰にも言えなかった頃があって。そのころが一番辛かった。誰かにわかってほしかった。いや、違うな。言葉にしないと、。お前ときどき暴れてるじゃん。それってさ。言葉にする訓練が足りてないんだと思うんだよなー。


 ほらまた殴る。運転中だって言ったろ。そういうとこだぞお前な。後先考えなさい。ほんとに。佐多さんもなんか言ってやって。あなたもっとこの人に怒った方がいいよ。怒りたいときは怒りなさい。いやお前は怒るより考えろ。俺今さっきめっちゃくちゃ長い尺使って喋ったよな? 聞いてた? 俺教師になって五年くらいなんだけどこんな気合入れて喋ったの初めてよ? あー悲しいなー。こうやって大人の話って忘れられていくんだね。


 でもさ、俺のことは忘れてくれてもいいから、俺の言ったことは忘れないでよ。こう見えても君らのこと心配してるんで。着いた? ここ? 雨降ってるし家の前ぎりぎりで降ろすけど。あ。そう。はいはい。じゃあまたあし――――――



 た、気をつけてね。って最後まで聞かずに車のドアを閉めるよね鈴木君あの子はほんとに。

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