1日目 ソロキャンプデビュー。しかし、
第7話 旅を、始めよう。…市内だけど。
出発の朝は、少しだけ慌ただしかった。
冷蔵庫にあったものを全てハードケースに収納し(肉類は保冷材で挟む)、諸々の小物を最後に積む。
給油は先日してあるので、渋滞でも巻き込まれない限りは平気だろう。
キャンプ場のすぐ近くにスタンドもあるようだし。
「行ってきます」
朝早い父に声をかけ、家を発った。
******
家からは高速に一切乗らないで行けるほどの近場。
と言っても、山の中だし40分ほどかかるが。
家の近くはやや渋滞していたものの、山の麓へ近づくごとに車の数が減っていく。
それに連れてアップダウンが激しくなってきたので、信号待ちの間に車を4WDモードに切り替える。
目的地付近の国道は、1車線で通行量もほとんどなかった。
(そろそろ、近いよね……)
カーナビの距離は残り1kmほど。
サイト情報では左折の看板が見えるはずだ。
「間もなく、右方向です」
(右!? どこどこ!?)
道が見えない。看板も見当たらない。
すると一瞬だけ、小さな文字で「キャンプ場ココ右折!」と書いた茶色いパネルが。
(え、アレ!?)
当然車は急に曲がれない。
そしてナビは「探索中」の表示へ。
(どこかのあぜ道に入って、Uターンしないと……)
幸い戻れそうな道はすぐに見つかった。
地理的には直進方向なので、むしろ安心かもしれない。
しばらく縫うように進み、キャンプ場の入り口へ。
対向不可能と思えるような狭い坂道をゆっくりと下っていくと、「ようこそ!」の文字が見えた。
「やっと着いた……長かったー!」
入口すぐの管理棟(と言っても、少し大きな小屋位のサイズだ)前にある駐車スペースに車を停めた。
降りてすぐの足元には、川底まで透き通るほどの清流が見える。
空を見上げれば、やや雲はあるものの青空が広がっていた。
ここから拝める風景だけでも、気持ちがいい。
写真を撮りながら管理棟をうろついていると、管理人さんと思しきオジサンが出てきた。
「おはようございます、今日からソロの一泊でお世話になります、城山加奈です」
「はいはい、城山さんね。えーと、じゃあちょっと来てもらえるかな?」
オジサンに付き従い、管理棟の中へ……入りかけたところで、足を止めた。
「えーとどこだっけな……ああこれこれ、この紙に住所と名前をお願いします」
指し示されたのは、外に置かれた木製テーブル。
その上にバインダーで挟まれた用紙があった。
サクッと必要事項を書き込み、オジサンに渡す。
「へぇ、○○町なんだ……そうそう、確か家の近くにハイツ△△って名前のアパートあるでしょ? そこに僕の住所あるんだよ。もうずっと帰ってないけど」
「あっ、そうなんですか」
同郷どころか、まさかのご近所さんだったとは。
「で、これがキャンプ場の地図ね。この滝なんだけど、一度キャンプ場を出て、橋が向こうに架かってるんだけど、そこ渡って川を遡る感じに進むと見えるから」
サイトにもあった目玉スポットの説明を聞きつつ、手製の地図を渡される。
書き込まれた内容を見て、きっと夏には子どもたちが大はしゃぎするのだろうな、と思った。
「あとは、料金の方が……うちは午後からチェックインなんで、その分の追加と合わせて2500円ですね」
「あのー、レイトアウトもしたいんですけど……」
「でも、明日あまり天気よくないっぽいし、チェックアウトの方は今じゃなくても全然いいから」
「分かりました」
片付けに手間取る分の延長なのだけれど、まあいいか。
と、ここまでは良かったのだが。
「あとね、申し訳ないんだけど、今日女性のスタッフが休んじゃっててね」
「えっ!?」
「あと、僕も町内会があるから出なきゃ行けなくて、夕方から留守にしちゃって入口も閉めちゃうんだけど、もし用が出来たら出入りは自由にしていいから」
「あ、はい……」
まさかの放牧宣言、もといほったらかしである。
ぎりぎりオフシーズンとはいえ、スタッフ不在はちと不安だぞ……。しかもビギナーの女子ソロキャンパーがここに居るし……。
出だしから少しコケた感のある初めてのソロキャンプが、こうして幕を開けた。
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