第8話 出るペグは打たれる、しかしそもそも刺さらない

 炊事場からもそこそこ近い区画に車を停め、後ろの扉を開く。

 まずはグランドシートから。

 地面の状態を見極め、凹凸の少ないところに設置する。

 ちょっち大きめだが、どうせ畳んでしまえばどうという事はない。

 ……はずだった。


(よっこらせっと……ああちょっと待ってそっちじゃないだからめくれ上がったまんま地面についたら……あーあ)


 突然強い風が吹き始め、シートを持ったままえっちらおっちらしていたところ、両面が汚れてしまうという惨事に陥った。


(汚れてないとこだけ工夫して……つーかその辺の石で仮止めすればいいじゃん!)


 キャンプサイトは川沿いなので、重しになる石はいくらでもあった。

 少々苦闘しながらも、グランドシートは設置できた。

 それと同時に、ようやく風が落ち着いてきた。


(さて、次はテントと……)


 こちらは一度練習をしているので、手間取ることはない。

 本体を広げて四隅にポールを刺し、吊り下げるだけ。

 これだけは10分とかからずに終わった。

 問題は、設置というかペグダウンである。

 グランドシートの四隅をぺグループに括り付けるまでは良いが、余った部分の畳み方である。

 これが非常に面倒くさい。

 汚れがつかないようにすればいいのだが、また風が強くなってきたしそもそも私は不器用である。

 そこ、女が不器用で何が悪い。今はそんなこと言えたような時代ではないぞ。


(先に固定できるところだけペグダウンすっか……)


 付属のペグはプラスチック製だったが、以前サイトを見たときに「台風や大雨でしょっちゅうサイトが全滅する」とあったので、恐らく表面は石が多少あってもその下はそこそこ柔らかいだろうと判断して、そのまま使う。

 しかし。


「え、全然刺さんないだけど……」


 これもサイト情報だが、地面を再整備するときに石が混ざることがあるため、ペグが刺さらないことがあるとのことだった。


(精々半分しか埋まらないとか、そういうことじゃなくて、先端すら入らないで抜けるの……?)


 これは、位置を変えるほかにない。

 何回かチャレンジをして、良い感じに刺さるポイントを見つけた。


(ここを起点に固定するしか……ないか!)


 その後も刺さらない箇所を避けて打ち込みを行い、テント設営は完了した。

 ここまで、到着から1時間半ほど。

 そのほとんどがペグダウンとシート敷きに消費されたが。


(まだ……終わってない……)


 屋根がなければ飯はできぬ。

 そう、タープ張りである。

 腹立たしいことに、また風が強まってきた。谷あいなので仕方ないのだが、天気予報はかくも当てにならないものかと心が少し萎えた。




 ******




 私の買ったテンマクデザインのタープは、ほぼ二等辺三角形。

 テント側に底辺を向ければ、多分それなりに過ごしやすいだろう。

 問題はこの微妙な天気である。

 頂点部と三辺についた赤い輪っかにロープを結び(高校時代に覚えたもやい結びである)、適当な位置にペグダウン。

 ポールを立て……ようとすると、風にあおられて出来ない。

 そしてうっかりしたことをすれば、横づけした車に当たる。

 免許取りたての頃に散々傷をつけたので、これ以上はどうしても避けたかった。

 しばらく横倒しのポールを眺めながら考える。


(あ、これ底辺のポールを立てながらロープ締めればいいじゃん)


 幸い打った位置が、ポールから手を伸ばせば何とかなる場所だったので、ちょこまかと動きながら1本目のポールを立てることができた。

 2本目はロープの締まりを変えるだけで簡単に立った。

 最後にテーブルを展開して、作業終了。


(お、終わった……てかおい待て、今何時だ……)


 腕時計を見てみると、既に正午過ぎ。


「昼作るのめんどくさ……つかもう肉と麺だけでいいや……野菜飛んで行かれても困るし」


 相変わらず、強めの風が吹く天気だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る