第12話 迷子 in 山道!?

 温泉から上がった後、お土産コーナーをしばらくしてから外に出る。

 もう夕陽は姿を消し、建物から漏れる光や街灯だけが頼りの世界になっていた。

 3月の終わりとはいえ、そこそこの標高があるところなので、上着があっても少し肌寒い。

 さっさと車に戻り、セルを回す。

 ふと助手席を見れば、忘れ物の着替えが転がっていた。

 流石にこんな場所で着替えると野外露出もかくやといった状況なので、戻るまで我慢である。


(それにしても、こんなんで山道とか……ヤダなぁ……仕方ないけど)


 行きと同じで交通量も少ないだろうし、キャンプ場はそこそこ近いので大丈夫だろう。

 車のナビをキャンプ場に設定し、駐車場を出た。




 ******




 再び山道をアップダウンすること20分。

 途中でダムの上やらトンネルやらと、行きとは違う道だが、キャンプ場までの距離は順調に縮んでいた。


『まもなく、左方向です』


 国道と県道の交差点を曲がれば、目的地はすぐ目の前。

 ……だったのだが。


「えっ!? 通行止め!?」


 道路前には「路肩崩落のため通行止め」「迂回してください」の文字が。

 矢印の方向は来た道を示している。

 慌ててハンドルを切り、とりあえず直進。

 後ろがいなくてラッキーだった。

 しかし、脳内は既にパニック状態である。


(え、どうしよどうしよ!? とりあえずナビの再設定! どっか停めれるところ!)


 交差点を抜けてしばらくしたところで車を停め、こんどはスマホのナビで目的地設定。

 その道のりが、私を絶望のズンドコ……もといどん底に叩き落した。


(は、反対方向……!)


 来た道をそのまま戻る以外ないのだから、当たり前と言えば当たり前だが。

 所要時間も、当然それに従う。


(あんなどこぞのインディージョーンズみたいなところを走らないといけないわけ!?)


 ディズニーシーの某アトラクションのように感じたのはトンネル部くらいのものだったが、暗さに関していえば同じようなモノである。

 ここでじっとしていても帰れないので、Uターンして運転を再開する。

 しかし、夜中に通行止めの看板を見てしまったせいか、とても不安になった。

 しかもヘッドライトが唯一の光である。

 一気に心細くなり、思わず涙がこぼれた。

 怖いよ。

 寂しいよ。

 辛いよ。

 帰りたいよ。


 助けて。

 

 気持ちを少しでも落ち着けるために、音楽を流す。

 再生されたのは、まさかのインディージョーンズアドベンチャーの曲だった。

 スリルを掻き立てる、アトラクションBGMの方だ。


(何でそっちなのよ!! 事故るわよこの勢いだと!!)


 ただでさえテンパっているのに、視界が滲んでいつ事故るかというところまで来てしまった。

 慌ててトラックをいくつもいくつも送る。

 次に再生されたのは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の、あのテーマ曲だった。

 ハミングしながら左手でリズムを刻んでいると。

 少しずつ、前に進むための「勇気」が湧いてきた。

 大丈夫、ちゃんと帰れる。

 そうだよね?

 そう思いながら、もう一度ハンドルを握り直し、それでも変わらず慎重に山道を進んで行った。


 時計が8時を少し過ぎた頃、ようやくキャンプ場に戻ることができた。


「やった……着いたわ……私、頑張ったよね……?」


 その言葉にこたえてくれる人は誰もいないが、心の底からほっとすることができた。

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