第34話 後日談

 それから、時間は流れ、10月になった。

 俺たちは隠れ家で4日を過ごし、5日目に俺と浩香は浩香の家に戻り、淳一たちも家に帰った。

 アドルフと沙織は一緒に上越市に戻った。アドルフは沙織のことを気に入ったらしく上越市で一緒に暮らすことにしたらしい。沙織もアドルフのことをすごくカッコいい人だと思っていたらしく喜んでついていった。桜たちのことは報道されはしたが今までのことと違って大々的には報道されず、ただ、桜の家が事故で大火災となり、桜をはじめ、多数の者が出たと報道されただけで報道は1日であっけなく終了した。おそらく、警察署の署長や幹部が桜との関係を知られるとマズイと思って隠ぺい工作を行い、事件が大きく報道されないようにうまく働いたのだろう。当然、俺たちと桜たちの事件と結びつける報道は皆無だった。だから、俺たちにとって非常に都合がよかった。

 そして俺たちの事件のことは桜のことが報道されて1カ月もすると完全に風化し、誰も話題にはしなくなった。その間、俺たちは戦利品として手に入れた金を海外の銀行に預けたり、銃器を点検して隠したりして後始末を終え、ようやく戦いのない日常に戻ることができたのだった。

 その日は高校の文化祭で俺たちのクラスは喫茶店をやることになり、俺も積極的に働いた。

 俺は仕事は早い方だったからクラスメートからは頼りにされていていままではこんなこともなかったからうれしかった。ちなみに浩香もウェイトレスとして仕事をしたが、お客からの評判は非常によく、歌を歌ってほしいというリクエストまでされたので浩香は笑顔で歌って称賛された。「片田ってかわいい声してるな。」「歌上手いね」とクラスメートもうなずいていた。

 俺と浩香は自由時間になってほかのクラスの出し物を回って十分楽しんだ。ちなみに淳一たちは横田君と一緒に体育館で開かれていた野菜や花、ジャムや菓子の出店を回っていた。俺たちの高校は農業高校なので文化祭になると農産物や花の販売が行われるんだ。俺も浩香と回ったが普通の高校よりにぎやかで楽しかった。

 文化祭が終わった後、俺と浩香は駅まで2人で歩きながら話をした。

「聖夜、今日は楽しかったわ、あなたのおかげよ」

 浩香は俺に言った。

「ああ、俺もだよ。ありがとう」

 俺もそう答えた。そういえば、俺がこんな風に過ごせるようになったのは初めてだ。いままでは少しも考えられなかった。

 俺は今までの出来事を思い出していた。俺を苦しめてきたやつらはすべて消えたんだ。もうやつらが現れることはない。

 俺がそんなことを考えていた時、後ろから淳一たちと横田君がやってきた。

「よお、聖夜、浩香、今日は楽しめたか?俺たち、これからまたカラオケに行くつもりなんだ。聖夜たちも行こう」

「ええ、そうよ。打ち上げと行きましょう」

「うん、それがいいよ」

「ああ、浩香、また、歌ってくれ」

「ああ、そうだな。片田、歌うまいな。もう一度聞かせてくれよ。」

「ええ、いいわ」

 淳一たちに言われると浩香は笑顔で答えた。その時の浩香は初めて会った時と違って明るく楽しそうだった。

「聖夜も行きましょう」

「おう」

 俺はすぐに答え、浩香たちを追った。浩香の笑顔を見てその笑顔をいつまでも守りたいと心から思った。

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ダックVSチェリー @hironorik7

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