第30話 スパイ工作
俺たちはレストランでたわいもない会話をしながら食事し、食後のコーヒーの後、他人のふりをして俺は手に入れておいたトヨタ・アクシオ、アドルフはセダンタイプのスバル・インプレッサに乗って出発した。沙織はNワゴンを走らせてアドルフを案内した。
アドルフと沙織は車を走らせ、桜の家の近くまでやってきた。2人は車を降り、歩いて桜の家に向かい、沙織がアドルフと一緒に家の前まで来ると警備の連中が声をかけてきた。
「うん?鷹森、誰だその人は?」
「ああ、この人は今日、買い物をしてる時に偶然、出会ったんです。桜さんのことを話したら桜さんの考えに共感してくれて私たちに協力してくれることになりました。それでぜひ、案内してほしいって言われたんで来てもらったんです。」
「おう、そうなのか、桜ちゃんに言ってくる。」
しばらくすると桜が松浦と孝子を従えて出てきた。
「鷹森、私たちに協力してくれる人を見つけたっていうじゃない?この人?」
桜はアドルフを見て「うわお、すごいカッコいいじゃない」と目を輝かせながら聞いた。
アドルフは笑顔でこう答えた。
「はい、沙織さんとは中央区でたまたま会いまして、リーダーであるあなたの活動を聞いて素晴らしいと思いまして僕もお力になりたいと思って無理を言ってきてしましました。お邪魔でしたか?」
「いえいえ、大歓迎です。あ、お名前はなんていうんでしょう?」
「ああ、僕ですか、僕はデクスター・ワトソン、イギリス人です。中央区に住んでます。よろしくお願いします。」
アドルフは自分をイギリス人だと言って偽名を名乗った。ちなみにアドルフがイギリス人だと言ったのは桜たちが使っていた銃器の中にイギリス製が多数含まれているのを知って、「桜はイギリスが好きなのでは?」と思ったからだ。ちなみにアドルフはイギリスが大嫌いだった。それは浩香もそうで「イギリスのせいで日本は何度も苦しんできたのよ。イギリスなんか信じちゃだめよ。」といつも言っていた。ちなみにアドルフが使った偽名は浩香が捕鯨について調べていた時に見つけた。セイシェルというインド洋の国を操っていたある男と日本に来てイルカの網を切ってイルカを逃がす破壊活動を行った男の名前からとったものでドイツも捕鯨の問題では反捕鯨だが、アドルフは捕鯨という漁業に理解があり、日本が再びクジラを捕獲することに賛成していた。浩香はもし、枢軸国が戦争に勝利していたら今も商業捕鯨は続いていたかもしれないと思っていて、アドルフも「ああ、間違いない」と思っていた。何で2人がそう思ったのかはここでは言わないがな。
まあ、ともかく、アドルフがイギリス人だというと、アドルフが思った通り、桜は目を輝かせてこう言いだした。
「わお、イギリスの方なんですか、私、世界の国の中でイギリスが一番好きでイギリスの人たちをすごく尊敬してるんです。イギリスの人たちはみんな紳士、淑女といった感じで上品でいい人たちですね。あこがれちゃいますよ。」
桜は言った。
アドルフと沙織は
「ふん、イギリスは本当はそんな国じゃない」
「何言ってるのよ。」
と心の中で思いながらも笑顔でこう続けた。
「おお、そうでしたか、僕の国のことをそんなに尊敬してくれていたんですか、ありがとうございます。じゃあ、中でお話を」
「ええ」
桜は笑顔でアドルフを案内した。
家の中に入ると1人の男が仲間2人と話をしているのが見えた。
「うん?桜さん、誰っすか、この人」
男は聞いた。
「ああ、この人はデクスター・ワトソンさん、イギリス人よ。私たちに協力してくれるそうよ。鷹森が見つけてきたの」
「そうすっか、うん、鷹森が」
男は付いてきた沙織を見て聞いた。
「ええ、そうですよ。又一さん、偶然、ワトソンさんに出会ってワトソンさんも自然保護に関心があるって話してくれて、それで桜さんのことを話したら共感して力になってくれるって言ってくれたんです。それでここまで来てもらいました。」
「はい、そうなんです。よろしくお願いします。」
アドルフは笑顔で答えた。
「ええ、どうも」
男、名前は又一兎人はしっくりこない表情で答えた。ちなみに又一は20歳くらいの不良風男で西区のリサイクルショップで働いていた時、桜と出会い、桜とは気があったので部下として雇い入れた。
桜は部下の中でも又一のことはかなり信頼していた。又一も忠誠心は高く、桜のためなら命を投げ出す気でいた。
一方、又一は沙織と気が合わず、沙織のことを毛嫌いしていた。沙織は桜たちからいつもバカにされ、いつも粗末な扱いをされていたが、又一は特にひどく、沙織にくだらないことで暴言を浴びせたり殴ったり、蹴ったりすることもあり、沙織は又一にいつも殺意を抱いていた。もっとも、沙織は表には出さずに何とか穏やかに接していたがな
まあ、ともかく、アドルフが自己紹介を終えると、桜はアドルフを広間に案内し、小倉たちを紹介した。
小倉たちはアドルフに頭を下げ自己紹介をした。
その日は土曜日でアドルフは中央区の会社に勤めていてその日は休みで東区に来ていてスーパーにたまたま寄ったら沙織と偶然会って、自分も自然保護に興味があり、イベントなどによく参加していると話して話が弾み、沙織から桜たちのことを聞いて活動に共感して沙織に案内してもらったと話した。
仕事があるので休日と祝日しか加われないが、桜が活動を行うときはぜひ、力になりたいと話した。
桜はアドルフの申し出に感激し、アドルフをメンバーに加えることをすぐに決断し、小倉たちもすぐに賛成した。(しかし、そのとき、又一だけは白けた顔をしていた。誰も気づかなかったがな)
というわけで、桜はアドルフの歓迎会を行うことにし、アドルフが明日も休みだといったので歓迎会を夜に行うことにし、アドルフを来客用の客室に案内した。
「ありがとうございます。」
アドルフは笑顔で客室に入り、念のため、盗聴器や監視カメラが仕掛けられていないか調べてから持ってきたバックに隠してあった盗聴器を取り出した。これを仕掛けて桜たちの動きを筒抜けにするためだ。
アドルフは部屋から出ると誰にも気づかれないように盗聴器を仕掛けてまわった。歓迎会が行われる大広間には入らない方がいいと思ったので沙織に渡し、沙織は掃除をするふりをして盗聴器を仕掛けておいた。
桜はアドルフのために様々な料理と飲み物を用意した。料理は肉類と桜が西区の「ふるさと村」で買ったらしいカニやエビなど豪華なものが多く、飲み物はアルコール飲料が何本も並べられていた。
そして、夜になってアドルフがメイドに呼ばれていくと大広間には桜を筆頭に桜の団体のメンバーが勢ぞろいしていた。桜はアドルフが来ると手招きし、広間のステージの上で小倉たち以外のメンバーにも紹介した。
「どうも、みなさん、デクスター・ワトソンです。これからよろしくお願いします。」
アドルフが頭を下げると拍手が巻き起こり、桜の音頭で乾杯が行われ、食事が始まった。
食事はバイキング形式の立ち食いでアドルフは食べながら桜の部下たちと会話をした。アドルフは明るく紳士的に話したので桜の部下たちはすっかり信用したらしかった。
桜は外にいる警備の人間にも料理や酒を運ばせ警備の連中も料理を食べたり酒を飲んだりしていい気分だったが、沙織だけはなぜかウェイトレス(デザインはかわいらしいがスカートがかなり短く、肌の露出も多めな服を着させられていた。)の格好をさせられ、メイドや給仕と一緒に働かされるありさまで少しも面白くなかった。
「クソ、何で私がこんな格好までさせられて働かされないとなのよ。」
沙織は心の中で罵ったが、表には出さずに仕事を続けた。
「あはは、楽しいわね。そうだ、みんなで歌わない」
酒の酔いがまわった桜は部下たちに提案した。
「いいね。歌おうぜ、カラオケセットもあるわけだし」
「歌いましょう、歌いましょう」
厚と小倉も陽気に続けた。
桜は松浦と孝子に準備させ、マイクを持つとさっそく「行くわよ。みんな」と言ってノリノリで歌い始めた。
桜が選んだのは広瀬香美さんの「Catch You Catch Me」で浩香が思った通り、桜はこの曲が好きでよく歌っていたんだ。
「おお、さすが桜ちゃん」
「最高」
部下たちは次々に称賛したが、アドルフと沙織は
「何だこれは」
「最悪」
と表向きはほかの奴と同様、桜を称賛したが内心は顔をしかめていた。
桜の歌はあきれるほど下手でひどいものだったんだ。2人には桜の部下たちが桜の歌を称賛しているのが理解不能だった。
「いいね。じゃあ、俺も」
桜の次は厚がマイクを受け取り、ノリノリで歌いだしたが、厚の歌もこれまたひどく、聞けたものではなかった。
しかし、アドルフは「おお、やりますね」と笑顔でほかの奴らと拍手をした。(本当は聞くのも嫌だったんだがな)
桜の部下たちもノリノリで下手な歌を歌いまくり、最後に小倉がAKB48の「会いたかった」を歌った後、桜は沙織に声をかけた。
「鷹森、きなさい」
「は、はい」
沙織は「ふん、何よ」と内心思いながらも桜の近くにきた。
「あんたも何か歌いなさいよ」
桜はイヤらしい目つきで偉そうに言った。
「わ、私ですか」
「そうよ。みんな歌ってるのにあんただけ、逃げる気なの、歌いなさい」
「は、はい」
沙織は返事をした。ちなみに桜が沙織に歌うように言ったのは沙織をみんなの笑いものにするためだ。桜は沙織はうまく歌えないはずだから、沙織が下手な歌を歌っている姿が受けると思ったんだ。
沙織も桜の狙いに気づいていたが、反論できず、マイクを渡されてステージにたった。
「何にするんだ?」
小倉がリモコンを手に偉そうに言った。
「じゃあ、欅坂46の「不協和音」で」
沙織は言った。沙織は金がなくて自分から歌を歌いに行ったことはないが、この「不協和音」という曲はスマートフォンでネットサーフィンをしていた時に偶然見つけ、聞いたらすごくいい曲に思えたのでこの曲にしたらしかった。
「おう、「不協和音」か、欅坂の、お前に歌えるかな」
小倉は「お前には無理だよ」とでも言いたげな表情でリモコンを操作した。実は小倉はアイドルオタクでアイドルグループの歌には詳しかった。AKBの歌を歌ったのもそれが理由だ。
「じゃあ、行きますね。」
沙織は歌い始めた。
「おお、素晴らしい」
アドルフは沙織の歌声を絶賛し、桜たちも「う、上手い」と言わざるを得なかった。沙織は桜たちと違って歌唱力があり、声もきれいで非常にうまかった。俺は浩香の歌の方が断然いいが、アドルフは沙織の歌声をすごく魅力的に思った。
「どうでしたか?」
沙織は遠慮がちに聞いたが、「ふん、桜、どうよ。」と心の中で思っていた。
「ふ、ふん、まあまあね。もういいわ、あ、デクスターさんもどうです。」
桜は気を取り直してアドルフに聞いた。
「僕ですか?そうですね。自身はありませんが」
アドルフは小倉に「進撃の巨人」のアニメで使われた「自由の翼」という曲を頼んだ。
アドルフがこの曲を選んだ理由は「自由の翼」にはドイツ語がたくさん使われていてドイツ人であるアドルフには歌いやすいのとこの曲を聞いてみてかつてのドイツ(そして日本)の心情を歌っているように思えて何とも言えない気分になったからだ。ちなみにアドルフは「進撃の巨人」の登場人物がドイツ人(ミカサは日本人だが)だと聞いて彼らのモデルがかつてのドイツ陸軍なのでは?と思っていた。まあ、証拠はないが浩香もアドルフと同じことを考えたことがあったらしく、俺も2人から理由を聞いて「そうかもしれない」と思った。
まあ、ともかく、アドルフは音楽が始まると歌い始めた。
「おお」
桜たちは言葉を失った。
アドルフも歌が非常にうまく、プロ顔負けだった。特に沙織は
「素晴らしいわ」
と聞き入っていた。沙織もアドルフの歌をすごく魅力的に思ったんだ。
「どうも、いかがでしたか」
アドルフは控えめに聞いたが、桜は
「え、ええ、お上手ですね。素晴らしいです。」
桜は何とか答えた。
「ありがとうございます。」
アドルフは笑顔で答えた。
パーティーはそれから少しして終わり、桜や部下たちは全員、眠り込み、外にいる警備の人間だけが起きていたが、こいつらも料理と酒のせいで緊張感を欠いた感じで中で何が起きているか気にする者は皆無だった。
アドルフはパーティが終わると客室に戻ったが、最後まで後片付けや掃除をやらされていた沙織が桜たちが全員、寝静まったのを確かめるとアドルフの部屋にきた。
「カールさん、桜たちは寝てます。行きましょう」
「ああ」
2人は玄関の前に設置されているガンロッカーの前に向かった。
アドルフは持ってきた針金でいとも簡単にガンロッカーを開いた。
ガンロッカーの中にはライフルが8丁とショットガンが4丁入っていた。
ライフルはイギリス製L85A1とロシア製AK47とAK74、中国製の81式と95式、そしてAK47のコピーである五六式、韓国製のK1とK2
ショットガンはロシア製イズマッシュ・サイガの12ゲージバージョンと20ゲージバージョン、中国製のノリンコN97とノリンコN1887だった。
「なるほどな」
アドルフはガンロッカーにしまわれていた銃に使用する弾薬をすばやく確認するとロッカーを閉じた。
次の日、アドルフは桜が用意したやたら豪華な朝食を大広間で取り、桜たちとこれからのことを話した後、インスパイアに乗って帰ることにした。
アドルフは桜がもしかしたら尾行を着けているかもしれないと思ったが、尾行は付いておらず、単なる杞憂に終わった。桜はアドルフのことを完全に信じ切ったらしい。
アドルフは俺が中央区に借りておいた借家に向かい、俺と合流した。
「待ってたぜ、どうだった?」
俺は聞いた。
「ああ、完璧だ。さっそく、仕事にとりかかろう」
アドルフは在日米軍の兵士から安く手に入れたハンドロードマシーンを取り出しながら言った。
「ああ」
俺も米軍基地や射撃場で拾ってきた空薬莢を持ってきて言った。
俺たちはまず、ライフル用の実包に本来のライフル用の火薬ではなくショットガン用の火薬を詰めて桜の家のガンロッカーに入っていた銃に適合する実包を作った。
ちなみにライフルとショットガンに使われている火薬は性質が異なり、ライフル用の実包にショットガン用の火薬を詰めて撃ったらそれは爆薬となってしまう。俺たちはそれを知っていたのでショットガン用の火薬を詰めたライフル弾を作ったんだ。これを桜のガンロッカーに入ってる弾とすり替える。
それと同様にショットガンに使う実包もハンドロードした。こちらの方には化学肥料をベースにして作った爆薬を詰めた。みんなは「化学肥料?」と思うかもしれないが化学肥料にはリン酸カルシウムという物質が含まれているものがあり、この物質が入っている肥料を使うと爆薬を作ることができるんだ。この爆薬の作り方は浩香が本を読んでいたときに偶然、見つけて俺に教えてくれた。だから、今回の作戦で利用することにした。
俺たちは弾をハンドロードし、次の日、中央区に桜に買い物をさせられて帰る途中の沙織に渡した。
沙織はその日の深夜に桜たちが寝静まると松浦の部屋からカギをくすねてガンロッカーを開け、俺たちがハンドロードした弾をそこにあったものとすり替えた。
沙織はカギを松浦の部屋に戻し、ニヤリと笑いながら部屋に戻った。
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