最後の3分間

リュウ

最後の3分間

 私はベットに寝ている。

 手足を動かそうとしたり、起き上がろうと試みてみたが、どうやら無駄のようだった。

 なんと言ったらいいのだろう。

 感覚が無いようだ。

 目は、ちゃんと見えている。

 頭が動かないので、目だけキョロキョロさせるだけだ。

 口は、何やら挿入されていて、話すことは無理そうだ。

 ベッドの周りに色々な機械が置かれている。

 一番近くの機械の画面には、何やら折れ線グラフのような図形が表示されている。

 その図形は規則正しく描かれているようだ。

 波形が、左から右へと流れる。

 白衣を着た男が機械の画面を見て、頷いた。

「大丈夫そうだな」

 独り言とも取れるその言葉は、部屋に反響した。

 部屋に反響した声で、部屋の大きさが分かるようだ。

 白衣の男は、私の顔を覗き込んで言った。

「最終段階です。

 私が合図しててから、きっかり3分後に機械を止めます。

 よろしいですね。

 分かったら、瞬きを3回お願いします」

 私は、3回瞬きをした。

「はい、分かりました。始めますよ」

 白衣の男は、機械の画面を見詰めた。そして、目を離さずに指を振った。

「はい、今から3分間です」


 私の最後の3分間が始まる。

 私は、そっと目を閉じた。

 最初の1分間は、私の嫌いな人のことを考えた。

 恨むってことではなく、許すことにした。

 私に意地悪や不条理なことをしてきた人、私は許します。

 私は、何とも思っていません。

 何か訳でもあったのでしょうね。

 私は、貴方を許します。


 次の1分間は、私が傷つけた人に謝ります。

 私の何気ない一言で、色々な人を傷つけたかもしれません。

 きっと、傷づいた人が居るでしょう。

 ごめんなさい。

 許してください。


 最後の1分間は、私の大切な人に感謝します。

 可愛い可愛い子どもたち。

 色々な所に旅行したね。

 君たちと一緒で、とても楽しかったよ。

 子どもは、3歳までに親孝行は終わるっていうけれど、

 可愛くて、可愛くてしかたないよ。

 君たちなら、私よりも立派な立派な大人になるよ。

 大好きだよ。

 

 最後は、私の妻。

 よく私と結婚してくれた。

 楽しかったよ。私のわがままに耐えてくれたね。

 ごめんね。

 大切な子どもたちを生んでくれて、有難う。

 もっと、もっと、楽しみたかったよ。

 君と一緒に。

 愛しているよ。


 アラームの音が聞こえる。

 三分経ったようだ。

 瞼に光が感じられない。

 これが、最後ののようだ。


「起きてください!」

 耳元で、男の声が聞こえる。

 私は、目を開けた。

 白衣の男だ。

「正常ですよ。

 前の記憶を全部、新しい身体に移行しましたよ。

 これで、後百年、いや二百年は、大丈夫ですよ。

 あ、それから、身体を動かす時は、最初はゆっくり動かしてくださいね。

 パワーアップしてるので、物を壊さぬように。

 すぐ慣れますよ」

 と、私の肩をポンポンと軽く叩いた。


 私は、最新型のボディを手に入れた。

 これで、なんでもできる。

 何処までも行ける。

 宇宙だって。

 何処だって。

 最後の3分に考えたことで人生に区切りが出来た。

 文字通り、生まれ代ったようだ。

 さあ、これからの人生を楽しもう。

 愛する子供たちと、そして、最愛の妻と一緒に。

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最後の3分間 リュウ @ryu_labo

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